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    maymfdear5

    @maymfdear5

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    maymfdear5

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    渉友です!未完成!!!尻叩きでとりあえず途中まであげます。
    シャッフルの車を運転する渉に興奮して書き始めたんですけど放置してました。ちゃんと書きます。

    #渉友
    friend

    ほんとうに大切なもの まだ春だというのに、日中は太陽が燦々と輝いてちょっと汗ばむ陽気だった。
    なんだか夏みたいですね、なんて話して苦笑いするスタイリストさんに何度も汗を拭ってもらいながら撮影を終えたのに、帰路に着く頃にはどんよりと暗い雲が空を覆ってふるりと身震いする肌寒さになっていた。
    "夜から明け方にかけて雨が降るでしょう"なんて言ってた天気予報を思い出して、春ってなんだっけとぼんやり考えた。肩を少しさする。あーあ、寒くなってきた。半袖はまだ早かったなぁ。
    すんっと鼻を鳴らして息を吸えばほんのりと雨の匂いがした。葉桜の中にまだ少しだけ咲いているのんびり屋な桜も、雨に降られたら落ちてしまうかもしれない。
    雨に濡れる前に、帰らないと。

    **

    ぐーっと腕を上に持ち上げて大きく伸びをする。骨が疲労に音を立てて、じわじわと血液が巡っていく。ずいぶん集中していたみたいだ。
    ふと時計を見てみれば時間は自分で思っていたよりも早足で駆けていたようで、もうすぐ一日が終わろうとしていた。
    しとしと、ぽたり。小さな雨の音がする。最近の天気予報はよく当たる。
    ぴかぴかと通知が光るメッセージアプリが目に留まってスマホに手を伸ばす。マナーモードにしてたせいで通知に気づかなかった。誰だろう。Ra*bitsのグループか、マネージャーか、はたまた家族か。何の気なしにメッセージアプリを開いた自分の喉がヒュっと間抜けな音を立てた。
    『お向かいのコンビニにおりますよ☆』
    受信時間は1時間ほど前。もう居ないかもしれないとか、何でいきなりとか。そんなことなんにも考えないままスマホと財布だけを持って家を飛び出す。雨は降り続いていた。
    あの時 濡れる前にって急いで帰ってきたのに、今は傘も持たなかった。

    夜に似合わないコンビニの光に照らされる長い銀髪。記憶の中のド派手な服とは違うシンプルな白いシャツ姿は全然見慣れなくて、なんだかこっちが落ち着かない。ただ立っているだけで絵になる真っ直ぐに伸びた背筋のその人は、水を弾いてぱちぱちと音を立てる傘をぼんやりと見上げていた。
    大きく、深く、息を吸う。俺が彼に習った、舞台で使う腹式呼吸。
    雨に負けない声を、あの人に届く声を、出さないといけないから。
    「──ッ日々樹先輩!!!!」
    すこしだけ、声が震えた。でも真っ直ぐで、通る声が夜に響いた。手にじっとりと汗をかいている。とめどなく降り注ぐ雨に濡れてしまうのも、もう、なにも気にならない。
    「……Amazing☆水も滴る良いうさぎさんですねぇ!」
    ゆっくりとこちらを向いた紫の瞳をまんまるにして、それからすっと細めた。夜に溶けるように静かで、雨の中でもあたたかい声。彼がゆっくりと歩みを進めて、俺に傘を差し出す。ぱちぱち、ぱちぱち、音がする。
    「お久しぶりです。友也くん」
    「お久しぶりです。日々樹先輩」
    おんなじ言葉を2人分。目を合わせて。声はもう震えない。
    最後にふたりで顔を合わせて話したのは彼が卒業した時だった。もう3年も前のことだ。
    彼も、俺も、会わない間でたしかに変わったはずなのに、なんにも変わってないような不思議な感覚が2人の間に漂っていた。
    「行きましょうか」
    開けられた車のドアと彼の顔を交互に見て、素直に乗り込む。初めて乗る彼の車は晴れた春の日みたいな綺麗な空色で、コロンとした形がなんだか可愛い。俺にはまだゆとりがあるサイズだけど、彼の長い脚には小さすぎるみたいで、ぎゅっと縮こまっているのが少し滑稽だった。
    ゆっくりと、車が動き出す。ぱちぱち、ぱちぱち、雨の音が響く。どこに行くのかも、なにをするのかも、なにも分からないけれど、それでいいと思った。彼が連れていってくれる場所ならきっと俺には想像できないくらいAmazingなどこかだろうから。

    **

    会っていなかった時の流れを埋めるように弾んでいた会話も闇に飲まれるようにいつしかぽつぽつと少なくなる。それもやがて不意に途切れて、そのまま静寂が車の中を満たし始めた。
    話したいことがなくなったわけじゃない。むしろまだ沢山あるのに、その静寂がひどく心地よかったからか2人ともそれ以上話さなかった。窓の外に広がる夜は俺の知らない場所を映しては消えていく。
    彼はちいさく鼻歌を歌いながら運転し続けていた。カーステレオで流している曲はむかしむかしの洋画の曲だった気がする。演劇の題材にするって言われて一緒に見たような。見ていないような。許されない恋をして別れた2人が、巡り巡ってまた恋に落ちる話だったはずだけど、もう曖昧な記憶だ。
    今何時だろう。どこに向かっているんだろう。気にならないと言えば嘘になるけれど、聞きたいかと言われればそうでも無い。
    ただちょっとだけまぶたが重くなってきて、彼の鼻歌が途切れ途切れになっていく。
    「まだ掛かりますから、眠っていていいですよ。お疲れでしょう」
    「ん……でも、」
    「着いたら起こしますから」
    「……ありがとう、ございます」
    後部座席に手を伸ばしてふわふわのブランケットを俺にかけた。そのままそっと、控えめに俺の頭を撫でる。
    その手があたたかくて、優しくて、俺はやがて抗えない睡魔に身を委ねた。

    **
    「……もや、くん。と……やくん」
    「んぅ……」
    「友也くん、着きましたよ」


    「ほら、満天の星空ですよ!」
    「……曇りですけど」


    「たいせつなものは目に見えないのですよ。心で、見るんです」
    「星の王子さまですか?」
    「えぇ」
    短い会話を交わす彼の顔は暗くてよく見えなかった。ただ、じっと空を見上げていた。まっすぐに、真剣に。そこには無い星を見ている。
    まるで舞台の上だ。演者が「ほんとう」に見えているなら、その嘘は「ほんとう」になる。
    だから今夜も、そこには確かに美しい星空が広がっていた。嘘みたいに綺麗な、2人にしか見えない星空。
    「綺麗ですね」
    「見えましたか?」
    「うん」
    そのまま黙って空を見上げていた。思いのほか近くに立っていた彼の手が俺の手に触れる。ふと隣を見て、思わず彼の手を掴んだ。
    「……友也くん?」
    こちらを見る彼は驚いたように目をまんまるくしていた。澄んだアメジスト。
    「あ、の、えっと」
    「どうかしましたか?」
    月明かりもない夜の中で彼の顔は良く見えていなかった。それでも、うまく言葉にできないけれど、彼が泣いているような気がしたのだ。
    ずっと、何かおかしいと思っていた。雨の日に星を見に行こうとしたことも、あんなに騒がしかったこの人がやけに静かなことも、なんの連絡もしてなかったのに俺に会いに来たことも、ぜんぶ。ぜんぶ。
    手を掴んだまま何も言わない俺を見て彼はぱちぱちと数度瞬きをした。それから、ふっと小さく笑った。
    「あぁ、疲れましたよね。そろそろ帰りましょうか」
    「ッ──あの!」
    なにか、言わないと。その思いだけが俺の口を動かしていた。
    「あの、俺、ちゃんと見てるよ」
    こぼれ落ちそうなほどにアメジストの瞳が見開かれる。掴んだ彼の手の指先は酷く冷えていた。車の中で俺の頭を撫でたあたたかな手と同じとは思えないほど頼りなさげな手だ。俺の体温を分けるようにぎゅっと握りしめる。この時ばかりは子ども体温で良かったと思った。
    「友也くん……?」
    言わないと。今。彼がまた隠してしまう前に。繋ぐ指先から、合わせた瞳から、紡ぐ言葉から、俺のぜんぶを伝えないと。その思いだけが俺の口を動かす。
    「あんたのこと、ちゃんと見てる。ずっと追いかけてるから。まだまだあんたの隣には立てないし、髪の毛の先にだって届いてないけど。でも、ッあーー、もう。なんて言えばいいのかわかんないけど!──会ってない時も、俺の心にずっと居たんだよ」
    ひと息にそう言いきって、そこでやっと彼の顔をきちんと見た。呆けたように間抜けで、驚いたように口を開いて、それでもやっぱり綺麗な顔だった。
    ぱちぱちと瞬きをしたその瞳は涙で濡れてはいなかったけれど、もう一度、ぎゅっと手を握り直して言葉を紡ぐ。
    「あんたは、日々樹渉は、俺にとって、ほんとうにたいせつだから」
    彼はふっと瞳を細めて、それから俺の手を強く握った。繋いだ手を優しく引かれて、気づいた時には彼の心臓の音を聴いていた。抱きしめるでもなく、ただ胸に引き寄せたまま何も言わないから俺も何も言わなかった。じっと、同じリズムで鼓動を刻む音だけに耳を澄ましていた。
    彼の匂いに混じって雨の匂いがする。また降るかもしれないな、なんてぼんやりと思っていた時、彼がぽつりと声をこぼした。
    「……少し、疲れていたんです」
    「……うん」
    「あぁ、疲れたな。と思った時に、ふと夢ノ咲の頃を思い出しました」
    「そっか」
    「卒業してからもう3年も経つというのに、鮮明に思い出せるんです。夢ノ咲で過ごした日々を、酸いも甘いもなにもかも、全てのことを」
    「うん」
    ぽつり、雨粒が頭を濡らした。ぽつり、ぽつり、だんだんと強くなる雨から守るように彼の背に腕を回せば、遠慮がちに彼の腕も俺の背に添えられる。
    「記憶をたどって、思い出に触れて……。そうしたら、あなたに、友也くんに会いたいと思ったんです」
    「……俺に?」
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