夏の名残の梔子を 三年目にもなると、なんとなく気づくことがある。
まだ暑さが残るこの季節、水上がふと遠くを見ることがある。暦の上でやってきた秋と引き換えに、遠くなっていく空と夏を追いかけるみたいに。口元だけにかすかな、そこか哀切をともなった笑みのようなものを浮かべて。
それは普段は決して――生駒とふたりきりの時であっても――見せることのない表情だった。
「なんでやろな」
「なんでだろうな」
「……弓場ちゃん、もうちょっと親身になってくれてもええんちゃう?」
生駒は甘えるように同輩を上目遣いで見る。机に突っ伏してるから当然だが、もっとも立ったところでも身長差はあるのでどのみちやや見上げることになるのだが。
「講義が終わったってェーのに、教室も出ねェでおめェーの話を聞いてるだけ優しいと思うが?」
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