SS_0331「あかんで」
一言そう言って、彼はただでさえ常から険しい目つきを一層尖らせた。
いや、顔怖いわ。そう言って茶化せなかったのはその否定が割と二人でいるときによく投げかけられるものだったからで、且つ、きっとその否定が彼の根っこの部分から出ているからだ。
彼はふざけたところの多い人だが、土台は頑固で割とワンマンなタイプだ。気に食わないことははっきりと伝えてくるし、こちらにも同様のコミュニケーションを求めてくる。俺は然程気にならなかったが、隠岐なんかは最初気圧されていたのを覚えている。そして残念ながら、彼本人にその自覚はない。
そもそも、彼の倫理感は真っ当だが古臭く、お祖父さんに居合を習っていたと聞いたときはひどく納得したものだ。令和では部下の価値観を真っ向から否定するのはハラスメントになりかねないのである。これも、いつか教えてやるべきだろうか。
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