unknown 第一印象は最悪だったはずだ。
インカムから響く焦った声。頻りに俺の名前を呼ぶ男のそれに、思わず吐息を零して笑えば、安全圏にいるはずの男が恐怖を滲ませてもう一度俺を呼ぶ。懇願にも似た響きだった。
「…悪いなあ。俺はやっぱりお前の駒にはなれへんかった」
『やめてくださいよ。そういう昔を振り返ったりとかいらんから』
「でもな、言えんくなるかもしれんやん」
『せやから。そういうこと言わんといてください』
後生やから。そう悲嘆に塗れた言葉を聞いて、胸の中がジワリと熱くなる。この情動はなんなのか。考えるまでもなかった。
いけ好かなかった男が、いつの間にやらかけがえのない存在になっていた。
あの男の声を聴きながら、剣を振るうのが楽しかった。思い通りにならない苛立ちが徐々に呆れに代わっていくのをざまあみろと思っていた。インカム越しでないあの男の声で出迎えられるのが、好きだった。
「水上」
『…』
「水上って」
『…はい』
「気付いてたと思うけど。俺お前のこと好きやってん」
『…何で今言うねん』
「今やからこそやで。なあ。俺が戻れたら付き合ってくれへん?」
ずるいやり口だとは思った。ほとんど脅しだ。
それでも、死に瀕した相手をきっぱりと拒絶できるほど、あの男が残酷ではないことを知っていたから。だが、そんな風に考えていた俺の耳に入ってきたのは、きっぱりとした男の否定だった。
『嫌です』
うわ、フラれてもうた。
ただでさえ霞む頭の中が、失恋で更に緩やかに白んだ。死にたくはないけど、俺の命を刈り取るのがあの男なのであれば、それは本望な気がする。
目を閉じようとしたところで、男の声が名前を呼んだ。ぼやける思考の中でも、男の声だけははっきりと俺の耳に届く。祈るように吐き出される震えた声だった。
『ちゃんと、直接、言うてください』
なにを。ああ、告白を、だったりするのだろうか。
都合のいい解釈にもう一度笑って、俺は今度こそ目を閉じた。
***
「というわけで付き合ってほしいねん」
「人の忠告聞かんと危険区域に凸った挙句ボロカスになって死にかけたアホときく口はないんで」
「ごめんて」