unknown 第一印象は最悪だったはずだ。
インカムから響く焦った声。頻りに俺の名前を呼ぶ男のそれに、思わず吐息を零して笑えば、安全圏にいるはずの男が恐怖を滲ませてもう一度俺を呼ぶ。懇願にも似た響きだった。
「…悪いなあ。俺はやっぱりお前の駒にはなれへんかった」
『やめてくださいよ。そういう昔を振り返ったりとかいらんから』
「でもな、言えんくなるかもしれんやん」
『せやから。そういうこと言わんといてください』
後生やから。そう悲嘆に塗れた言葉を聞いて、胸の中がジワリと熱くなる。この情動はなんなのか。考えるまでもなかった。
いけ好かなかった男が、いつの間にやらかけがえのない存在になっていた。
あの男の声を聴きながら、剣を振るうのが楽しかった。思い通りにならない苛立ちが徐々に呆れに代わっていくのをざまあみろと思っていた。インカム越しでないあの男の声で出迎えられるのが、好きだった。
914