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    haruichiaporo

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    haruichiaporo

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    診断メーカー様のお題を借りた名夏

    これとてもななつっぽいとどうしても捨てきれず残してたログです

    100回しても帰れない「じゃあ、交代で10回ずつやりましょう」
    それは夏目を送る帰り道のことだった。全く不意の出来事で異空間に迷い込んだ。何にもない真っ白な四面に囲まれて、ドアの上にはカウンターらしきアナログの掲示板と『ここは100回キスしないと出られない部屋です』という横断幕。それを交互に眺めてドアノブを捻る。ポーン、と何処かからアナウンスの音が横断幕と同じ言葉を繰り返す。腕組みをする名取の後ろで夏目はあっさりとそう言い放った。
    「え?交代でって…」
    「100回なんて直ぐですよ!だって名取さんは慣れてるでしょう?」
    「あぁ…いや、うん…うん…そうかな」
    確かに慣れているといえば慣れている。つい先日の映画で、ヒロインの手の甲に口付けしたのは夏目にも見られている。きっとその他のドラマでも名取のキスシーンは目に入っているんだろう。けれど、恋人から『慣れてるでしょう』と言い切られるのは微妙だ。キスぐらい屁でもないというぐらいに『さぁやりましょう!』と構えられるのも酷く微妙だ。
    「夏目って変なところで潔いよね…」
    振り返って夏目と向かい合うと、真顔で首を捻られる。付き合っているとはいえ、キス以上の重なりも済ませているとはいえ、この反応も頂けない。この少年にとって自分とのキスはそんなものなのかとなんだか悲しくなってきた。あぁ、さっきまでほわほわと幸せな気持ちで薄の穂が出てきましたね、なんて川の端を眺めていたのに、帰り際にキスをしようか迷っていたの自分だけということか。
    「名取さんが変なとこでうじうじしてるんですよ。遅くなると塔子さんも心配しますし、じゃあ行きますね」
    「え」
    ぐい、と襟元を引き寄せられて頬に柔らかな感触が触れる。
    「ほっぺもカウントされるのかい?」
    「大丈夫みたいですよ、ほら」
    促されてカウンターを見上げると昭和の雰囲気を漂わせるカウンターがカシャンと一枚捲られた。夏目に視線を戻すと、二度目のキスが押し当てられる。押し当てる、という表現がぴったりの色気も何もないキスだ。そしてまたカシャン、とカウンターが鳴る。とてもキスとは言えない代物だが夏目にとっては罰ゲームぐらいの感覚なのかもしれない。
    「はい、10回!じゃあ次は名取さんです」
    タスクをこなした、という顔で夏目が手を離す。それに憤りを隠せなくなった名取は、その手をそっと捕らえて指先にキスを落とす。
    「な」
    「指先でも、キスだろう?」
    にっこり、と笑ってカウンターの音を確認する。まだ幼さが残る夏目のことだ。百回なんて直ぐですよ!というぐらいにはまだキスに続く欲求が淡白なんだろうことは知っている。
    「手の甲とか、手首…腕でもいいんだな、ほら」
    そんな夏目が相手なのだから仕方ないとは思いながらも、こんなキスはキスではないと思ってしまう。名取がどれだけの一大決心でその一線を越えたのか、夏目自身は想像することもないんだろう。触れる瞬間の伏した睫毛も、その震える姿にも胸が跳ねて、乱れそうな呼吸を抑えるのに必死だった。それは今でもそう大差ないのに、あっさりと百回のキスをこなそうとされるのはなんだか、複雑な気分だ。
    「う…そんなゆっくりしなくても」
    腕の内側に触れられるむず痒さに夏目が肩を竦める。少しは意識してくれていいのだけれど、と名取は上目遣いに見上げながら夏目の頬に20カウント目のキスをした。
    「夏目にぞんざいなキスなんかできないよ」
    「はぁ…」
    多分、まだ分かっていないなと思いながら名取は夏目からのキスを促す。今度は少し屈んで、夏目の腰に手を寄せた。夏目の腕がその上に重ねられて、ダンスを踊るようにぴとりと体を寄せる。
    ちゅ、と夏目は名取の顎に口付ける。それが繰り返されるたびにカシャン、カシャンと音がする。とてもアナログな音だけれど見なくても確認できるのは案外便利だ。27、28と心の中で数えながら名取は30カウント目を待っていた。
    「夏目も、少しゆっくりにした?」
    「う…名取さんが変にゆっくりするからですよ!はい、30!」
    少し照れた表情が嬉しくて、体を寄せたまま額に顔を寄せる。態と音を立てて離れれば夏目が大きく息を吸った。回した手から背筋が強張るのがわかる。これはいい機会かもしれないな、と名取は殊更に緩やかにキスを落とし続ける。大人しく100回のキスを交わさせてくれるなんて千載一遇のチャンスとも言える気がしてきた。
    「ん、もぅ 」
    38
    「どうかした?」
    「時間、掛け過ぎですよ」
    「…そう?」
    39
    「交代、だね」
    夏目の顔を覗き込んで、40カウント目のキスを鼻先に落とす。潤んだ瞳が名取の悪戯心に拍車をかける。次はどうして触れようかと胸の奥がそわそわする。
    「腕、貸してください」
    「───いいよ」
    意を決したような夏目の表情に、名取は腕を差し出した。戸惑いながらも名取の腕に手を添えて、唇を寄せる姿がいじらしい。いちいち聞こえるカウンターの音さえも煩わしく聞こえる。夏目の唇の音が聴きたくて耳を澄ませれば、合間に漏れる呼吸音でさえも名取の耳には心地よく届いている。
    「50、です」
    名取のやり方を模したのか、最後の一度をゆっくりと離して夏目が深く息を吐いた。薄桃色の唇は紅がさされたように色付いて、名取の視線を釘付けにする。次は名取の番だ、と夏目は名取の腕を手放して視線を挙げた。
    「なつめ」
    51回目のキスをしようと名取は夏目の額にコツンと頭を乗せた。
    「口にしても、いい?」
    夏目の視線が逃げて、瞬目するの見つめていた。まだ、あと半分。夏目に少しぐらい意識させるには十分過ぎる猶予があると思いたい。
    「ダメって言ったら、しないんですか?」
    上目遣いに見上げられて、名取の方がどきりとする。いやいや、それではダメだと気をとり直して口の端を持ち上げた。
    「駄目って言われたら、諦めるけど」
    そっ、と夏目の頬を持ち上げて、拒まれないことを確認する。『慣れている』それは表の仕事としては確かにそうだけれど、夏目は知らないのだ。夏目に触れる瞬間に名取がどれだけ神経を研ぎ澄ませて、夏目の様子を伺っているのか。大画面に映し出されるよりずっと、夏目とのその一瞬に心を込めているのか。
    カシャン、とカウンターの音がする。一度離れて、また寄せる。二度、三度と重ねればどちらからともなく吐息が上がる。
    「は…」
    58、59と数字が重なる。60を過ぎても、名取はまだ夏目の唇を食み続けた。
    「や、もう6…」
    避けようと開いた唇に舌先を伸ばして声を押し込める。
    「ん、嫌…」
    70回を超えて、夏目の背中が反り始める。脚が震えて、傾きかける背中を支えて座り込んだ。
    「も…なと、りさ」
    「うん、やりましょうって言ったの夏目だもんね」
    逃れようとする体を捕まえて、真っ白な床に張り付ける。カウンターは86を記して、それを最後に名取は確認するのをやめた。
    「や…っ…ん」
    口では拒んでも夏目の腕は名取の肩を捕らえている。本気で拒まれることなんてないのだし、本当に日没が早くなって門限が気になったが故の発言だったことは名取も分かっている。
    それでも時々不安になる。夏目が本当に受け入れてくれているのか、離れないでいてくれるのか、名取を求めてくれているのか、お別れのキスをした帰りの電車ではもう不安で堪らなくなるのが名取だ。

    ぽーん
    『おめでとうございます、100回達成です。どうぞ慌てず外に出られてください』

    「あ…」
    淡々と告げられた達成報告に二人でドアを見つめて顔を合わせる。
    「…どうしようか」
    「どうしようか、じゃないですよ…もう」
    頬を紅色に染めた夏目が口元を隠して、深呼吸をする。その上に跨った名取も体を起こして、大人気なかったかな、と乱れた髪を整えた。途中で『嫌』と言われたのを聞こえないふりをしたことを思い出して、ますます居たたまれなくなった。
    「……ごめんな」
    ついムキになって唇を貪ったことを反省して、夏目の頭を撫でる。どのぐらい時間が経っているのか、外の様子を伺おうと膝を立てると、名取のシャツの裾を夏目が引き止めた。
    「え?なつ…」
    「帰りたくなくなるから、こんなキスしたくなかったのに」
    夏目の言葉に瞬きをして、名取は立てた膝を床に戻した。まだ顔を隠したままの夏目の掌にキスをして、こめかみに顔を寄せる。夏目の腕が力なく名取の背中を掴む。名取の耳元で囁かれた声に、破顔した名取がぎゅうと抱き締めて返す。
    「あぁ…私もおんなじだよ」
    101回目のキスを落として、名取はまだ塔子に電話するには遅くないだろうかと逡巡する。お別れのキスをしたいのは自分だけではなかったのだと安堵したのは、可愛い恋人にはまだ、秘密にしておこう。



    診断メーカーさま、今日の二人は何してる?よりお題をおかりしました。




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