それは、二度美味しい【それは、二度美味しい】
いっそ消えてしまえば良かったのだ。そうすればこんな葛藤も、くだらない自問自答も、その一切は必要がなかった。
周囲を入念に見渡し、人影がないのを確認すると、俺は改めて自身の手元を見た。回復アイテム「かんだガム」がそこにはあった。それもただのガムではない。「閣下のかんだガム」なのだ。
誰がどうして噛んだガムをもう一度噛もうなどと思いついたのか。消費アイテムが一度使っても消えないなんて、そんなことがあって良いものか。何者かが味わい尽くし、吐き出したガムを後でもう一度味わわされるなどと……想像するだけでゾッとする。とてもじゃないが正気ではない。そもそも何故噛んだ後のガムに微量ながらもHP回復効果があるのか。しかもレベルが低い内はガムよりも噛んだガムの方がむしろ良い塩梅であることも多々あるのが憎い。
まあ、それはさておき、だ。
事実として、閣下が先の戦闘中に召し上がったガムが此処にはある。アイテム整理を一任されている俺は、携帯袋からこれを発見した。道中得たアイテムはよほど希少なものでない限り、煮るなり焼くなりお前の好きにしろと閣下より命じられている。
もう一度手元を見る。ごくり、喉が鳴る。いや、流石に幾ら何でもそれは……
「……」
主人とはいつもと同じ顔では、もう、会えないかもしれないと思った。
fin.
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診断メーカーよりお題
『「いっそ消えてしまえばよかった」で始まり、「もう会えないかもしれないと思った」で終わる物語』