あいにく一途な恋なので アパートの大家はなかなか押しの強い女性で、肝っ玉が据わっているというかなんというか、かなりパワフルな人だった。おかずが余ったからと言ってはお裾分けをしてくれるし、うちの旦那には内緒よとたまに銭湯の割引券もくれる。姉御気質な性格は悪くはないが、少々世話を焼きすぎるきらいがあった。
「――あ、赤鹿くん。この前の釣書、見てくれた?」
月曜の早朝、出勤するためにアパートの外階段を下りていると、例の大家に声を掛けられた。ふと視線を落とすと、大家が大蔵を見上げていた。ふっくらとした面差しが快活さを醸し出していて、彼女に会うと妙にほっとした。
「梅雨入りしたっていうのに、天気が良いわね」
おはようの挨拶もそこそこに、大家の手が忙しなく動く。あちらこちらへ箒を動かし、地面に落ちた小枝や落ち葉をかき集めている。太陽にも負けない笑顔が朝から眩しかった。
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