Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    chanuitei

    だいごの創作はこちらにアップしております
    囚人愛

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 13

    chanuitei

    ☆quiet follow

    #墓囚版深夜の60分一本勝負
    第47回 お題『望遠鏡』お借りしました

    #墓囚
    prisonerOfTheTomb

    telescope「今夜二人で星を見ないかい?」
    ルカのその誘いにアンドルーは二つ返事で頷いた。
    約束の時間、待ち合わせの庭へ行くと白くて長い筒を覗き込むルカの姿がある。
    「なんだそれ」
    「ああ、ちょうどいいところに来たね」
    白い息を吐きながらこちらを振り返る。焦げ茶色のしっぽのような髪が揺れた。
    「覗いてごらん」
    上を見上げれば満天の星空があるというのに、筒を覗けとはどういう事なのか。頭の良い奴の考える事は僕にはわからない。
    言われるがままに筒を覗き込むがぼんやりとしてよく分からない。
    「ああ、違う違う。片目で見るんだ」
    ルカは僕の背後に回って、筒を握る僕の手に手を重ねてこうやるんだと教えてくれた。
    近い距離に跳ねる心臓の音が聞こえませんようにと祈りながら、言われた通りに筒を覗く。
    「何が見える?」
    「ボコボコと凹んでる……電球……?」
    「ひひっ君にはそう見えるのか!」
    体を震わせて笑っているのが伝わってきた。
    「馬鹿にしてるのか?」
    「そんなわけが無いだろう。今君が見ているのは月だよ。これは望遠鏡といって、遠くにある対象物を近くにあるように見せる装置だよ」
    にわかには信じがたい。月は遥か遠くにあるのにそれがこんなに大きく見えて、更にはチーズのように穴ぼこが空いているなんて。
    「空を見上げれば満天の星が見えるが、こんな風に星を見るのも悪くないだろう?」
    振り返ってルカを見れば、八重歯を見せて楽しそうに笑っている。そして背中に体にピタリと寄せてきて服越しにルカの体温をじわりと感じた。体が密着して、表情はよく見えない。
    静寂が僕らを包んで、早鐘を打つ心臓の音がルカに聞かれてしまうのではないかと心配になるが突き放そうとは思えなかった。
    「月を近くで見るとこんな風になっているんだな」
    「遠くから見るのと、近くで見るのとではまた印象も変わる。不思議だね」
    「この白い筒があれば、人の心も近くで見えるか?」
    振り向いて肩越しにルカを見て尋ねると、顔を上げた目と目があった。片目をぱちくりと開いてから、目を細めてこう言った。
    「君は可愛らしいね、アンドルー」
    「今度こそ馬鹿にしているな?!」
    「違う違う」
    はははっと楽しそうに笑う声が静寂と暗闇を駆け抜けて、満天の夜空に響き渡った。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    chanuitei

    DONE #墓囚版深夜の60分一本勝負
    2021.12.18
    お題『横顔』
    お借りしました。

    荘園を出たあとのお話
    横顔あれから、もう何度季節を見送っただろうか。

    荘園でのゲームをクリアして、各々が自ら望む場所へと帰っていった。荘園で出会った一部の人間とはたまに手紙のやり取りをしている。中でも、ビクター・グランツとはよく連絡をとっている。手紙の内容は代わり映えのない近況報告。それでも、友人と呼べる人間なんていなかった僕からしたら、とても価値のあるものだ。
    荘園でのゲームはクソッタレな内容だったが、大金以外にも僕に沢山のものを与えてくれた。

    一つ目は他人との関わり方……いや、この言い方だとビクターに怒らてしまいそうだから
    、友人、と言い変えよう。
    ゲームは他サバイバーと協力、意思の疎通ができないと勝てない。これが僕にはとても難しかった。化け物の僕となんて、誰も話したがらない。ましてや、協力なんて無理な事だ。そんな僕に荘園のメンバーは根気よく付き合ってくれた。中でも、同じ頃に荘園に来たビクター、ルカは僕に寄り添ってくれた。ルカとは言い合いにもなった。ルカは柔らかそうな顔の裏でとても頑固で自分の意思を曲げない。一度火がつくと感情を面に出すくせに、ほとぼりが冷めると言い過ぎたとしょぼくれる。そんな僕達をビクターは呆れることなく、見守ってくれていた。
    1413

    chanuitei

    DONE #墓囚版深夜の60分一本勝負
    2021.09.11
    お題「鮮やか」お借りしました。
    花ざかりアンドルー・クレスのとある日の日記

    ++

    荘園には鮮やかな花が咲いている。庭師の女……エマ・ウッズが手入れをして花を咲かせているらしい。風に乗って香る花の匂いを肺いっぱいに吸い込むと、心に暖かいものが灯る。
    花は、好きだ。晴れた日の庭に出て、花を愛でたいが太陽は僕の肌を焼き尽くそうとしてくるので、それは叶わない。
    若葉が育ち、蕾ができて、いのちにみちあふれていま開こうとするその瞬間をできるのであれば、僕は沢山見てみたい。青く澄んだ空の下で太陽の下でキラキラと光る色とりどりの花達。その花の周りを飛ぶ蜜蜂。花咲くことは命の誕生だ。その光り輝く命の中に僕はいられない事が凄く寂しくて、そして羨ましかった。
    この荘園に来てからも、僕は隠遁とした生活を送っている。共に戦うサバイバーとは、ゲームをする上での最低限のコミュニケーションをするだけ。一部の奴等は、僕がテーブルに俯いて誰とも目を合わさないようにしているのに、そんなのお構い無しに話しかけくる。そいつらには真っ白で化け物と罵られてきたこの見た目が、普通の人間に見えているらしい。変な奴らだ。
    1163

    related works

    recommended works