telescope「今夜二人で星を見ないかい?」
ルカのその誘いにアンドルーは二つ返事で頷いた。
約束の時間、待ち合わせの庭へ行くと白くて長い筒を覗き込むルカの姿がある。
「なんだそれ」
「ああ、ちょうどいいところに来たね」
白い息を吐きながらこちらを振り返る。焦げ茶色のしっぽのような髪が揺れた。
「覗いてごらん」
上を見上げれば満天の星空があるというのに、筒を覗けとはどういう事なのか。頭の良い奴の考える事は僕にはわからない。
言われるがままに筒を覗き込むがぼんやりとしてよく分からない。
「ああ、違う違う。片目で見るんだ」
ルカは僕の背後に回って、筒を握る僕の手に手を重ねてこうやるんだと教えてくれた。
近い距離に跳ねる心臓の音が聞こえませんようにと祈りながら、言われた通りに筒を覗く。
「何が見える?」
「ボコボコと凹んでる……電球……?」
「ひひっ君にはそう見えるのか!」
体を震わせて笑っているのが伝わってきた。
「馬鹿にしてるのか?」
「そんなわけが無いだろう。今君が見ているのは月だよ。これは望遠鏡といって、遠くにある対象物を近くにあるように見せる装置だよ」
にわかには信じがたい。月は遥か遠くにあるのにそれがこんなに大きく見えて、更にはチーズのように穴ぼこが空いているなんて。
「空を見上げれば満天の星が見えるが、こんな風に星を見るのも悪くないだろう?」
振り返ってルカを見れば、八重歯を見せて楽しそうに笑っている。そして背中に体にピタリと寄せてきて服越しにルカの体温をじわりと感じた。体が密着して、表情はよく見えない。
静寂が僕らを包んで、早鐘を打つ心臓の音がルカに聞かれてしまうのではないかと心配になるが突き放そうとは思えなかった。
「月を近くで見るとこんな風になっているんだな」
「遠くから見るのと、近くで見るのとではまた印象も変わる。不思議だね」
「この白い筒があれば、人の心も近くで見えるか?」
振り向いて肩越しにルカを見て尋ねると、顔を上げた目と目があった。片目をぱちくりと開いてから、目を細めてこう言った。
「君は可愛らしいね、アンドルー」
「今度こそ馬鹿にしているな?!」
「違う違う」
はははっと楽しそうに笑う声が静寂と暗闇を駆け抜けて、満天の夜空に響き渡った。