甘い深夜の珈琲は生存確認
お湯を沸かして珈琲をいれる。ルカが部屋にこもって出てこない時の決まり事だ。
僕は紅茶が好きだ。スプーン1杯の砂糖とミルクをたっぷりと入れる。
ルカは珈琲が好きだ。
砂糖もミルクも入れない熱い珈琲を啜る姿を見つめる。苦いお湯を飲んでいるというのに、ルカは美味しそうにほうっと息を吐いた。
僕はこの時間がとても好きだ。ルカの綺麗な横顔を見ながらぼんやりと思う。
ダークグレーの瞳。機械弄りに没頭しいる時はいつも垂れている目尻がキリリと吊り上がっている。
過集中がぷっつりと切れた時に、僕の存在に気が付いた時の申し訳なさそうに下がる眉尻。
「アンドルー。来てくれていたのか。すまない」
耳を優しく撫でるような僕よりも少し低い声。
それから、僕のいれた珈琲を一緒に飲む。
好きな人の好きな物。その時間を共に過ごせるのは楽しい。
でも、ルカに合わせて背伸びしたブラックコーヒーはやっぱり苦手だ。
視線に気づいたのか、不思議そうにルカは僕を見た。
僕はそれに『何でもない』と俯く。
ここはきっと、微笑みを返すところなんだろうけど、僕にはまだ難しい。
俯いた先にあったコップの中身の珈琲に、僕の情けない顔が映っている。
「もう明け方だが、お互い今日はゲームは無かったよな?
一緒に寝ようか。その方が暖かい」
顔を上げれば、甘ったるいほどの微笑みがあった。
それは大好きな甘い甘いミルクティーのようで、僕は甘さを中和するようにブラックコーヒーを流し込んで、返事の代わりにベッドに潜り込んだ。
ルカと過ごす時はブラックコーヒーがいい。でないと、糖分の摂りすぎで僕は砂糖漬けになってしまう。
アンドルー・クレスの砂糖漬け、なんて不味そうだ。
背中にルカの体温を感じながら僕は瞼閉じた。
明日も一緒に過ごせるだろうか。
過ごせるといい。