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    chanuitei

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    囚人愛

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    chanuitei

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    #墓囚版深夜の60分一本勝負
    2021.10.02
    お題『読書』『重み』お借りしました。

    #墓囚
    prisonerOfTheTomb

    私を呼ぶ声波間をたゆたう意識が、ぎい、ぎい、と音を立てて引き戻されていく。
    呼吸をひとつする度に、指先に感覚が宿る。
    どこかで雨の音がする。そして、火の爆ぜる音。
    ぎい、ぎい、ぎい……
    気づけば、私はロッキングチェアーに揺られていた。傍らには暖炉があり、薪がバチバチと音を立てながら火を踊らせている。
    夢うつつで聞いた音はこの音だったらしい。室内は薄暗く、暖炉の灯り以外、頼れるものは無かった。
    視線の先には窓があるが、木が打ち付けてあって何の灯りも見えない。ただ、雨が窓を叩くその音だけが聞こえてくる。
    まるで、この部屋全体が暗闇に飲まれているようだ。
    「やっと起きたのか」
    声のした方に視線を下げると、声の主は傍らにしゃがみこみ、赤い瞳でこちらを見上げていた。
    その人物は、髪も肌も白く、身に纏う黒い服がより、彼の白さをより際立たせている。美しい人だ。
    男の姿を目にした時から、無性に悲しい想いを感じた。理由も分からず叫び声を上げたいと一瞬感じたが、しかし、何を嘆くというのだろうか。
    ズキリ、と頭痛がした。
    「おはよう、ルカ」
    「君は……?」
    白い男はぎこちない笑顔で朝の挨拶をした。今は、朝、なのだろうか。一筋の光も入らないこの暗闇では、何も情報が入ってこない。
    「ぼんやりしているな?まだ目が覚めていないのか?」
    何もわからなくて戸惑う。男の様子からして、初めましてでは無いらしい。だが、私は彼のことを覚えていない。それどころか、何故ここにいるのかも、分からなかった。屋敷の一間ではあるらしいが、見覚えがない。
    いや、でもしかし、完全に「見知らぬ場所」と言いきれないどうにも形容しがたい感覚が残っている。懐かしいような……でもどこか、不安が募る。心が押し潰されるような、閉塞感。
    この場所、目の前の男は、自分とは無関係でない何かがあると感じる。
    「……その様子からして、また忘れてしまったのか?」
    ズキリ、また頭痛がした。
    「まあ、それももう慣れた。また僕が思い出させれば良いだけだ」
    肘掛に置いていた手をギュッと握られる。男の手はひんやりとしていて、体がビクリと跳ねた。
    そして、男は目の前にあった、一冊の本を手に取って開いた。
    「今から話すのは、僕……アンドルー・クレスとルカ・バルサー、あんたの物語だ」
    「私と、君の?」
    男は……アンドルーはまたぎこちない笑顔を向けた。それから、睦言のように甘さを伴った声で言った。
    「僕は、何度忘れられようとも、ルカの手を離さない。だから、あんたもこの手をずっと離さないでくれ」
    戸惑いながらも手を握り返した。
    「よく、わからないが君の手を離してはいけないことだけは……わかる気がする」
    そう告げると、アンドルーは今度は温もりを含んだ笑顔を向けた。
    「そうか。だったら、しっかりと思い出してくれよ。もしも、思い出せなかったら……」
    アンドルーは双眸をすっと細めて、あやしく微笑んだ。不思議な色をたたえる、赤い瞳をこちらに向ける。
    「僕が……あんたを……」
    言葉を待ったが、アンドルーはその続きを言わなかった。代わりにははっと笑った。それから、耳元で「怖がることは何も無い」と囁いた。その声の甘さに胸がツキンと傷んだ。
    アンドルーに全てを委ねたくなった。
    そして、アンドルーは本に……ノートに書かれたものを読み始めた。
    それは、「私」が書いた日記だった。
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    chanuitei

    DONE #墓囚版深夜の60分一本勝負
    2021.12.18
    お題『横顔』
    お借りしました。

    荘園を出たあとのお話
    横顔あれから、もう何度季節を見送っただろうか。

    荘園でのゲームをクリアして、各々が自ら望む場所へと帰っていった。荘園で出会った一部の人間とはたまに手紙のやり取りをしている。中でも、ビクター・グランツとはよく連絡をとっている。手紙の内容は代わり映えのない近況報告。それでも、友人と呼べる人間なんていなかった僕からしたら、とても価値のあるものだ。
    荘園でのゲームはクソッタレな内容だったが、大金以外にも僕に沢山のものを与えてくれた。

    一つ目は他人との関わり方……いや、この言い方だとビクターに怒らてしまいそうだから
    、友人、と言い変えよう。
    ゲームは他サバイバーと協力、意思の疎通ができないと勝てない。これが僕にはとても難しかった。化け物の僕となんて、誰も話したがらない。ましてや、協力なんて無理な事だ。そんな僕に荘園のメンバーは根気よく付き合ってくれた。中でも、同じ頃に荘園に来たビクター、ルカは僕に寄り添ってくれた。ルカとは言い合いにもなった。ルカは柔らかそうな顔の裏でとても頑固で自分の意思を曲げない。一度火がつくと感情を面に出すくせに、ほとぼりが冷めると言い過ぎたとしょぼくれる。そんな僕達をビクターは呆れることなく、見守ってくれていた。
    1413

    chanuitei

    DONE #墓囚版深夜の60分一本勝負
    2021.09.11
    お題「鮮やか」お借りしました。
    花ざかりアンドルー・クレスのとある日の日記

    ++

    荘園には鮮やかな花が咲いている。庭師の女……エマ・ウッズが手入れをして花を咲かせているらしい。風に乗って香る花の匂いを肺いっぱいに吸い込むと、心に暖かいものが灯る。
    花は、好きだ。晴れた日の庭に出て、花を愛でたいが太陽は僕の肌を焼き尽くそうとしてくるので、それは叶わない。
    若葉が育ち、蕾ができて、いのちにみちあふれていま開こうとするその瞬間をできるのであれば、僕は沢山見てみたい。青く澄んだ空の下で太陽の下でキラキラと光る色とりどりの花達。その花の周りを飛ぶ蜜蜂。花咲くことは命の誕生だ。その光り輝く命の中に僕はいられない事が凄く寂しくて、そして羨ましかった。
    この荘園に来てからも、僕は隠遁とした生活を送っている。共に戦うサバイバーとは、ゲームをする上での最低限のコミュニケーションをするだけ。一部の奴等は、僕がテーブルに俯いて誰とも目を合わさないようにしているのに、そんなのお構い無しに話しかけくる。そいつらには真っ白で化け物と罵られてきたこの見た目が、普通の人間に見えているらしい。変な奴らだ。
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    ++

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    花は、好きだ。晴れた日の庭に出て、花を愛でたいが太陽は僕の肌を焼き尽くそうとしてくるので、それは叶わない。
    若葉が育ち、蕾ができて、いのちにみちあふれていま開こうとするその瞬間をできるのであれば、僕は沢山見てみたい。青く澄んだ空の下で太陽の下でキラキラと光る色とりどりの花達。その花の周りを飛ぶ蜜蜂。花咲くことは命の誕生だ。その光り輝く命の中に僕はいられない事が凄く寂しくて、そして羨ましかった。
    この荘園に来てからも、僕は隠遁とした生活を送っている。共に戦うサバイバーとは、ゲームをする上での最低限のコミュニケーションをするだけ。一部の奴等は、僕がテーブルに俯いて誰とも目を合わさないようにしているのに、そんなのお構い無しに話しかけくる。そいつらには真っ白で化け物と罵られてきたこの見た目が、普通の人間に見えているらしい。変な奴らだ。
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    chanuitei

    DONE #墓囚版深夜の60分一本勝負
    2021.12.18
    お題『横顔』
    お借りしました。

    荘園を出たあとのお話
    横顔あれから、もう何度季節を見送っただろうか。

    荘園でのゲームをクリアして、各々が自ら望む場所へと帰っていった。荘園で出会った一部の人間とはたまに手紙のやり取りをしている。中でも、ビクター・グランツとはよく連絡をとっている。手紙の内容は代わり映えのない近況報告。それでも、友人と呼べる人間なんていなかった僕からしたら、とても価値のあるものだ。
    荘園でのゲームはクソッタレな内容だったが、大金以外にも僕に沢山のものを与えてくれた。

    一つ目は他人との関わり方……いや、この言い方だとビクターに怒らてしまいそうだから
    、友人、と言い変えよう。
    ゲームは他サバイバーと協力、意思の疎通ができないと勝てない。これが僕にはとても難しかった。化け物の僕となんて、誰も話したがらない。ましてや、協力なんて無理な事だ。そんな僕に荘園のメンバーは根気よく付き合ってくれた。中でも、同じ頃に荘園に来たビクター、ルカは僕に寄り添ってくれた。ルカとは言い合いにもなった。ルカは柔らかそうな顔の裏でとても頑固で自分の意思を曲げない。一度火がつくと感情を面に出すくせに、ほとぼりが冷めると言い過ぎたとしょぼくれる。そんな僕達をビクターは呆れることなく、見守ってくれていた。
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