晴れたら青い空が少しずつオレンジに傾く。それが混ざり合い、街を深い闇に沈めていく。
僕は一日の中でその時間が一番好きだった。
太陽の日差しは僕の肌と目を焼き、「お前は日陰の存在なのだ」と指を指す。だから、太陽が死ぬ夜が好きだ。
そう思っていたのに、いつからか、太陽は僕に指を指すどころか、日差しの下に連れ出すようになった。
「アンドルー!明日、晴れたら海に行かないか?」
ルカを見ていると、眩しくて目はチカチカと点滅するし、彼の視線は僕の肌をカッと赤く染めるからルカは僕にとって太陽と同じだ。
そして、荘園でルカと出会ってから、一番好きだった太陽の死ぬ時間……夕暮れが怖く感じるようになった。
ルカは、事故の後遺症の頭痛に苦しんでいる。発作が起こると、いつもは眩い瞳からは輝きが消え、ドロドロとしたものが体から染み出す。その染みが地を這って僕の心を暗闇へと引き摺り込む。
あんなにも太陽が死ぬ瞬間が好きだったのに、僕はそれがとても恐ろしくて堪らなくなった。
ルカに頭痛が襲うと、薬を飲ませてベッドに運び、僕は彼の手を固く握りしめて神へと祈りを捧げる。僕の太陽を連れ去らないで下さい、と。
そうして一晩明けると、ルカの頭痛は治まる。僕はその度にほっと胸を撫で下ろして何度も何度も、神に感謝を述べる。それをもう何度も繰り返している。
「すまないね、アンドルー。晴れたから、昨日約束した海に行こうか」
病み上がりだから、またにしようと言いたかったが、ルカはこう見えて案外言い出したら聞かない男だ。僕は黙って頷いて、二人で海に出かけた。
頭上には風が吹いて、雲の切れ目からは光が射す。
寄せては返す波の音を聞きながら、僕の汚い心が全て洗い流される気分になる。波の音がこんなにも美しいなんて、ルカとこうして海に出かけるまでは知らなかった。
前を歩いていたルカが、ふと立ち止まって振り向いた。
「アンドルー、私はね、君と荘園で出会ってずっと探していたものを見つけた気分になったよ」
突然の言葉に、僕は驚いて目を見開いた。そんな事、今まで一度も言われたことなんてない。
「荘園を出てから、随分と経ったが、まさか君が私を追いかけてきてくれるだなんて夢みたいだったよ。今もまだ、夢の続きを見ている気分さ」
ルカは両手を広げて青空を見上げた。つられて空を見上げれば、まだらにあった雲はいつの間にか消えて、快晴が広がっていた。
「明日も明後日もずっと一緒にいよう」
視線をルカに戻すと、八重歯を見せて微笑んでいた。心がザワザワとして落ち着かない気分になって、立ち止まっていたルカを追い越す。
「あれ、もしかして、君、泣いてる?」
追い越し際にそう言われて、僕はうるさい!と叫んだ。
「今日は晴れじゃなくて雨だったか」
と、のんびりとした声が後ろから聞こえて、僕はいたたまれなくなって、逃げるように走り出した。