ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部⑳話「女王の裁き」 女王は鏡の中の光景を食い入るように見つめていた。
鏡を覗く目は険しく、その手は爪が手のひらに食い込むのではと思うほどに握りしめられている。
そこに映っているのは、スノーホワイト姫が森の奥の小人の家に入り込み、安らかに眠りに付いた様子だった。
と、ゆらりと波立つように景色が崩れた。
鏡の面を緑の煙が覆い、その中からあの黒いレースの様な隈取模様のある男の顔が浮かぶ。
女王は片手を振って「もうよい、下がれ」とだけ言った。
再び鏡の中に緑の煙が立ち込め、それが晴れたときには男の顔はもうなかった。しかし、男が消えたあとも部屋に張り詰めた緊張は緩むこと無く、ディアヴァルは我知らず項の羽毛を逆立てていた。
女王はしばし考え込んでいたが、ディアヴァルを連れて地下室へと降りてゆき、そこである薬を調合した……。
ほどなく、一人と一羽は地下の通路を進んでいた。城の外へと通じる秘密の通路だ。松明を頼りに進むと、一つの部屋に出た。
そこにはあのハントマンが待っていた。
怯えた顔だ、とディアヴァルは思った。内心の恐怖を必死に隠しているに違いない。
ハントマンはあの金縁の赤い小箱を捧げるように持ち、無表情を装おうとしながら立っている。だが腰が引けているから、背中が丸まっていて、見るからに及び腰になっていた。
「首尾はどうだえ?」と女王が問う。
「ここに(と言ってつばを飲み込み)……姫様の心臓をお持ちしました」
そういってハントマンは箱を差し出した。
「蓋を開けよ」
ハントマンは無言で箱の蓋を開け、改めて捧げ持つ。その中には、朱く血に塗れた心臓が一つ、入っていた。
女王は頭をそびやかし、見下すようにハントマンを見つめながら箱に手をかざした。その手からぽとぽとと緑の液体が滴る。女王の手にはいつの間にか、小さな水晶の小瓶が握られていた。小瓶の中身が注がれるにつれて、小箱の中からもうもうと緑の煙が立ち上った。
ハントマンはへっぴり腰で震えながらも、箱を捧げ持ち続けている。
と、煙がますます濃くなり、渦を巻いて固まり始め、次第に何かの形を現し始めた。
瞬きするほどの時間ののち、そこには緑の煙で出来た大きなイノシシが立ちはだかっていた。それを見たハントマンはついに腰を抜かしてその場にへたり込んだ。
「お前が裏切ったのは分かっている。これが裁きだよ」
そう言って、女王が片手を振ると、緑のイノシシがハントマンに覆いかぶさった。イノシシの下から苦しげな呻き声が聞こえ、手足が闇雲にふりまわされた。が、その手足もすぐに力なく投げ出され動かなくなった。
女王が片手をもう一度振ると、イノシシは煙の塊となってハントマンの身体を覆い、もうひと振りするとするすると小瓶の中へ戻っていった。
そして、煙が消えた後には何も残ってはいなかった。
「やはり野ブタの心臓か。ハントマンめ、しくじりおって……。さて、どうしたものか……」
女王はそう呟きながら、ディアヴァルの喉を撫でるのだった。
【豆知識】
今回のギミックで豚の形の毒の煙を描いたのですが、生身の豚もなかなか怖いよ、というお話をご紹介します。
都市で暮らしていると、リアルな動物の姿を見る機会はめったにありませんよね。人間は色々な家畜を飼育して、食肉にしていますが、家畜が逆に人間を食べてしまうことがあります。
そういう事件を一番起こしている動物は、おそらく豚だろうと思います。
人間を豚が食べてしまう事件があることは「豚 事故」でぐぐると、「豚が人間を食べる」がサジェストされる程度には知られた事実です。
そして「豚が人間を食べる」で検索すると、怖い話がいっぱい出てきます。
おそらくは何かの発作で餌やり中に倒れ、そのまま食べつくされてしまった人の話とか…。残っているのがわずかな骨だけなので、死因は特定できなかった(=襲われたのか発作で倒れたのかわからなかった)とか…。
一例として記事を張っておきます。
・残っていたのは骨の破片だけ…
養豚家、「飼い豚」に体のほとんどを食べられる
https://courrier.jp/news/archives/189313/
関連情報。
豚が肉が大好きだという話を知恵袋で見つけたので添付。
https://bit.ly/3NikUGt
以下引用。
「草食に近い雑食のブタですが、実は、とても肉(動物性タンパク質)を好みます。
たとえば鶏卵を与えると、目の色を変えて食べます。
回答者が、学生時代、体重300kgを超える種豚の飼育スペースを掃除する際には、まず、鶏舎に行って、何個か鶏卵を採ってきて、それを食べさせている間に、ちゃちゃっと終わらせていました。フリーにしておくと怖いので。」
だそうで。同じ知恵袋にデュロックという品種が紹介されていますが、「デュロック」で画像検索をかけると「もののけ姫」の乙事主みたいな豚の画像がずらっと出てきます。なかなか壮観でした。
アメリカの巨大野ブタについての記事。こんなのが森の中にいたら…!
・未確認モンスターを追え! 『謎の巨大ブタ "メガホッグ"』
http://nazo108.sblo.jp/article/95081043.html
以上です。
(ポイピクだとリンクを踏んで飛べないのが申し訳ないです。pixiv移植時に参考資料タブに入れてみます。そこから飛べたら楽なんだけど出来るかな…)