ささやかな幸せ 「マティスくん、そろそろ休憩しませんか?」
淹れたてのお茶を運んできた私にぱぁっとマティスくんは表情を明るくさせた。
「ありがとうございます、セレスさん……あれ?今日はお菓子もあるんですね」
「え………あ、はい……その、集中していると糖分を使って、そうすると自然に甘いものが食べたくなる…と、聞いて本当はマルシェで買ってこようと思っていたんですけど…」
「けど?」
「…ジャンさんに、勧められて……」
「勧められて?」
「……って、作って、みたんです……」
「え!セレスさんの手作りなんですか!?このクッキー!」
「……はい」
【死神】と呼ばれる自分にとって、私が作ったから――と私が淹れたお茶や作った料理を拒否されることはよくある。しかしマティスくんはキラキラと瞳を輝かせている。
「…僕のため、ですか?」
「え?」
「ジャンは、このクッキー食べたりしたんですか?」
「い、いいえ…」
もっと本当のことを言えばジャンさんにも渡そうとしたけれど『坊ちゃんに妬まれてしまいますから』と断られてしまったからだった。
「…そっか、僕、だけ……」
ほっとしたように、嬉しそうにマティスくんは表情を明るくさせた。
「その、嫌なら無理しなくても――」
「セレスさんはこの顔が嫌に見えますか…?」
「い、いいえ……」
「なら、過去あなたがされたことよりも…ぼ、僕の事を信じてくれると…嬉しいです」
「……ありがとう、マティスくん」
そう、笑うと急にマティスくんは顔を真っ赤に染める。
「マティスくん…?」
「か………かわ、」
「?」
「ううん、なんでもない、です。えと、一緒に食べましょう!セレスさん」
「ええ…!」
クッキーを臆することなく食べて嬉しそうに笑ってくれるマティスくんにつられるように私も笑っていた。とても、とても幸せで――ずっとずっと続けばいいのにと。彼のそばで彼を支えていきたいと…叶うはずのない未来を望むのだった。
-Fin-