「サンズからもプレゼント!?ありがとう!」
初めてのプレゼントはマヌケな顔の犬がプリントされた靴下とピンク色の子供用スリッパ。
浮かれた柄の包装紙に巻かれたそれを受け取った小さな手と、喜びに弧を描く口元をよく覚えている。
まだまだ縞模様の服を好んで着ているようなちびっ子で、たまに出るマセた言動が生意気で可愛らしい。フリスクはそんな子どもだった。
「ほい、これやるよ」
ぽんと放るような気軽さで渡したのは、2冊の古本。世界のダジャレ集と、星座についての本だ。
フリスクが少し大きくなった頃だった。地上に出て、学校に通いだし、親善大使として持て囃され、疲れたような顔を見せることが増えていた。
「読む時間あるかな…」
「おいおいジョークの本だぜ。テキトーに開いて笑うためのもんだ」
「こっちは?」
「宇宙にトリップしたい時用だな。あんまり読み込むとトップリ日が暮れちまうから注意しろよ」
フリスクの肩から力が抜けて、大きなため息と苦笑が漏れた。
「ほいよ、おめでとさん」
手の中に落としたものを胡乱げな目で見、そのままの表情でこちらを向く。
モンスターの感覚では本当に瞬く間と言えるほどの時間で大きくなったフリスクは、表面上こそこれまで通りの振る舞いをしているが、明らかにサンズの「監視」に気付いていた。
年頃を迎えた難しい年齢というのも併せて、鬱陶しげにしていることも少なくない。
プレゼントの中身はマグカップだ。スープも飲めそうなくらい大きめで、青色とピンクの縞模様。
箱の中身を見たフリスクが、一拍置いてから吹き出した。
「あはは!よくこんなの見つけたね」
「どう見てもアンタ専用だろ?」
「もうシマシマの服なんて着てないよ」
苦情のような口調で、けれど口元は隠しようもなく笑っていた。
「今年もおめでと」
ソファに座ったフリスクの背中に声をかけ、ポンと包みを放る。わっと小さな声を上げてキャッチしたフリスクが、文句言いたげな目でこちらを睨むが、それに肩をすくめて応え、フリスクの座る隣へどっかりと腰を下ろした。
目で包みを開けるように促すと、フリスクは小さなため息をついて細いリボンをスルスルと解く。
そうして出てきた赤いビロードの小箱にあからさまに驚き、ちらりとこちらを伺ってくる様にサンズは思わず笑ってしまった。
「その見た目でびっくり箱なわけないだろ。そうビクビクしなくても大丈夫だって」
フリスクの緊張がうつったかのように、サンズまで落ち着かない気分になる。細い指先が力を込めて蓋を持ち上げ、そうして出てきたものにフリスクが小さく息を呑んだ。
「腕時計?」
小さめの丸い文字盤に、細身の黒い革ベルト。見やすくシンプルなローマ数字が並んでいるが、頂点の12が収まるべき場所に赤いハート形の小さなルビーが埋め込まれている。
「…可愛い」
ぽつりと漏れ出た声が思わず出た本音といった雰囲気だったので、サンズはこっそりと胸を撫で下ろした。
「そりゃ良かったよ」
「でも高そう。ルビーだよね、これ」
「そこまででもないさ。あー、ほら、アンタ今日でニンゲンで言うところの成人ってやつだろ?」
お祝いだからと笑みを向ければ、フリスクが花が綻ぶように笑った。
箱から時計を取り出して、するすると左の手首に巻く。思った通り、細身のベルトはフリスクの腕によく似合っていた。
「どう?」
「ん、似合ってるんじゃないか?」
「なんで聞き返すかな…まあいいか!ありがとう。大事に使うよ」