コンコン
「ボロ、居る?」
今日はお互い試合がない日。最愛の恋人と一日を過ごそうと、イタカはボロの部屋を訪れていた。
ガチャ
「イタカ?いらっしゃい。」
部屋の中から、いつもの衣装と違いシンプルなパーカーに身を包んだボロが居た。
「あれ?出かけるの…?」
「うん、リッパーさんと。ふふ、久しぶりに外出するから楽しみだなぁ。それにあのリッパーさんが誘ってくれるだなんて…」
(あぁ…気に入らない)
その笑顔、話の内容、出かける相手が自分じゃないことに腹だしく思えた。
ガンッ
「…ッ!?」
ボロの体に衝撃が走った。
恐る恐る目を開けるとそこには嫉妬に満ちた顔をしているイタカがいた。
「い、イタカ…」
「僕と居るのに他の男の名前を出さないで。…どうやらお仕置きが必要みたいだね」
首筋を強く噛み、勢いよく吸い付いた。
「んんっ…馬鹿ッ‥‥…や、めっ…」
ボロは必死に体をよじり逃げようとしたが、強く壁に押さえつけた体はびくともしなかった。解放したのは、首や喉全体にキスマークを付けた後だった。
「っ…、な、何すんのっ!!
こ、こんな場所までつけて…っ、リッパーさんに見られたらどうすんだよっ!!」
「別にいいじゃん。見られたって。隠したかったらパーカーで何とかしなよ。あと、これ魔除け。」
そう言い、シンプルな青いブレスレットをボロに身に着けさせた。先日、雑貨屋を訪れたときに見つけた物だ。僕の瞳の色と同じだと思い、気が付いたら購入していた。
「…あ、ありがとう」
さっきまで怒っていた相手に、律儀にもお礼を言うボロにますます愛しさを覚えた。
「…じゃあ、行ってくるね。
その…帰ってきたら、一緒に過ごし…たいな」
「いいよ、待っているから気を付けていってらしゃい。」
―――――――――――――――――――
「どうしたのですか?パーカーのチャック上まで閉めて…暑くないのですか?」
用事を済ませ荘園に戻るため歩いていると、リッパーさんが不思議そうに話しかけてきた。
「うっ…、ちょっと事情があって……暑くないので大丈夫です///」
先ほどのやり取りを思い出してしまう。
あんなにがっつくイタカを見たのは久々だった。
どんどん顔に熱が溜まるのが分かり、顔覆い隠した。
「…あぁ、なるほど。しかし、彼もなかなかやりますね。」
「…‥え?」
リッパーさんの言葉が理解出来ず首を傾げた。
「おや?ご存じなかったですか。
首筋のキスマークは「執着心」、誰にも奪われたくないという「強い独占欲」。
喉は相手を食べてしまいたい程にどうにかしてしまいたいという「性的欲求」。
……そして、ブレスレットを相手に送るのは相手を縛って置きたいという「束縛」の意味を持つのですよ。ふふ、余程独占したいと見える。愛されていますね、貴方。」
「なっ…!?」
絶句した。
言葉が出なかった。
イタカの性格上、そんな強い感情があるとは思わなかったからだ。今日も少し嫉妬しただけだと思っていた。ますます顔に熱が溜まったのが分かった。
「ふふ、ほら荘園に着きましたよ。今日はありがとうございました。後は彼とごゆっくり。」
そう言い、リッパーさんは去っていた。今日はリッパーさんの発言で疲れた。入浴でもして疲れ取って、落ち着いてからイタカに会おう。
今会ったら…心が持たないしな……。
そう思い、自室のドアを開けた。
ガチャ
「おかえり。待ってたよ。」
何故か自室でイタカがくつろいでいた。
「な、なんで此処にいるんのっ!?」
「なんでって、恋人が居たら悪い?
それに鍵開けたまま出かけたよね?不用心だよ。」
「っ……」
恥ずかしい。
心臓がうるさい。
顔が熱い。
「?顔赤いけど、どうしたの?外そんなに暑かった?」
「ち、違う…。そうじゃない……。リッパーさんから聞いたんだ…そ、のブレスレットとか意味とか‥…だから、そ、の‥…」
「あぁ、やっと分かってくれた?僕の気持ち。」
いつもと違う低い声が部屋に響いた。驚いて顔を上げたが、心臓が止まるかと思った。そこには見たことがない顔したイタカが居たからだ。椅子から立ち上がり、ゆっくりと近づいてくる。
「あ…ぁ…」
足がすくむ。
顔を背けられない。
イタカの手が頬に触れた。
「これから沢山分からせてあげるから、覚悟してね。」
あぁ、もう逃げられない。