私は魚を捌く新しい命の誕生を見届けたその翌朝、月島は間借りしたアイヌの家の中で目を覚ました。
既に陽が高い。こんなに時間まで眠ったのはいつぶりの事だろうか。
軍での仕事以外にすることがないので月島はいつも仕事が終われば食事と風呂をすませてすぐに床に入り、朝も起床時間より早くに目覚めて仕事の為の身支度をする。白米の甘さと体の芯を温める湯船だけがかすかなよすがだった。
ふと横を見るとそこには共に寝ていたはずの鯉登の姿がない。息を呑んで飛び起きた。今更に家永に打たれた薬の後遺症が出てきたか、頭がずきりと痛む。
「なんだ、起きたのか月島。ちょうどいい、飯にしよう」
「……」
顔を顰めてこめかみを押さえている月島をよそに、あっけらかんとした様子の鯉登が入口から現れた。病衣のみでは冷えるだろうとアイヌの女たちが着せた見慣れぬ衣の上に軍衣を羽織っている。
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