最後は君の隣である日、大災害が起こった。
それは誰もが予想していなかった出来事だった。
震度7の地震で大型ショッピングモールが半壊。
そこに居合わせたプロヒーロー2人。そしてパトロール中だったヒーローが、避難誘導にあたった。
─✦✦─
「早く避難を!!」
その日たまたまショッピングモールに来ていた轟は、突然の地震に驚きながらも、一瞬で頭を切り替え、一般人を誘導した。
「早く外出ろ!崩れるぞ!」
その横で爆豪は動けない一般人に肩を貸しながら叫んでいた。
(この建物はもう長く保たない…)
轟はこの広いショッピングモールの崩壊を氷を使って遅らせながら必死に頭を回す。
すると天井が崩れ、瓦礫が避難している人の上に迫った。
(間に合わない…!)
轟は悲痛に顔を歪ませながら、その光景を見ていることしかできなかった。
瓦礫が避難している人に当たる直前──。
緑の光が、一線を貫いた。
それは、現ナンバーワンヒーロー、デクだった。
「轟くん!かっちゃん!」
「緑谷?!」
緑谷はその人を降ろして、避難の列に加えた。
「なんでここに」
「たまたま近くにいたんだ!それより、状況は?!」
「上の階の避難は終わった!あとは地下だ!」
爆豪が爆破で移動しながら轟の下へ来る。
「分かった、行こう!」
3人は素早く階段を駆け下りた。1人でも多くの人々の命を救うために。
「ンだこれ…」
爆豪は地下の惨状を見て、思わず舌打ちをした。
天井は崩壊寸前で、瓦礫に挟まれた人々が多く、まさに地獄絵図のようだった。
「早く外に避難してください!」
轟は氷で建物を補強して回りながら誘導を行う。
一方、緑谷と爆豪は瓦礫を退かし、動けない人を、救助隊が居る上まで運んで戻るを繰り返す。
そして半分の人の避難が終わった頃、また地面が、揺れた。
人々から叫び声が上がる。
地面がうねり、建物がミシミシと鳴った。
(このままじゃ崩壊する…)
緑谷は避難させながら心の中で焦りを募らせた。
(避難が終わるまであと数分、それまで保ち堪えれば…!)
轟は必死で建物を凍らし、崩壊を少しでも遅らせる。
「轟!もういい!上がってこい!」
階段の上から爆豪の声がする。だがまだ上に残っている人が避難し、轟が建物を出るまでの数十秒、建物が保つとは思わなかった。
「…先に行け!すぐ追いつく!」
轟は爆豪に向かって叫んだ。
(これで良い…爆豪なら皆逃がしてくれる)
叫んだ後、爆豪の爆破が遠のいて行くのがわかり、轟は安堵した。
例え自分は助からなくても、轟はヒーローとしての責任を果たすべく、個性を使い続けた。
爆豪は轟が叫んだ後、一旦上に戻り、緑谷と合流していた。
その頃には、建物を覆っていた氷が次々と割れていく。
「かっちゃん、轟くんは?!」
「すぐ追いつくってよ、良いからはよ行くぞ」
緑谷は即座に頷くと最後の1人を抱えて次々と崩壊していく建物の中を走った。
その途中、爆豪は轟のことを思い出していた。
(轟のあの声は自分を軽く見ている時の声だ…)
爆豪は一度、その声を聞いたことがあった。
プロヒーローになって1年目、巨大な敵が街を蹂躙し、暴れまわったことがあった。その時、轟は爆豪に向かってこう言ったのだ。
『爆豪は先に行って、避難誘導頼む』
轟はそう言うと、敵の元へ駆け出て、足を凍らせた。一歩間違えれば死んでいたかもしれない状況に1人で飛び込んでいった轟に、爆豪は何故か恐怖心を抱いた。
いつか自分の知らないところで轟が居なくなってしまうのではないかと、爆豪はそれが不安で、1つの約束を心に決めていた。
(しょうがねぇな…)
「……デク!」
爆豪は少し行った所で不意に立ち止まり、緑谷に向かって叫んだ。
「後は任せた」
「かっちゃん?!」
爆豪は緑谷の叫びを無視して地下への階段を降り、轟の側に降り立った。
「爆豪?!早く戻れ!このままじゃ爆豪まで…!」
「うるせぇ!俺はなァ、死ぬ時はテメェの隣って決めてんだよ!」
限界を迎え、崩れた天井の瓦礫が2人に迫る。その直前、爆豪は轟を引き寄せ、その冷え切った身体を優しく抱き締める。
爆豪は瓦礫が迫るほんの一瞬、轟の最後の笑顔を見た。
そして2人の意識は途切れた──。
─✦✦─
3人のヒーロー達の努力により、一般人の重軽傷者あわせて1500人、ショッピングモールに居合わせた全ての一般人の避難は完了し、死者に0人と抑えることに成功した。
だが同時に、2人のヒーローの殉職したことも、メディアによって報道された。
2人の遺体は残っていなかったが、唯一、2人が嵌めていた2つのリングは、寄り添いながら瓦礫の中でキラキラと輝いていた。