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    CQUEEN57235332

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    切島くん夢

    #hrak夢

    0.彼女の知らない原点頭の中の未来フィルム.0
    「『おまえ』はもう自由だ」
     ──だから、もう敵(ヴィラン)に手を貸さずとも、こんな場所に居なくてもいい。……いいんだ。
     あるヒーローが言った。
    「あ……あぁ……あああ……!!」
     もう、良いんだと。もう、このような息をするのにも苦しい劣悪な環境に居なくても良いのだと。安堵、葛藤、後悔。それらの感情がない混ぜになったが故に、感情が童女の双眸から零れ落ちた。少女は一旦公安委員会に留め置かれ、それからある一家に養子として入った。そして────時は六年後へと針を進める。

     § § §

     フィルムのようにそれは夢として現れる。鮮明に、鮮烈に。時にはドラマのように連続して。時には断片のみが綴られる。今日の『夢』はクラスメイトが落とし物をする事と、夕刻に犬が飼い主の元を離れ車に轢かれる事。それから子供が数人の同世代の子供に虐められる現場。それから、それから、それから──。そして『夢』を見終わった後に彼女の意識は覚醒へと向かう。

     § § §

     ピピピ、という耳障りな電子音。童女から少女へと成長したその人は枕元の上の辺りを寝惚けまなこでまさぐる。室内はメモ書きの付箋で壁中が埋め尽くされていた。それ以外は簡素で使い古された学習机やチェストがそこにある。
    「んー……」
     ピピピ、ピピピ、ピピピ。まだ音は止まない。そこで彼女は諦めたのか、手を止めた。
    「まだ寝ているのか?! 早く起きないか!」
     四面四角で几帳面そうな声に彼女は起こされる。寝巻きのまま、ボサボサ頭を掻きつつ彼女は言う。
    「わかってるよ……天哉」
    「わかっているなら行動に移さないか! 全く君の寝起きの悪さだけは昔から変わらないな……」
    「昔の事なんか言われてもわかんねっつの」
     ボソリ、呟いた。何か言ったかい? と天哉──彼女の兄貴分でヒーロー、一家の次男である──は言うが彼女はひらひらと手を振ると言う。
    「なぁんでもないよ……」
     そこからは早かった。彼女は掌大の赤革の手帳に目を通し、顔を洗って支度を済ませ朝食を食べる。飯田家の朝食は和食だ。朝は彼女が起きるのが遅い為に手伝っていないが、夕食は違うのだ。夕食は毎日彼女も天哉の母の手伝いをする。
    「そういや天晴兄さんは?」
     白米を口に運びながら彼女は言った。天晴とはターボヒーロー『インゲニウム』であり、飯田家の長男である。天哉の父は新聞を畳みながら言う。
    「敵(ヴィラン)を追って事務所に泊まり込みだそうだ。なに、今日中には敵(ヴィラン)も捕まるだろう」
    「そっか」
     もぐもぐと食べながら相槌を打つ。
    「食事中に喋るなど行儀が悪いぞ!」
     先に朝食を食べていた天哉はご丁寧に食べ終わった後、彼女に言った。彼女は鬱陶しそうに手を振るとまた食事を続ける。食事が終わった彼女はカチャリと流し台に器を置いて通学鞄を掴むと身に付けた。そして天哉と共に外に出る。
    「行ってきます! 母さん!」
     と天哉。
    「いってきまーす。おばさん」
     と彼女。
     二人は途中まで並んで歩く。同じ家に住んでいる故に中学校は同じかと思いきや二人の中学は違った。天哉は私立聡明中学校、彼女は公立胡蝶中学校。天哉は別れる前に彼女に問う。
    「それじゃあ俺は行くが忘れ物はないな?」
    「多分」
    「多分じゃないだろう! 今から確認したまえ!」
    「そんな時間無いよ。じゃあね、天哉」
     彼女はそう言って手帳を手に振るとタッタカタッタカと走って行ってしまった。天哉の待たないか! と言う声が聞こえたような気もしたが彼女はお構いなしに走って学校へ向かって行く。胡蝶中学。そこは至って普通の、中学校だった。彼女は下駄箱に靴を入れ、代わりに上履きを取り出して履く。ゴムが底に付いている為滑りにくい。キュッキュッと音を立てて歩いていると己のクラスが見えてきた。三年二組。そこが彼女のクラスである。自分の机に座り、通学鞄から筆記用具、教科書、ノートを取り出すと机の物入れへと入れた。彼女は幾らかぼうっとしていると夢に見たクラスメイトが登校しているのを目にする。
     ああ、忠告しとかないとな。
     彼女はガタリと音を鳴らし立ち上がるとクラスメイトに言う。
    「ねえ、きみ──今日物失くしそうだから気を付けてね」
     不躾にそれだけ言うと彼女は席に着いた。クラスメイトは呆気に取られた後──、不快そうに眉根を寄せる。しかし彼女に何も言わない。彼女の存在は腫れ物のようで、ぷかぷかとしているのだ。まあ、ハッキリ言うと浮いている。『個性』によるエキセントリックな言動のせいか、はたまた配慮が足りない故の非礼さか。彼女はそんな事も気にする事なく赤革の手帳の表紙に手を置き、窓の外……グラウンドを眺めていた。のどかな春も過ぎ、葉桜となる頃である。ふあ、と欠伸。春眠暁を覚えず、という故事があるように彼女もまた眠気に誘われていた。しかし寝ない。寝たら『個性』の『予知夢』が発動してしまうからだ。授業を受け、昼食を食べ終わり、放課後。彼女は部活をやっていない。必須でもなし、彼女にとって部活というものははっきり言って無駄だった。──ここで一つ、彼女の個性の話をしよう。『予知夢』は眠りに落ち、未来を先読みする夢を見る。そこまでは良い。すると、彼女の記憶はごっそりと抜け落ちているのだ。古いものから順番に。だから物事を習うならば体に染み込むまで反復しなければならない。そこまでやるとなると部活では足りないのだ。故に、無駄。あけすけに物を言う彼女は好かれておらずクラスメイト、ひいては他生徒との軋轢を産む事も多々ある。彼女は気にしていない──否、覚えていない。覚えていない事は気にしようがない。だから彼女は今日も今日とて『予知夢』で見た現場へと急いだ。
     交差点にて犬がリードを張り詰めるくらいに引っ張っている。そこまで見えて彼女はホッとした。──まだ間に合う、と。飼い主が転ぶ。張り詰めたリードはそのまま手をすり抜け、赤へ変わった道路を突っ切ろうと犬が走った。車が迫る。彼女はだん、と足を踏みしめすれ違うように犬を抱えるとそのまま歩道に駆け込んだ。足がつんのめって転ぶ。人波に囲まれるがそんな事も気にしていないようで犬はぺろぺろと彼女の顔を舐めていた。彼女は脱力して犬の頭を撫でる。飼い主からは謝罪と礼を言われ彼女はすぐさまその場を去った。次は──。
    「おまえナマイキなんだよ!」
    「そうだそうだ!」
    「たいした『個性』でもないくせに!!」
    「で、でもそういうコトはやっちゃいけないってせんせいが……!」
     見えた。彼女はさっと三人に責められるように虐められていた男児を庇って立った。
    「やめなさい。なにがあったかは知らないけど、一人に向かって三人でなんて卑怯でしょ」
    「な、なんだよおまえ……!」
    「とにかく、やめなさい。やるなら一対一で堂々と!」
    「い、いこうぜ」
     そう言うと三人は逃げるように去っていく。彼女はくるりと男児の方を向くと大丈夫か、と尋ねた。
    「だ、だいじょうぶ……」
    「そっか、それならよかった」
     そう言って彼女は去っていく。
     次は、次は、次は。彼女は夢に見たあらゆる困り事を手助けする。夢に見ていない事だって彼女は救けずにいられなかった。要するに、脊髄反射で生きてるようなものである。彼女はそうやって生きてきた。それが、体に染み込んでいるのだろう。家に帰るともう天哉は帰宅していて、彼女を待っていた。
    「ム、おかえり。遅かったじゃないか」
     カクカクとした手の動きで指摘してくる天哉。彼女ははいはい、と軽くあしらう。そして。
    「あ、ただいま」
     と返事をした。今日は天晴が家に居て、彼女も彼とよく話をする。
    「天晴兄さん!」
    「おー、おかえり。また今日も人助けか?」
     彼女は謙遜して言う。
    「『人助け』なんてそんな大袈裟なものじゃないよ」
    「いや、立派な事だろ。おまえもヒーロー志望だもんな、こりゃ天哉も負けてらんないぞ〜?」
     天哉が話に入ってくる。
    「わかっているさ、兄さん。俺も決して負けない!」
     はっはっは、と天晴が笑う。
    「二人もヒーロー志望がいるならこの先安泰だな」
     天哉と彼女は顔を見合わせる。そして、そうなれるように頑張る、と二人は言った。夕食を済ませると彼女は自主勉強をする天哉の部屋に入る。
    「ノックをしないか!」
    「なに、見られて困るもんでもあんの」
    「それは無いが……いや! 『親しき仲にも礼儀あり』と言うだろう!!」
    「ハイハイ、覚えてたらね」
    「メモをしないか、メモを!」
     彼女はべっと舌を出して戯けるようにニヤリと笑った。
    「天哉はまた自主勉強?」
    「当然だ。雄英を受けるのだから、しても足りないくらいだよ」
     ふーん、と彼女は適当に相槌を打つ。天哉はぎしりと椅子の背凭れに手を掛け言う。
    「君はどうなんだ。受けるんだろう? 君も雄英を」
    「まあね」
    「言っておくが同じ雄英を受ける以上ライバルだ。負けないからな!!」
    「……そうだね」
     彼女はそう言うと立ち上がり、自室へと戻る。手帳を見、今日あったことの詳細を書き出した。だが『予知夢』の事は書かない。そう決めていた。『個性』の悪用──、個性を使った犯罪は増加の一途を辿っている。故に手帳が拾われた際に『予知夢』の内容を見られ、悪用される事を防ぐ為であった。『予知夢』はレア個性であり、便利である。悪用するには持ってこいの『個性』だ。それを知っている為に彼女は人一倍、用心をしている。手帳は肌身離さず持ち、『予知夢』の内容はたとえ身内にだって話さない。それだけ、危険が多いのだ。眠れば『予知夢』を見る、起きれば過去を忘れる。故に彼女には過去を懐かしむ事もなく、思い出だって何も無い。悲しいと思った事は無い、辛いと思った事は無い。だってそれも忘れるから。彼女はそう割り切って生きている。そう、手帳に書いてあるから。この手帳は累計何冊目だったか、彼女は何とは無しに手帳をペラペラと捲る。そこには失われた『過去』が。しかし実感は薄い。経験として残っていない為だ。それに一抹の淋しさを感じながらも彼女は手帳を閉じる。
    「さて、私も勉強しますか」
     彼女は通学鞄から教科書とノートを取り出し、課題をやっていく。カリカリとシャーペンの音が鳴り響いた。一時間と少し経って課題が終わると彼女は伸びをし、コキリと首を鳴らす。そしてまた別の手帳を取り出した。青革の手帳である。これには勉強の要点がまとめられており、わかりやすい。これを試験の直前に見る事で彼女はテストをパスしている。それに今回やった範囲を書き込むとまた手帳を閉じた。これで彼女の勉強は終わりだ。寝れば忘れるのでテスト以外は余り力を入れていない。そして赤革の古い方の手帳を開く。ぺらり、最新のページを開く。今日、あった事だ。ぺらり、また開く。昨日あった事。ぺらり、ぺらり、ぺらり。一番古いページには彼女が公安委員会に保護され、様々なヒーローと面談した事が書いてあるページだった。彼女が尊敬するヒーロー、サー・ナイトアイ。彼も彼女と似た『個性』を持つヒーローであり、オールマイトの元サイドキックだった人物だ。面談していた時はサイドキックだったらしい。その時の事が細かく書かれている。彼女はいつもそのページを見て初心に帰るのだ。彼女はポツリと呟く。
    「また、サーと会いたいな……」
     サー・ナイトアイは彼女の指針、ポリシー。彼女は知らないが実際、サー・ナイトアイに引き取られるという案もあったくらいだ。彼女は定期的に彼と会っている。
    「確か、前会った時は………………」
     そう思って赤革の手帳を捲る。すると書いてあった。どうやら去年末に会ったっきりらしい。彼女は手帳を静かに閉じた。両手を頭の後ろで組んでぼうっとする。ギシ、と椅子の背凭れが鳴き声を上げた。
     サーも忙しい人だし、会える時に会っときたいよなー。
     そう思い彼女は携帯を取り出し、サー・ナイトアイに連絡を入れる。電話は取れるか判らないのでメールで。
    『お久し振りです。サー。またお時間の取れる際に会いたいです』
     そう言った文面で彼女はメールを送った。そうして携帯をスリープモードにする。彼女はその事も手帳に記した。
    「まー会えたらいいな、程度だけど……」
     手帳を机の上に置いてまた椅子に凭れかかる。彼女がヒーローを志すのは何故か? ──過去の自分がサー・ナイトアイに憧れたからにならない。彼女はどんなヒーローになりたいのか? ──どんなヒーローも救ける、最高のサイドキックに。 彼女は本当にヒーローになりたいのか? ──そんな事は関係無い。あの日の美しく、煌めいた憧れが嘘ではない筈だから。だから彼女は──。
     ああ、言い忘れていたがこれは彼女──前宮憂無が最高のサイドキックになるまでの物語だ。
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