臆病と悪魔【臆病と悪魔】
笑ってください、こんな私を。お赦しください、どうか。
悪魔の居城で祈っていると、まるで自分が幽閉されたか、あるいは堕天してしまったかのような錯覚に陥る。いいえ、身も心も、決してそのようなことは。けれど、何故なのでしょうか。此処は幾分、居心地の良い場所なのです。それ故に、必要以上にこの地に滞在してしまっているのも確かで。地獄が心地良いなんて、本当に可笑しな話。
フロン様、貴女が私に明かしてくださった、魔界で過ごした日々のこと。今も忘れられないのです。お話しされた時の、貴女の優しい表情。「アルティナちゃん。すぐに天界に戻る必要はありませんからね。貴女が為すべきことを、為してから戻って来るように。いいですね?」そう、笑顔で送り出してくれたその意味も、もう少しで分かるような気がするのです。
目を閉じる。私の為すべきこととは、一体なんだろうか。
徴収? 断罪者ネモの最期を見届けること? それとも他の何か。さて、神様の前に私はいつまで知らんふりが出来るでしょう。
こうして御祈りを捧げていても、私の頭の片隅で見知った吸血鬼が笑う。紅い瞳が私を見据え、穏やかに、笑う。こんなの、私は天使失格ではないか。
それでも、あんな悲しい顔はもう見たくないから。どうか笑っていてください。
臆病な私は心に願って、いつまでも待っているだけだ。手を伸ばせば届く距離、そう分かっていながら動けないのは、どうしてだろう。
ああ、天使長様。もう少しだけ、地獄(ここ)に居ても良いでしょうか。きっと私に必要なのは、貴女のような勇気でした。
fin.
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おまけ
「いつまで居座っているんだろうな、天使様は。用が済んだならとっととお帰りいただきたいものだ」
「地獄にいる天使って大丈夫なんデスか? 最初の街にいるラスボスみたいな違和感がありますデス……」
「そ、それは…まだ徴収が終わっていませんから……」
「あれだけ巻き上げといてまだ徴収するのかよ?!」
「分かってないわねー、照れ隠しよ! 照れ隠し!」
ヴァル様のいないところで繰り広げられる会話のあとで、アルティナちゃんが臆病を神様に告白する話。でした。