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    村人A

    @villager_fenval

    只今、ディスガイア4の執事閣下にどハマり中。
    小説やら色々流します。

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    村人A

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    過去小説加筆修正。
    フェンリッヒの包帯の下は、という多分ディス4プレイした人なら皆する妄想を形にしてみました。
    もちろん過去捏造100%ですのでご注意を。

    #ディスガイア4
    disgaea4

    呪われた運命だとしても「ねぇねぇ、フェンリっち!!」

    姦しい少女の声が、静かな空間に突如飛び込んできた。
    呼ばれた当人である、人狼族の青年─フェンリッヒは心底嫌そうな顔で振り向いた。
    仕事中でもある故、当然の反応だが。

    「……何の用だ、小娘。下らんことなら殺すぞ」
    「うっ…挨拶代わりに脅すのやめてくんない?…まぁ、いいや。それはそれとして、聞きたいことがあるのよ〜」
    「却下だ」
    「ちょ、ちょっとぉ!?まだ何も言ってないじゃない!」
    「お前のその話し方は、面倒臭い要求しか来んからな。よって却下だ。帰れ小娘」
    「むぅー!じゃあいいもーん!ねぇねぇ、ヴァルっち〜♡」
    「おい、キサマ!!」

    小娘と呼ばれた少女─風祭フーカは、机に向かっていた青年に声をかける。
    仕事中でもあった吸血鬼の青年・ヴァルバトーゼはその声に顔を上げた。
    いつもの天然な側面ではなく、聡明な部分が見えている故か、僅かに雰囲気が違う気がした。

    「なんだ、小娘。申してみよ」
    「さっすがヴァルっち♪まぁ、ただ気になっただけで、何も無いならいいんだけどさ。…フェンリっちの首の包帯って、なんなの?」
    「…!」
    「首の包帯…?それがどうかしたか」
    「どうかしたかって言うか、ずーっとつけてるでしょ?ヴァルっちのチョーカーみたいなオシャレアイテムとかじゃないじゃん、包帯って。だから気になったんだけどさ」

    フェンリッヒの空気が僅かに乱れる。
    それは、長い間一緒にいるヴァルバトーゼに感じ取れるくらいの、ほんの僅か。

    「…ふむ。そういえば、そんなことを気にしたことがなかったな。残念ながら、俺も知らん」
    「ええ〜!?ヴァルっちが、フェンリっちのことで知らないこととかあるの!?そっちの方が意外なんですけど!?」
    「わざわざ気にすることでもないだろう。俺と初めて会った時にはすでに着けていたのではないか」
    「…ええ、そうですね」
    「なになに?めっちゃ気になるんですけど?」
    「誰が教えるか、アホ。わかったら出ていけ、仕事の邪魔だ!」

    放り出すようにフーカを追い出すと、部屋の中に静寂が帰ってくる。
    フェンリッヒが人間を毛嫌いしているのは、主でもあるヴァルバトーゼがよく知っている。だが、今のがそれだけではないことも見破っていた。

    (…動揺していたな。あのくらいのことは、いつもなら適当にあしらうと思うが)

    “教えない”など、何かあったと言っているようなものだ。
    フェンリッヒは悪知恵が働き、頭がよく回る。その彼が、自分しか知り得ぬことを誤魔化さずに隠そうとした。
    それだけで、十分異常だ。

    (……まあ良いか)

    そんなことをわざわざ聞き出すことでもない。
    ヴァルバトーゼは一息だけ挟み、またデスクワークへと集中を向けた。

    ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

    ─すっかり夜。
    ヴァルバトーゼは軽く身体を伸ばすと、時計をようやく確認した。

    「む……もうこんな時間か。そろそろ休まねば、またフェンリッヒに小言を言われるな」

    マントを取り、寝る装いへと移る途中。
    不意に部屋のドアがノックされた。

    「…こんな夜分に、誰だ?」
    「─閣下。わたくしです」
    「フェンリッヒ…?珍しいな、こんな時間に」
    「失礼は重々承知しております。…少しだけ、お時間頂けないでしょうか」
    「我が忠実なるシモベの願いとあらば、無下にする訳にはいくまい。─入れ」
    「はっ…失礼します」

    ドアを開け、入ってきて閉めた後、フェンリッヒは傅いた。

    「お休みの前に申し訳ございません。もし、お耳に入れるのが不快な話であれば、すぐに出ていきますので…」
    「構わん。顔を上げろ」
    「はっ」
    「…して、どうした?お前がこんな時間に訪ねて来る程の用か?」
    「……昼間、小娘がわたくしに聞いてきたことは覚えていますでしょうか」

    立ち上がったフェンリッヒはいつものポーズを取り、そう切り出した。

    「昼間の…?ああ、お前の首の包帯がどうとかという話か」
    「そうです。…その話は、閣下のお耳に入れて頂けたら、と思いまして」
    「小娘たちに話すつもりはない、ということだな?お前も頑なだな…」
    「確かに、個人的な感情で話したくないのもございます。ですが…わたくしは、“同情”というものが嫌いなのです」
    「…成程な。小娘のような何も知らぬ人間が同情するような、そのような話だと言うのだな?」
    「ええ」
    「そういうことか。わかった、お前の話を聞くことにする。プリニーに茶でも用意させよう」

    プリニーを呼んだヴァルバトーゼに、フェンリッヒが困惑する。

    「いえ、閣下…あまりお休みを邪魔するようなことは…」
    「構わん。最近はお前と2人で話すこともなかった。話ついでに眠れぬ夜に付き合ってくれても良かろう?」
    「…そうでございますか。すべては、我が主のために」
    「それで良い。座れ」

    用意された茶をテーブルに置き、2人は座った。

    「…それで、お前の包帯の話を聞こうか」
    「はい。─閣下は、ご存知ですよね。人狼族というのは、それだけで希少な種族なのだと」
    「ああ。お前以外にまともに見た覚えはないな」
    「ええ、やはり数は少ない。…今でこそそんな話は減ったと思いますが、数百年前からすれば、希少な種族というだけで、待遇の背景は見えると思いますが」
    「…ああ」
    「それでは、お話しさせて頂きます」

    ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

    ─わたくしは、子供の頃はそこそこの暮らしをしておりました。
    両親もいて、恵まれていたでしょう。ですがそれは、ある日に崩れ去ります。

    人狼族は決まった集落などは持ちません。どちらかと言えば散らばって暮らしている種族。
    わたくしは両親と森の奥でひっそりと暮らしていました。
    ある日─人狼族がいるという噂を聞いてきた人間が来ました。わたくしも子供でしたから、その人間共に何の警戒もなく近寄り、捕らわれ─連れて行かれかけた所を両親が助けようと入りました。
    ですが、向こうは武器を持っていてこちらは丸腰、何より子供を人質に取られている。
    ─両親はあっさりと殺されました。わたくしの、目の前で。

    子供には刺激が強すぎて、非現実すぎて、何が何だか理解など出来ておりませんでした。
    気付いた時にはもう両親は息絶え、わたくしは研究所へと連れて行かれていたのです。

    …まぁ、研究所というよりは、刑務所に近かったですかね。奴隷のように扱われ、朝日が昇る頃から日付が変わるまで働かされる。下手をすればプリニーよりも酷い待遇。

    それまで裕福に育ってきた子供に、耐えられる負荷ではなかったのです。
    そして反抗し続けたわたくしに、ついに奴らから“罰”が下ることになります。

    語りながら、フェンリッヒは首の包帯を解いた。
    下から出てきたものに、ヴァルバトーゼが目を見開く。

    「お前、それは…!」
    「はい。“所有物”だという刻印です。特殊な焼印だったのか、未だに残り続けています」

    包帯の下には、痛々しい刻印があった。
    恐らく、人間なら耐えきれていないほどの酷さ。

    「恐らく、反抗し続けるわたくしが面倒になり、喉を焼こうとしたついででしょうが。この包帯は、それを隠すためのものであったということです。わたくしはこれを別部屋で付けられた後、部屋へ戻される前の一瞬の隙で相手を殺し、研究所から命からがら逃げおおせました」
    「…あっさりだな、お前は。まるで他人事のように……」
    「今となっては、他人事のようなものですよ。痛みも恐れもない、あるのは事実だけでございますから」

    淡々と言いながら、フェンリッヒは包帯を巻きなおした。

    「…逃げられた後は、怪我を治すために隠れ住んで─やがて、怪我が治った頃、傭兵稼業を始めました」
    「“月光の牙”だったか」
    「はい。いつの間にかそんな名前で呼ばれていたようですね。傭兵をしていた頃、とある依頼が飛び込んで来たのですが─」


    ─その日、依頼を持ってきたのは、実業家だと自己紹介する悪魔でした。

    「あんたか、月光の牙は…!」
    「…そんな名で呼ばれているようだな。で、わざわざ訪ねてきたってことは、何か依頼か?」
    「そ、そうだ。私の、私の子が…」
    「どうでもいい」
    「…は?」
    「アンタの気持ちだの背景はどうでもいいって言ってるんだ。オレが知りたいのはひとつ─金を、払うのか払わないのか、だけだ。どうなんだ?」
    「…払う!言い値を払ってやる!だから、奴を殺してくれ!!」
    「ならいい。…お座り下さい、お客様?」

    依頼人が持ってきた、ターゲットの名を見て驚きました。
    それは─わたくしを食い物にした、あの憎き人間だったのですから。

    「…殺したら、またアンタに連絡する。それまでは待っていてくれ」
    「ああ、頼む…!」

    あの時だけは、運命とやらに少し感謝しました。
    それから奴の情報を集めていくと、あの後も同じようなことを繰り返し、研究という名目で悪魔の子供を誘拐しては奴隷にして、解剖を行ったり売り飛ばしたりしていたようで。

    仕事という名目でも、個人的にも奴を許すことなど出来ず、わたくしは情報が集まって奴の居場所がわかった時についに復讐と依頼を果たしに行きました。
    ただ、向こうは覚えていなかったようですが。

    「な、なんだ貴様…!!」
    「オイタが過ぎたな、アンタも年貢の納め時ってやつだ。…オレにとっちゃ、この依頼は幸運だったがな」

    首の包帯を取って見せると、奴の顔がみるみる青ざめていきました。

    「お、お前は…!!被験体NO.─」
    「被験体じゃない。これから死ぬアンタには必要ないかもしれないが、教えてやる。オレはフェンリッヒ。通り名を“月光の牙”」
    「…!!月光の牙…!敵に回すことは死を意味するという、あの…!!」
    「よく知ってるな。あの日から一日たりとも、お前のことを忘れたことはなかった。依頼という形だが、オレ個人の恨みとしても─キサマを、殺す」

    終わりはあっさりしたものでした。
    子供の頃はあんなに恐ろしくて大きな存在だったというのに、殺す時はただ弱くて小さな存在だった。
    人間は傲慢な生き物ですから、きっと、悪魔を飼い慣らすことで自分たちが上だと思い込みたいのでしょう─


    「─閣下は昔から、人間は絆を作って悪魔に匹敵する力を手に入れるんだと仰っていましたが、ああいう根っからのクズもいるものですからね。敵ながら感心しますよ」
    「それは、お得意の嫌味か?」
    「どうでしょうか。まぁ、奴らはこの手で殺しましたから、きっとプリニーになってどこかで必死に働いていることでしょうね」
    「…そうか。だが、そのようなクズは、どこかでキッチリ再教育されていることだろう」
    「ええ。奴らのその顔を考えるだけで、心底から報われた気がしますよ」

    フフ、と2人は悪魔らしい笑みを浮かべる。
    ヴァルバトーゼとも出会うよりもっと前、もう数百─下手をすれば千年近くは前のことであろう出来事。

    「最後までお聞き頂いたこと、感謝いたします」
    「構わんと言っただろう。聞きたくもない話ならそう言っている」
    「フフ、そうでございますね」

    プリニーたちを攫われたあの日。
    あの日から忙しなく駆け回り、『恐怖の大王』を打ち倒した後も、なんだかんだと休む暇があまりなく、久々に2人だけで言葉を交わす静かな夜は、ゆっくりと更けていった。

    ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

    翌日、仲間たちと一緒にいる時に、フーカが昨日の話を持ち出して文句を言っていた。

    「─で、追い出されたのよ!酷くない!?」
    「いや、仕事を邪魔したお前も悪いだろ…」

    エミーゼルが至極真っ当なことを言った後、「でも」と言いながらヴァルバトーゼを見る。

    「確かに、お前はフェンリッヒのことなら何でも知ってそうって思うよな。逆もだけど」
    「ああ、さすがに何でもは知らん」
    「本当に知らないのか?包帯の話」
    「いや?昨日聞いたぞ」
    「閣下!?」
    「え、マジ!?マジで聞いたの!?なんだったの!?」

    あっさりと言ったヴァルバトーゼに、フーカが立ち上がって食いつく。
    皆の視線がヴァルバトーゼに集まるが、彼はフッ、と笑うと人差し指を口元に当てて静かに言う。

    「──秘密だ」

    常の彼なら言わなさそうなセリフに、シモベ以外から一斉にブーイングが上がる。
    だがその声にも動じず、ご機嫌な様子でまたイワシを喰らう。

    「まぁ、許せ。俺は今機嫌がいい」
    「ご機嫌なのですか?」
    「ああ。お前は普段、俺相手にでも自分のことを進んで話すことはせんだろう。それを昨日は話してくれたからな。お前をやり込めたようで、気分がいい」
    「…お戯れを」
    「安心しろ。昨日のことは誰にも言わぬ。─約束だ」
    「…それなら、安心でございますね」

    主は、必ず“約束”という言葉は守る。
    彼がその言葉を出してきたら、それは絶対になるのだ。

    「ちょっと、何ふたりの世界に浸ってるのよ!教えてくれたっていいじゃない!」
    「すまんな。“約束”なのでな。フェンリッヒの包帯の話は誰にも言わん」
    「…じゃあ、力ずくでフェンリっちさんの包帯を剥ぎ取るのデス!」
    「ほう、お前らがオレに力でも疾さでも勝てるとでも思っているのか?」
    「やっちゃうわよ、デスコ!アタシたち姉妹なら負けないわ!!」

    戦闘の雰囲気になった時、ヴァルバトーゼも立ち上がる。

    「良かろう。我がシモベに手を出そうというのなら、俺も黙ってはおらんぞ!」
    「な、なによ!アンタが話さないからでしょ!」
    「言っただろう、“約束”だとな。俺は約束は必ず守る。どうしても知りたくば、まずは俺たちを倒してみよッ!!」
    「お、おねえさま…デスコ、勝てる気がしないのデス…!」
    「弱気になってんじゃないの!行くわよ、デスコ!!」

    そのまま小競り合いが始まる。
    もっとも、規模は決して小競り合いなどではないが。

    「…止めなくていいのかな」
    「というか、わたくしたちでは止められませんわね、あれは」

    剣と斧が弾かれ合う。
    殴られた地面が陥没する。
    高揚するヴァルバトーゼと、それをフォローしながら隙を埋めるフェンリッヒ。
    2人の洗練されたコンビネーションは、いくら姉妹といえど破れるものではない。

    「とりあえず、治療する用意だけしておきますわね」
    「だな。…にしても、なんでフーカたちは正面から向かっていこうとするのかなぁ…」

    “暴君”と畏怖され、魔力を失ったはずなのに圧倒的な力を見せつけるヴァルバトーゼ。
    敵に回すことは“死”を意味するとまで言われた、『月光の牙』フェンリッヒ。
    ただ思い込みで悪魔と渡り合う少女と自称ラスボスではその実力差が埋まることは無い。

    気の済むまでやらせておこう、と意見が一致したエミーゼルとアルティナは、少し遠くからそれが終わるのを待った。


    数時間ほど続いた戦いは、ヴァルバトーゼたちの圧勝という形で終わる。
    そして、新党・地獄のメンツに新しい約束が出された。


    ヴァルバトーゼたち2人に勝つことが出来れば、包帯の話をする、と。


    ─その約束が果たされるのは、一体いつになることやら。それは、神も人も天使も─悪魔も、誰も知らない。

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    last_of_QED

    DOODLEディスガイア4に今更ハマりました。フェンリッヒとヴァルバトーゼ閣下(フェンヴァル?執事閣下?界隈ではどう呼称しているのでしょうか)に気持ちが爆発したため、書き散らしました。【悪魔に愛はあるのか】


    口の中、歯の一本一本を舌でなぞる。舌と舌とを絡ませ、音を立てて吸ってやる。主人を、犯している?まさか。丁寧に、陶器に触れるようぬるり舌を這わせてゆく。舌先が鋭い犬歯にあたり、吸血鬼たる証に触れたようにも思えたが、この牙が人間の血を吸うことはもうないのだろう。その悲しいまでに頑なな意思が自分には変えようのないものだと思うと、歯痒く、虚しかった。

    律儀に瞼を閉じ口付けを受け入れているのは、我が主人、ヴァルバトーゼ様。暴君の名を魔界中に轟かせたそのお方だ。400年前の出来事をきっかけに魔力を失い姿形は少々退行してしまわれたが、誇り高い魂はあの頃のまま、その胸の杭のうちに秘められている。
    そんな主人と、執事として忠誠を誓った俺はいつからか、就寝前に「戯れ」るようになっていた。
    最初は眠る前の挨拶と称して手の甲に口付けを落とす程度のものであったはずだが、なし崩し的に唇と唇が触れ合うところまで漕ぎ着けた。そこまでは、我ながら惚れ惚れするほどのスピード感だったのだが。
    ……その「戯れ」がかれこれ幾月進展しないことには苦笑する他ない。月光の牙とまで呼ばれたこの俺が一体何を 3613

    last_of_QED

    MOURNING世の中に執事閣下 フェンヴァル ディスガイアの二次創作が増えて欲しい。できればえっちなやつが増えて欲しい。よろしくお願いします。【それは躾か嗜みか】



    この飢えはなんだ、渇きはなんだ。
    どんな魔神を倒しても、どんな報酬を手にしても、何かが足りない。長らくそんな風に感じてきた。
    傭兵として魔界全土を彷徨ったのは、この途方も無い飢餓感を埋めてくれる何かを無意識に捜し求めていたためかもしれないと、今となっては思う。

    そんな記憶の残滓を振り払って、柔い肉に歯を立てる。食い千切って胃に収めることはなくとも、不思議と腹が膨れて行く。飲み込んだ訳でもないのに、聞こえる水音がこの喉を潤して行く。

    あの頃とは違う、確かに満たされて行く感覚にこれは現実だろうかと重い瞼を上げる。そこには俺に組み敷かれるあられもない姿の主人がいて、何処か安堵する。ああ、これは夢泡沫ではなかったと、その存在を確かめるように重ねた手を強く結んだ。

    「も……駄目だフェンリッヒ、おかしく、なる……」
    「ええ、おかしくなってください、閣下」

    甘く囁く低音に、ビクンと跳ねて主人は精を吐き出した。肩で息をするその人の唇は乾いている。乾きを舌で舐めてやり、そのまま噛み付くように唇を重ねた。
    吐精したばかりの下半身に再び指を這わせると、ただそれだけで熱っぽ 4007

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    律儀に瞼を閉じ口付けを受け入れているのは、我が主人、ヴァルバトーゼ様。暴君の名を魔界中に轟かせたそのお方だ。400年前の出来事をきっかけに魔力を失い姿形は少々退行してしまわれたが、誇り高い魂はあの頃のまま、その胸の杭のうちに秘められている。
    そんな主人と、執事として忠誠を誓った俺はいつからか、就寝前に「戯れ」るようになっていた。
    最初は眠る前の挨拶と称して手の甲に口付けを落とす程度のものであったはずだが、なし崩し的に唇と唇が触れ合うところまで漕ぎ着けた。そこまでは、我ながら惚れ惚れするほどのスピード感だったのだが。
    ……その「戯れ」がかれこれ幾月進展しないことには苦笑する他ない。月光の牙とまで呼ばれたこの俺が一体何を 3613

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    この飢えはなんだ、渇きはなんだ。
    どんな魔神を倒しても、どんな報酬を手にしても、何かが足りない。長らくそんな風に感じてきた。
    傭兵として魔界全土を彷徨ったのは、この途方も無い飢餓感を埋めてくれる何かを無意識に捜し求めていたためかもしれないと、今となっては思う。

    そんな記憶の残滓を振り払って、柔い肉に歯を立てる。食い千切って胃に収めることはなくとも、不思議と腹が膨れて行く。飲み込んだ訳でもないのに、聞こえる水音がこの喉を潤して行く。

    あの頃とは違う、確かに満たされて行く感覚にこれは現実だろうかと重い瞼を上げる。そこには俺に組み敷かれるあられもない姿の主人がいて、何処か安堵する。ああ、これは夢泡沫ではなかったと、その存在を確かめるように重ねた手を強く結んだ。

    「も……駄目だフェンリッヒ、おかしく、なる……」
    「ええ、おかしくなってください、閣下」

    甘く囁く低音に、ビクンと跳ねて主人は精を吐き出した。肩で息をするその人の唇は乾いている。乾きを舌で舐めてやり、そのまま噛み付くように唇を重ねた。
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    DOODLE主人に危機感を持って貰うべく様々なお願いを仕掛けていくフェンリッヒ。けれど徐々にその「お願い」はエスカレートしていって……?!という誰もが妄想した執事閣下のアホエロギャグ話を書き散らしました。【信心、イワシの頭へ】



    「ヴァルバトーゼ閣下〜 魔界上層区で暴動ッス! 俺たちの力じゃ止められないッス!」
    「そうか、俺が出よう」

    「ヴァルっち! こないだの赤いプリニーの皮の件だけど……」
    「フム、仕方あるまいな」

    何でもない昼下がり、地獄の執務室には次々と使い魔たちが訪れては部屋の主へ相談をしていく。主人はそれに耳を傾け指示を出し、あるいは言い分を認め、帰らせていく。
    地獄の教育係、ヴァルバトーゼ。自由気ままな悪魔たちを良く統率し、魔界最果ての秩序を保っている。それは一重に彼の人柄、彼の在り方あってのものだろう。通常悪魔には持ち得ない人徳のようなものがこの悪魔(ひと)にはあった。

    これが人間界ならば立派なもので、一目置かれる対象となっただろう。しかし此処は魔界、主人は悪魔なのだ。少々横暴であるぐらいでも良いと言うのにこの人は逆を征っている。プリニーや地獄の物好きな住人たちからの信頼はすこぶる厚いが、閣下のことを深く知らない悪魔たちは奇異の目で見ているようだった。

    そう、歯に衣着せぬ言い方をしてしまえば、我が主人ヴァルバトーゼ様は聞き分けが良過ぎた。あくまでも悪魔なので 7025

    last_of_QED

    DONER18 執事閣下🐺🦇「うっかり相手の名前を間違えてお仕置きプレイされる主従ください🐺🦇」という有難いご命令に恐れ多くもお応えしました。謹んでお詫び申し上げます。後日談はこちら→ https://poipiku.com/1651141/5571351.html
    呼んで、俺の名を【呼んで、俺の名を】



     抱き抱えた主人を起こさぬよう、寝床の棺へとそっと降ろしてやる。その身はやはり成人男性としては異常に軽く、精神的にこたえるものがある。
     深夜の地獄はしんと暗く、冷たい。人間共の思い描く地獄そのものを思わせるほど熱気に溢れ、皮膚が爛れてしまうような日中の灼熱とは打って変わって、夜は凍えるような寒さが襲う。悪魔であれ、地獄の夜は心細い。此処は一人寝には寒過ぎる。

     棺桶の中で寝息を立てるのは、我が主ヴァルバトーゼ様。俺が仕えるのは唯一、このお方だけ。それを心に決めた美しい満月の夜からつゆも変わらず、いつ何時も付き従った。
     あれから、早四百年が経とうとしている。その間、語り切れぬほどの出来事が俺たちには降り注いだが、こうして何とか魔界の片隅で生きながらえている。生きてさえいれば、幾らでも挽回の余地はある。俺と主は、その時を既に見据えていた。堕落し切った政腐を乗っ取ってやろうというのだ。
    2926

    last_of_QED

    CAN’T MAKE11/5新月🌑執事閣下🐺🦇【俺の名を、呼んで】今、貴方を否定する。
    「呼んで、俺の名を」の後日談。お時間が許せば前作から是非どうぞ→https://poipiku.com/1651141/5443404.html
    俺の名を、呼んで【俺の名を、呼んで】



     教会には、足音だけが響いている。祭壇の上部、天井近くのステンドグラスから柔い光が射し込んで、聖女の肌の上ではじけた。神の教えを広め、天と民とを繋ごうとする者、聖職者。その足元にも、ささやかな光を受けて影は伸びる。
     しんと凍えそうな静寂の中、彼女はひとり祭壇へと向き合っていた。燭台に火を分け、使い古しの聖書を広げるが、これは決してルーチンなどではない。毎日新しい気持ちで、彼女は祈る。故に天も、祝福を与えるのだろう。穢れない彼女はいつか天使にだってなるかもしれない。真っ直ぐな姿勢にはそんな予感すら覚える眩しさがあった。

     静けさを乱す、木の軋む音。聖女ははたと振り返る。開け放っていた出入口の扉がひとりでに閉まるのを彼女は遠目に見つめた。風のせいだろうかと首を傾げれば、手元で灯したばかりの蝋燭の火が揺らめき、何者かの息によって吹き消える。不可思議な現象に、彼女の動作と思考、双方が同時に止まる。奏者不在のパイプオルガンがゆっくりと讃美歌を奏でればいよいよ不穏な気配が立ち込める。神聖なはずの教会が、邪悪に染まっていく。
    6012