花を贈る人 数日ごとに来店し、花を買っていく若い男性客がいた。
花は決して安い買い物ではない。その頻度だけでも記憶に残りやすいが、なによりも私の胸に焼き付いていたのは、彼が醸し出していた雰囲気だった。
彼は清潔感のある身目よい青年だったけれど、いつもこわばった翳のある表情をしていて、顔色もあまりよくなかった。見た目どおりに礼儀正しい人で、私や他の店員と言葉を交わすときだけは笑みらしきものを浮かべるものの、会話が終わればまた思い詰めた表情に戻ってしまう。受け取った花を見下ろす彼の目には、底知れない絶望が浮かんでいるように見えた。
事情は少しだけ知っていた。彼が初めて来店したときに、「お見舞い用の花はありますか」と訊かれたからだ。どうやら彼の妹が入院しているらしく、少しでも病室を華やかにしたいとのことだった。そのときに、たとえ差し色であっても、赤色や赤みを帯びたものは絶対に入れないでほしいとも言われた。そう要望を出したときの彼の声は、少しふるえていた。
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