マレビト育成キット 女の喘鳴が聞こえる。
肺に水が溜まっているような、酷い音だ。
がらんとしたワンルームは明るかった。住む人間のいない部屋は、今まで経てきた生活の跡が全て除去されて、何も無い展示ケースのように淡々として静謐だ。だがそこに、濡れそぼった女の放つ濁った喘ぎ声だけが繰り返されている。
暁人はためらいつつ、リビングに足を踏み入れた。すぐ後ろでKKも息を潜めている。
カーテンの無い掃き出し窓から、昼下がりの柔らかい光が部屋を照らしている。
女は壁の隅にいた。住人が残した忘れ物のように、脈絡もなく倒れ伏していた。
暁人が近づくと、女はゆっくりと顔を上げた。
ごぼごぼと篭ったような水音がする。こんなにも明るい部屋にいながら、濁った深い水底を思わせる。重く、暗く、茫洋とした水。それはこの女の、胸腔にあたる所から聞こえる音だ。
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