死神騙しは繰り返す神は人に神託を与えるほか、地上に顕現することもしばしばある。
信仰を持たない神ならなおさら力を及ぼすために姿を表す。良かれ悪しかれ、望むと望まざるとに関わらずだ。
それがやるべきことである限り時間と同じでいかなる存在にも止めることはできない。
時間は深更を過ぎていた。
地上で己の仕事を果たし、朝を待たずに冥界へ飛び立とうとしていた黒い死神は、何かに気付き動きを止めた。
彼にしか分からない気配があるのかただの勘か偶然か、いずれにせよ運命はそれを彼のもとにのみ導く。
夜の闇と星明りに紛れるように現れた一匹の蝶。
ひらひらと揺れながら、それは意思を持つかのように死神のもとに飛んできた。
「…ザグ、また……」
目深のフードの内側から、思わず、といった調子でタナトスは呟く。
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