「なあ…、タンはその、自分で弄ったり、しないのか?」
反射で口に含んだものを吹き出しそうになる、という経験をタナトスは初めてした。
いま飲んでいるのは果実の香りがするだけの水だから決して酔っているはずがない。そう思っても、目の前のザグレウスの発言は素面かどうか疑いたくなるに十分だった。
有り体に言うと、下半身事情の話だ。
地上の人間と同じように体を重ねることで絆を確かめる文化は冥界にもある。
そして、ザグレウスとタナトスはその関係を結んだ間柄だ。結んだばかり、とも言う。
ともあれ、そういった伴侶としての話なのか、単に男性としての習慣の話なのか。
突然に思われる発言もザグレウスの中では一貫しているらしく、意図を図りかねるタナトスを待たず言葉を続ける。
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