Recent Search

    しきしま

    @ookimeokayu

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 72

    しきしま

    DONE浅見×大河東京の桜がいちばんの見頃を迎える頃、浅見から予約が入った。
    大河は、浅見の予約がない限りは別の男に抱かれることもなく、今まで通りの日々を送っていた。浅見が自分を囲っていて、他の男には渡さないようにしているのか、単純にそういった人間は少ないというだけなのか、それともまた他に理由があるのか、考えても大河にはよく分からなかった。別の板前に聞くのも躊躇われた。このことで色々と教えてくれたジローにさえ尋ねるのは恥ずかしいし、コウキやスバルにはなおさら言い難い。ましてや、尾上には口が裂けても言えなかった。浅見に執着し始めている自分を、誰にも知られたくなかったのだ。

     予約の日は、思っていたよりも早く訪れた。
     いつもの通り、運ばれていく料理を見つめながら桜の間で待っていると、予約していた18時ちょうどに、濃藍の着物に身を包んだ浅見が入ってきた。
     心の準備はできていたはずなのに、浅見の顔を見ると大河は期待と戸惑いでどうにもならなくなってしまった。浅見のほうは、割と飄々としていた。それが何となく、大河には気恥ずかしかった。かといって、戸惑っていて欲しいわけでもない。

    「会いたかったよ、可愛い僕の 3171

    しきしま

    DONE藤征一×鞍上卓弥こんなときに限って木曜日だった。
     スペアキーを使って入った藤さんの家で、勝手に作ったホットミルクを飲みながら、スマホアプリのラジオで耳慣れたパーソナリティの声を聴いていると切なかった。
    木曜日のパーソナリティは藤征一。ラジオは生放送で、終わるのは深夜2時。
    藤さんが帰ってくる頃には、おれはぐっすりと眠っているだろう。ラジオだって、最後まで聴けるかわからない。おれはだいぶ眠気に弱いほうだ。
    ラジオの向こう側の藤さんは、今週から始まったドラマの撮影の裏話に夢中だった。ドラマは学園ミステリーで、藤さんは教師役。主役である高校生を務めるのは、小山内奏佑という新人俳優だ。歳は俺より一つ上の二十歳。綺麗な顔立ちで、真面目で礼儀正しく、演技力の評価も高い。今最も注目を集めている俳優といっても過言ではない。そして藤さんは、そんな小山内奏佑にお熱のようなのだ。

    「奏佑くん、ほんとう、もう、すっごい可愛い。藤さん藤さーんってペタペタついてくるのがペンギンの赤ちゃんみたいで……、伝わる?これ、伝わるかなあ」

     スタジオからは苦笑いが聞こえる。SNSを覗くと、小山内さんのファンらしき人たちの喜びや感謝の 3332

    しきしま

    DONE佐藤さん×朝陽(※養子縁組)殺風景だった佐藤さんの部屋に、少しずつ俺のものが増えてきた。置いてある歯ブラシは常に二本になり、枕元に灰皿も置かれた。読んだまま戻し忘れた漫画で、本棚は歯医者の待合室みたいになった。そんなふうにして、俺の帰る家は六本木になった。
     まだ一年目の新人が六本木に引っ越すのを上司は少し訝しがったが、家族がそこに住んでいるのだと言うと、納得したようだった。
     それももうすぐ、嘘ではなくなるはずだ。

    「ほんとうにいいのかな、朝陽」

     カーテンの隙間から覗く月を見つめながら、佐藤さんは呟くように言った。その言葉は、もううんざりするほど聞いていた。心の中をそのまま映し出すように、手に持ったワイングラスの中の赤が揺れている。
    佐藤さんの気持ちも分かる。
    だからこそ、なおさら俺はうんざりしていた。

    「俺はそうしたいよ。佐藤さんは違うの?」
    「僕もそう思うよ、でも……」

     佐藤さんは、困ったような顔で俺を見た。

    「朝陽の人生を縛るのはイヤなんだ」

     俺は、人生を縛られたつもりはなかった。自分の意志でこの部屋にいて、自分の意志で、佐藤さんの養子になろうとしているのだ。
     ただ、佐藤さんと家族にな 3219

    しきしま

    DONE横顔
    (※独身×バツイチの元同級生)
    同窓会で久しぶりに会った柏木の薬指には、あるはずの指輪がなかった。
     すらっとした柏木のその綺麗な左手を見て、俺は喜びとも哀しみとも形容し難い、妙な感情を覚えた。あえて例えるとするならば、胸の奥で、悪魔が鍋を茹でているような感じだった。

     俺が柏木と会ったのは、高校の入学式だった。誰とも話さずに俯いている柏木を見て、俺は、大人しいやつだな、と思った。本当にそれだけだった。
     入学式が終わると、俺たち一年生は激しい部活の勧誘に逢った。俺はその人波をかき分けて、入学する前からずっと入部すると決めていた軽音部の部室に入った。そこでは、上級生たちがライブをやっていた。
     ライブは盛り上がっていたが、俺はうまくその空気についていけないでいた。ライブに行ったことがないわけではなかったが、演者も客も誰一人知らない中で、緊張していたのだと思う。そんな中で、ふと横を向いた時、隣にいたのが柏木だった。
     柏木は、乗ることも、乗ったふりをすることもなく、ただ黙って演奏を聞いていた。その真面目な横顔が、柏木と世界との境目が、どうしてか美しく見えた。

    「つまらない?」

     俺は、今日初めて会ったばかりのその 4473

    しきしま

    DONEパ◯活はじめました の バレンタイン の話です。駅でチョコレートを売っている店に長蛇の列が出来ていて、そこで初めて俺は今日がバレンタインデーであることに気づいた。時間に追われながら仕事をしていたから、そんな些細なイベントに目を向ける余裕もなかった。
     俺には関係ないな、とその群れを一瞥して、埼京線のホームへ足を運ぶ。今日は昼から佐藤さんに会うことになっていた。
     日曜日の埼京線は、通勤ラッシュほどではないにしろそれなりに混んでいた。吊り革に掴まりながら、空いている手でスマートフォンを見る。楽しみにしているね、という佐藤さんのメッセージだけが、切り取られたように俺の頭に滲んだ。
     新宿駅で降りて、東口に出る。待ち合わせをしている人の群れが街の喧騒を象っていた。カップルがやけに多かった。きっとバレンタインデーだから、みんな浮かれているのだろうと思う。恋人が見つかって笑顔を浮かべる男女を横目に見ながら、俺は佐藤さんを待った。
     佐藤さんは、待ち合わせの時間ちょうどに来た。ネイビーのフーデットコートを羽織って、黒いセカンドバッグを小脇に抱え、それとは別に、ベージュの紙袋を持っていた。

    「待たせてごめんね、朝陽」
    「いや、俺が早く来ただけな 2640