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DOODLE神田と弓場ちゃん冬の一幕てのひらに愛を 本部からの帰路、隣に歩く神田がスクールバッグを持ち換えた拍子に弓場は気づいた。
「どうした」とかけた声に神田は「え?」と振り返る。
「手袋だよ、どうした」
言われて、ああ、と呟くように答えた神田が浮かべた十八歳の少年相応のはにかんだ笑みに弓場は慈しむように目を細めた。
弓場が知る冬の神田の手を覆っていたレザーの手袋は小学生の時に亡き父へと贈った誕生日プレゼントだったが、タンスの肥やしにしていても仕方がないでしょ、品物はちゃんと使ってあげなきゃという母親の言葉のもと、サイズが合うようになったこともあって大事に使われていたものだった。
「すみません、弓場さん。帯島に貸しちゃって」
「帯島に?」
「ええ。あいつ、朝会った時に手袋を学校に忘れたって言って手、こすってたんですよ。寒そうに真っ赤な指で」
885「どうした」とかけた声に神田は「え?」と振り返る。
「手袋だよ、どうした」
言われて、ああ、と呟くように答えた神田が浮かべた十八歳の少年相応のはにかんだ笑みに弓場は慈しむように目を細めた。
弓場が知る冬の神田の手を覆っていたレザーの手袋は小学生の時に亡き父へと贈った誕生日プレゼントだったが、タンスの肥やしにしていても仕方がないでしょ、品物はちゃんと使ってあげなきゃという母親の言葉のもと、サイズが合うようになったこともあって大事に使われていたものだった。
「すみません、弓場さん。帯島に貸しちゃって」
「帯島に?」
「ええ。あいつ、朝会った時に手袋を学校に忘れたって言って手、こすってたんですよ。寒そうに真っ赤な指で」
uncimorimori12
DONEかんゆば短いけど初めて書いた
気の利かない男「え、じゃあ今日の弓場ちゃんもしかして全身神田くんコーデやったりする?」
立ち昇る薄煙の向こうから、相変わらずの無表情で生駒が弓場の腕時計を指差す。目の前の友人は基本的にコンクリートで固めたように表情筋が動かないが、その代わり身振りや声の調子で如実に、誰よりも分かりやすく感情を伝えてくる。その不器用だか器用だか分からない友人は声にありありと愕きを乗せながらカルビを裏返した。生駒の隣に座っていた柿崎も生駒の声に釣られ弓場を頭の天辺から辿るように眺めると、「あー、確かに」と感心したように頷く。
「そういやそのシャツ神田くんと買い物行った時買ったって言ってたよな」
「靴は確か去年の誕生日プレゼントに神田くんから貰ったんだよな」
7306立ち昇る薄煙の向こうから、相変わらずの無表情で生駒が弓場の腕時計を指差す。目の前の友人は基本的にコンクリートで固めたように表情筋が動かないが、その代わり身振りや声の調子で如実に、誰よりも分かりやすく感情を伝えてくる。その不器用だか器用だか分からない友人は声にありありと愕きを乗せながらカルビを裏返した。生駒の隣に座っていた柿崎も生駒の声に釣られ弓場を頭の天辺から辿るように眺めると、「あー、確かに」と感心したように頷く。
「そういやそのシャツ神田くんと買い物行った時買ったって言ってたよな」
「靴は確か去年の誕生日プレゼントに神田くんから貰ったんだよな」
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DONE今日無配したかんゆば。弓場ちゃん、19歳の誕生日の朝のお話。
6ペンスの恋人――おとうさん、これなに? 何円硬貨?
神田がまだ小学校に上がる前のことだった。
何かを探していて開けた、父親の部屋のデスクの引き出しの中に、古いコインを見つけて尋ねた。
コインには女性の横顔と、反対側には植物のような模様だけがあって、神田が知っている硬貨のようにどちらかには大きく額面が印されていることはなかった。
――ああ、それはイギリスのお金だよ。だいたい十円くらいになるのかな。と言っても、いまは使われてないんだけど。
そう教えてくれた父は、懐かしいなあ、と息子の小さな手の中にある、銀色の古びた銀貨を見て目を細めた。
――ええと確か、そう、Something old, something new, something borrowed, something blue, and a sixpence in her shoe.
8955神田がまだ小学校に上がる前のことだった。
何かを探していて開けた、父親の部屋のデスクの引き出しの中に、古いコインを見つけて尋ねた。
コインには女性の横顔と、反対側には植物のような模様だけがあって、神田が知っている硬貨のようにどちらかには大きく額面が印されていることはなかった。
――ああ、それはイギリスのお金だよ。だいたい十円くらいになるのかな。と言っても、いまは使われてないんだけど。
そう教えてくれた父は、懐かしいなあ、と息子の小さな手の中にある、銀色の古びた銀貨を見て目を細めた。
――ええと確か、そう、Something old, something new, something borrowed, something blue, and a sixpence in her shoe.
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MOURNINGpixivの「春にして此処を離れ」「とてもちいさなまち」のうすぼんやり続いてるような続いてなくてもいいような話を書きかけてたのが見つかったので。ちゃんと手をつけられるのか分からないのでポーイ。おもいの果 前日は家族と、前々日は友人たちと過ごすだろうからな。だったら四日前くらいが案配がいいか。その日、空いてるか、神田。
そんなことを打診されたのは、かつての同僚でもあった王子隊のふたりも招いての打ち上げの場だった中華料理屋を出ていこうとするその時だった。数日前に、抱いたばかりの弓場から。
そして、季節の変わり目に体調を崩すなんて久々で呆れる、と自嘲気味の弓場からのメッセージが神田の個人端末に飛んできたのは、約束した日の前日のことだった。俺からスケジュールを抑えさせておきながらすまない、とも。
風邪をこじらせたようなものだから心配するな、と付け加えらえてはいたものの、自分から申し出た約束を違えるなど、義理堅く、仁義に篤い彼がめったなことではするはずもなく、翌日神田は思いつく限りのお見舞いの品を抱えて、弓場の元へと向かった。
3389そんなことを打診されたのは、かつての同僚でもあった王子隊のふたりも招いての打ち上げの場だった中華料理屋を出ていこうとするその時だった。数日前に、抱いたばかりの弓場から。
そして、季節の変わり目に体調を崩すなんて久々で呆れる、と自嘲気味の弓場からのメッセージが神田の個人端末に飛んできたのは、約束した日の前日のことだった。俺からスケジュールを抑えさせておきながらすまない、とも。
風邪をこじらせたようなものだから心配するな、と付け加えらえてはいたものの、自分から申し出た約束を違えるなど、義理堅く、仁義に篤い彼がめったなことではするはずもなく、翌日神田は思いつく限りのお見舞いの品を抱えて、弓場の元へと向かった。
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DOODLE積極的な弓場たそなかんゆば。 その日、作戦室にやって来た弓場の姿を見て、神田は目を丸くした。
「どうしたんですか、その恰好」
「通り雨に打たれちまってな」
頭から靴の先までびしょ濡れのありさまで弓場は肩をすくめた。
「だったら換装すれば良かったのに」
「どのみちトリガーオフすりゃずぶ濡れに逆戻りだ」
「そりゃそうですが」
着替えを置いておいて良かったよ、と弓場はポケットに入れておいた携帯端末やキーホルダーをテーブルの上に置いた。
が。
「……どうした?」
「い、いえ」
こちらを見はしたものの、目を逸らした神田に弓場は眉をひそめる。が、すぐに合点がいった。ぐっしょりと濡れた結果羽織っていたプルシャツが貼りつき、タンクトップこそ下に着ていたものの、肌があちこち透けて見えていた。
599「どうしたんですか、その恰好」
「通り雨に打たれちまってな」
頭から靴の先までびしょ濡れのありさまで弓場は肩をすくめた。
「だったら換装すれば良かったのに」
「どのみちトリガーオフすりゃずぶ濡れに逆戻りだ」
「そりゃそうですが」
着替えを置いておいて良かったよ、と弓場はポケットに入れておいた携帯端末やキーホルダーをテーブルの上に置いた。
が。
「……どうした?」
「い、いえ」
こちらを見はしたものの、目を逸らした神田に弓場は眉をひそめる。が、すぐに合点がいった。ぐっしょりと濡れた結果羽織っていたプルシャツが貼りつき、タンクトップこそ下に着ていたものの、肌があちこち透けて見えていた。
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DOODLE神田×弓場欲しいものはおまえだけ「弓場さん、何か欲しいものはありますか」
そう告げたのは、何度か訪れたホテルでの二時間だけの逢瀬の、その終を迎えた後だった。
「なんでェ、いきなり」
クリスマスは終わったばかりだぞ、とシャワーから戻ってきた弓場は、濡れ髪を手でかきあげながら眉をひそめ、まだベッドに寝転んだままの神田の傍らに腰を下ろした。
「……って、おい、こら」
神田は腕を回し、浴びた湯のせいか、それとも情事の名残か、まだ熱をとどめる弓場の体を後ろから抱き込むと首筋に顔を埋めて囁いた。
「次に来るあんたの誕生日、一緒にはいられないから、先払いしておこうかと」
「先払いときたか。もう少し情緒のある言い草はできねえのか」
弓場は笑って体を返すと、年下の情人の頬をつまみ上げる。
1258そう告げたのは、何度か訪れたホテルでの二時間だけの逢瀬の、その終を迎えた後だった。
「なんでェ、いきなり」
クリスマスは終わったばかりだぞ、とシャワーから戻ってきた弓場は、濡れ髪を手でかきあげながら眉をひそめ、まだベッドに寝転んだままの神田の傍らに腰を下ろした。
「……って、おい、こら」
神田は腕を回し、浴びた湯のせいか、それとも情事の名残か、まだ熱をとどめる弓場の体を後ろから抱き込むと首筋に顔を埋めて囁いた。
「次に来るあんたの誕生日、一緒にはいられないから、先払いしておこうかと」
「先払いときたか。もう少し情緒のある言い草はできねえのか」
弓場は笑って体を返すと、年下の情人の頬をつまみ上げる。
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MAIKING神田×弓場https://twitter.com/tsunapal/status/1482615240986886145 のやつ~
気が向いたら続きを書く~
殆んど奇蹟の如き 僥倖、と言ってしまっていいのだろうか。
「……どうした、神田。上の空じゃねェーか」
神田の唇のはざまから、ぬるりとふたりの唾液で濡れそぼった舌を引き出しながら、弓場が熱をこもらせた声で囁く。
「弓場さんの舌が気持ち良過ぎて、ぼんやりしちゃってるだけですよ」
トリオン体の時とは異なり、下がって乱れた前髪の向こうの夜色の瞳が神田を映す。そこある己の間の抜けた姿に、神田は苦笑しそうになる。
ことこの期に及んで未だ、この状況を現実として受容しきれていない己に。
(俺って意外に器が小さかったんだな)
「初めてってェーわけでもねェのに、可愛げのあることを言いやがるな」
くくくと喉を震わせ、弓場は「だったらもう一度だ」と親指を神田の下唇にあてがって、軽く開かせるとぬめる舌を内奥へと忍び入れさせた。
2620「……どうした、神田。上の空じゃねェーか」
神田の唇のはざまから、ぬるりとふたりの唾液で濡れそぼった舌を引き出しながら、弓場が熱をこもらせた声で囁く。
「弓場さんの舌が気持ち良過ぎて、ぼんやりしちゃってるだけですよ」
トリオン体の時とは異なり、下がって乱れた前髪の向こうの夜色の瞳が神田を映す。そこある己の間の抜けた姿に、神田は苦笑しそうになる。
ことこの期に及んで未だ、この状況を現実として受容しきれていない己に。
(俺って意外に器が小さかったんだな)
「初めてってェーわけでもねェのに、可愛げのあることを言いやがるな」
くくくと喉を震わせ、弓場は「だったらもう一度だ」と親指を神田の下唇にあてがって、軽く開かせるとぬめる舌を内奥へと忍び入れさせた。
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DONE遠征選抜試験初日の夜。来馬5番隊の二人用寝室にて。神田を送り出しながも見送れない弓場と、いつか鋼を見送るかもしれない来馬と。
涙のゆくえ「若いのに古寺くんはきちんとしてるね。ちゃんと使えるものは使おうとしてて」
閉鎖環境試験初日の夜、話し合いの結果、5番隊の二人部屋の寝室を割り当てられたのは隊長の来馬と弓場だった。
今日の振り返りと、明日の予定の洗い直しをざっとした後、ふと思い出したようにベッドに腰かけた来馬はそう、口にした。
「でも結構まっすぐなアプローチだから、もう少し駆け引きっていうかそういう綾みたいなものを覚えられるといいかもしれないね」
「ッスね。あの調子で諏訪さんあたりに伺ってたんだとしたら、ちったァ痛い目見たかもしれねェーと思います」
「でも、それも経験だからね」
ふふ、と優しげな口元を楽しそうにほころばせた。
試験に於いてはライバルの立場とはいえ、若木が育つのを感じてだろう、来馬は嬉しそうだった
4818閉鎖環境試験初日の夜、話し合いの結果、5番隊の二人部屋の寝室を割り当てられたのは隊長の来馬と弓場だった。
今日の振り返りと、明日の予定の洗い直しをざっとした後、ふと思い出したようにベッドに腰かけた来馬はそう、口にした。
「でも結構まっすぐなアプローチだから、もう少し駆け引きっていうかそういう綾みたいなものを覚えられるといいかもしれないね」
「ッスね。あの調子で諏訪さんあたりに伺ってたんだとしたら、ちったァ痛い目見たかもしれねェーと思います」
「でも、それも経験だからね」
ふふ、と優しげな口元を楽しそうにほころばせた。
試験に於いてはライバルの立場とはいえ、若木が育つのを感じてだろう、来馬は嬉しそうだった
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DONEhttps://twitter.com/tsunapal/status/1414593875008651267の流れ。お盆に(肉親は)誰もいない三門にそれでも里帰りする神田。
きみがいるだけで おめェーの図体だと食いたりねェーだろう。
弓場家での夕食が済み、お客さんにそんなことをさせるなんてという弓場の両親に人たらしの笑顔でいなしながら、後片付けを手伝い終えた神田にかけられたのがその一言だった。
「いえ、そんなことは……」
「駅前のラーメン屋にちょっといってくる。ボーダーにいた頃からよく行ってたから神田には懐かしい味だろうし」
家族にそう断って、戸惑い顔の神田を弓場は強引に外へと連れ出した。防衛隊員として夜討ち朝駆けで出ていくことも多く、成人した長男とその部下だった青年の間で積もる話もあろうと推してくれたのか、父親も母親も黙って送り出してくれた。
その道の途中。並んで歩きながら、弓場がぽつりと口を開いた。
1508弓場家での夕食が済み、お客さんにそんなことをさせるなんてという弓場の両親に人たらしの笑顔でいなしながら、後片付けを手伝い終えた神田にかけられたのがその一言だった。
「いえ、そんなことは……」
「駅前のラーメン屋にちょっといってくる。ボーダーにいた頃からよく行ってたから神田には懐かしい味だろうし」
家族にそう断って、戸惑い顔の神田を弓場は強引に外へと連れ出した。防衛隊員として夜討ち朝駆けで出ていくことも多く、成人した長男とその部下だった青年の間で積もる話もあろうと推してくれたのか、父親も母親も黙って送り出してくれた。
その道の途中。並んで歩きながら、弓場がぽつりと口を開いた。
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MAIKING今宵星がきみに降りるから高三弓場ちゃ、神田や蔵内、王子たちが二年のまだ旧弓場隊の頃のクリスマス前後。
弓場が大学進学が内定したあたりで王子は独立する予定。六頴館だからもう決まってるのかな……六頴館高校から本部へと、部下の神田と蔵内を共に向かう道の途中、弓場がふと足を止めたのは青果店の前だった。
「神田、蔵内、おまえら、リンゴ好きか?」
「……? 好きですよ」
「ええ。王子がたまに淹れてくれるアップルティーを楽しみにするくらいには」
「そうか。なら、キャラメリゼして……」
何事か小さくつぶやいた弓場は少し考えてから、一見梨にも見えそうな薄い黄色の皮の林檎を幾つか買い求めた。
「煮るんなら紅玉みてェな酸いリンゴのほうが味が際立つんだが、甘みが強いならキャラメルソースにも負けねェだろ」
星の金貨、と書かれた林檎を掌に納めて、弓場は透明なレンズの奥の天鵞絨《ベルベット》のようなしっとりした夜の色でありながら品の良い光沢を備えた瞳を細めた。
「星の金貨……? っていうと昔のドラマの?」
「関係ねェよ。見た目が金貨みたいな淡い色だからそう名付けたって話だ。品種名はあおり15だったかな」
「弓場さん、農学部にでも行くんですか」
「ねえだろ、三大《サンダイ》には」
何言ってんだと弓場は笑いかけた蔵内にひとつ手渡し、もうひとつには軽くキスをしてから、神田へと放り投げた。お手玉をするよ 720
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DONE弓場ちゃんと王子。愛はないが情はある。王子は水上と関係があるし、弓場と神田も何かあるかもしれません。まあありますね。べったーに置いたのを持ってきました。
夢の途中ぼくはいつかあなたの元を離れると思います。だから、もし、いつか作るぼくの隊が、あなたの隊をランク戦で抜くことが出来たら、ぼくの願いをひとつだけ叶えて貰えますか。弓場先輩しか叶えられないお願いです。それは……。
そんなやりとりをしたのは、王子が弓場隊に入隊した直後のこと。まだ、弓場が六頴館の制服に袖を通して、王子が中学の制服を身につけていた春のこと。
「あなたは最愛の腹心である神田を手放した上に、神田と同じ隊員だったぼくと寝るんだ。とてつもない罪悪感で死にそうなくらいじゃないんですか。後悔してませんか、あんな約束するんじゃなかったって」
「ふざけんなよ、王子」
シティホテルの一室で、熱いシャワーに当たって色白の肌を上気の色に染めて見上げる王子を、ベッドにむっつりとした顔で座り込んだ弓場がねめつける。
1506そんなやりとりをしたのは、王子が弓場隊に入隊した直後のこと。まだ、弓場が六頴館の制服に袖を通して、王子が中学の制服を身につけていた春のこと。
「あなたは最愛の腹心である神田を手放した上に、神田と同じ隊員だったぼくと寝るんだ。とてつもない罪悪感で死にそうなくらいじゃないんですか。後悔してませんか、あんな約束するんじゃなかったって」
「ふざけんなよ、王子」
シティホテルの一室で、熱いシャワーに当たって色白の肌を上気の色に染めて見上げる王子を、ベッドにむっつりとした顔で座り込んだ弓場がねめつける。
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DOODLE合コンの頭数合わせに呼ばれてうっかりした弓場ちゃんが神田に回収されるの巻。(https://twitter.com/palco87/status/1331039561263181824)合鍵を貰っておいて良かった、と居酒屋から何とかか彼の部屋まで連れて帰ってきた弓場をベッドに横たえて、水やタオル、万が一嘔吐した時のことを考えてバケツと新聞紙をその傍らに用意する。
「すまねェ」
一度も聞いたことのない弱々しい弓場の声に、神田は眉をひそめながらもベッドの近くに引き寄せた椅子に腰かける。
「大丈夫ですか?」
「こんなことなら手ェすべったフリでもしてグラスを倒すほうが利巧だったかもしんねェな」
「?」
意味が分からずきょとんとした顔の神田に、店に迷惑かけるしなァと、弓場は言い足し、
「俺の隣に座ってた女が化粧直しに立った隙に、反対側に座ってた奴が一服盛った気配があってな」
「は!?」
話には聞いたことはあるがそれは犯罪では???と神田はまなこが落ちそうなくらいに目を剥いた。
「胸倉掴んで鼻骨のひとつもへし折ってやっても良かったんだが、幹事の知り合いの諏訪さんたちの顔ォ潰すわけにも行かねェーからな。間違ったフリして俺が呑んじまえばいいやと思って、一気に空けちまったんだが、睡眠導入剤ってやつだっけ? 結構効くもんだな。未成年だってェーのは言ってあったから酒呑むわけにはいかね 966
palco_WT
MAIKING去年の六頴館高卒業式当日の小話。弓場生徒会長だったらいいねと素面ででっちあげてます。同設定で辻犬(こちらは時間軸はほぼ原作リアルタイム)バージョンはべったに。https://privatter.net/p/6250467 甘い、というよりは清廉な香りだな、と神田は思った。その手には小さな容器に入れられた、南天の実と緑の色の濃いグリーンリーフを添えて、淡いイエローのフローラルテープでくるりとまとめられた白い薔薇のブートニア。
彼の足が向かったのは、一階の玄関ホールからすぐのところだった。いつも埃ひとつつかないように拭かれたプレートは歳月を示すように少し黄ばんではいるけれど、かつては墨痕も鮮やかにしたためられていたのではあろう、今は少しだけかすれてしまった四文字が書かれていた。
――生徒会室。
「二年A組神田忠臣、入室の許可を願います」
ノックを二回の後、大きくはないがよく響く豊かな声で室内に問うと、「入れ」とややもするとぶっきらぼうに聞こえる声が応じた。だが神田は、その、耳に馴染んだ声に僅かに口元をほころばせた。
1466彼の足が向かったのは、一階の玄関ホールからすぐのところだった。いつも埃ひとつつかないように拭かれたプレートは歳月を示すように少し黄ばんではいるけれど、かつては墨痕も鮮やかにしたためられていたのではあろう、今は少しだけかすれてしまった四文字が書かれていた。
――生徒会室。
「二年A組神田忠臣、入室の許可を願います」
ノックを二回の後、大きくはないがよく響く豊かな声で室内に問うと、「入れ」とややもするとぶっきらぼうに聞こえる声が応じた。だが神田は、その、耳に馴染んだ声に僅かに口元をほころばせた。
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DONEオール・ダージュplus5二十歳になった弓場ちゃんと王子と記憶の中の神田。
タイトルに困ったあげく、ブランデーの十五年もの+5で二十年って意味にこじつけた。゚(゚´Д`゚)゚。
ランク戦と遠征選抜試験の三月が過ぎ、四月を迎え五月を控える、世間ではゴールデンウィークと呼ばれる頃、弓場は二十歳になった。
一日早く二十歳になった生駒を含めた同輩のみならず、気のいい隊員や、元隊員たちはせっかくだからパーティでもしませんかなどと可愛いことを言ってはくれたが、せっかくのランク戦オフシーズンで任務だけしか決まった予定の入ってない貴重な時期、どうせなのだから巧くスケジュールをやりくりして、授業のない期間にしか出来ないことをしろ、ときっぱり断ったのだった。
「……って俺は言ったはずだぞ、王子ィ」
「承知してます。だからこれはぼく個人の用向きです」
築二十年という、奇しくも弓場と同い年のアパートの玄関の前に立っているのは、かつての部下であり、今では同じB級隊長として競い合う好敵手でもある若者だった。明るい色のトップスにサマーカーディガンを羽織り、タッセルのついたバブーシュという少女めいたコーディネイトが似合う彼は、ひょい、と手にしていた小さめの可愛らしい紙袋を顔の高さまで持ち上げてみせた。
2645一日早く二十歳になった生駒を含めた同輩のみならず、気のいい隊員や、元隊員たちはせっかくだからパーティでもしませんかなどと可愛いことを言ってはくれたが、せっかくのランク戦オフシーズンで任務だけしか決まった予定の入ってない貴重な時期、どうせなのだから巧くスケジュールをやりくりして、授業のない期間にしか出来ないことをしろ、ときっぱり断ったのだった。
「……って俺は言ったはずだぞ、王子ィ」
「承知してます。だからこれはぼく個人の用向きです」
築二十年という、奇しくも弓場と同い年のアパートの玄関の前に立っているのは、かつての部下であり、今では同じB級隊長として競い合う好敵手でもある若者だった。明るい色のトップスにサマーカーディガンを羽織り、タッセルのついたバブーシュという少女めいたコーディネイトが似合う彼は、ひょい、と手にしていた小さめの可愛らしい紙袋を顔の高さまで持ち上げてみせた。