「あ」
花だ。
横を歩いていた相沢が立ち止まり、そう呟いて横道に逸れる。勝手にどこかに行くな、と心の中で言いつつ屈んだ相沢に近づく。
「花って、小さい頃はそのへんに咲いてた気がするのに、今はそんなに咲いてないですよね」
その言葉に、普段の景色を振り返る。まあ言われてみればそうかもしれないけど、という程度であまり減った印象はないように思えた。「視線が高くなって見えなくなっただけじゃない?」と返せば「にゃはは、そうかもです」と返ってきた。
「綺麗に咲いてるなあ」
「これはマーガレットだね」
まーがれっと、そう呟いて目を瞬かせるのを見るに、知らなかったのだろうか。
「マーガレットって言葉は聞いたことあるんですけど、この花のことを言うんですね」
「マーガレットは割と誰でも知ってるイメージだけど」
へえ、なんて言いながら視線を花に向けた相沢は思いついたように言う。
「静さんって、花占いしたことあります?」
花占い。その存在は知っているけれど、実際にやったことはない。その主を伝えるために「ないけど」と言えば、そうなんですか、と短い返答が返ってきて意外に思った。
「相沢はあるの」
聞けば、ありますよとマーガレットを見つめたまま答えた相沢に、好きな人とかいたってこと?と、さらに聞いてみる。
「逆に聞きますけど、花占いってどんな時にすると思います?」
「想い人がいる時」
つまりそういうことですよ、と振り返ってドヤ顔をかます相沢に思わずため息をつきそうになって飲み込んだ。
そうなんだ、となんとか絞り出して言えば、「うわー、興味なさそう」と言われてそのまま相沢を置いて1人で帰ろうか迷う。
「でも、静さんが花占いしたことないの、なんとなくわかります」
「何、ばかにしてる?」
違いますよ、と相沢はこちらを見上げて、「静さんって植物好きだから、花とか摘んだりしなさそうだなって」
「別に。今はしないけど、子どもの頃はそうでもなかったよ。今も、花を摘むのが悪いことだとは思わないし」
相沢は意外そうな顔をする。その顔を見て、さらに言葉を続けた。
「花を摘むことによって幸せになる人だっているでしょ。プレゼントとか。花占いも、別に悪いことだと思わないよ」
相沢は一度下を向いて、もう一度目を合わせて、いいですね、なんか、それ。と寂しそうな顔をしたように見えた。
「……まあ、相沢って一途そうだから、相沢が花占いをするくらいに想われるその相手ってすごく幸せ者だと思うよ」
そう言って相沢の顔を見れば、相沢はものすごく驚きました、みたいな顔をしていて、こちらも驚く。
「……え、そう思います?」
「え、うん、なに、どうしたの」
はあ〜〜〜と、相沢は大きくため息をついてもう一度花に向き直って手を伸ばす。
おそるおそる、みたいな動作で相沢が花を撫でたので優しく花が揺れた。
その様子を見つめていると、ぱっと、相沢は立ち上がって振り向いた。
じゃあ、行きましょうか、なんて言って明るく笑う相沢に、少しの呆れと少しの安心が混ざってただ隣を歩くしかできなかった。