ドライヤー ジェイが風呂から上がると、アッシュがソファに座って雑誌を読んでいた。その隣りに腰掛けて、ジェイは濡れた髪をバスタオルで拭く。
「おい、テメェ……。髪は洗面所で乾かしてこいといつも言ってんだろうが!」
「ん? ああ、すまん。つい面倒臭くて……」
「チッ……、これだから老いぼれは……」
アッシュは手にしていた雑誌を置くと、立ち上がって洗面所へと足を向けた。ドライヤーを手に戻ってきた彼は、再びジェイの隣りに座るとスイッチを入れて、温風をジェイの髪に当ててくる。
「おぉ! ありがとう、アッシュ!」
「ふんっ、ソファが濡れたら嫌なだけだ。老いぼれのためじゃねぇ」
ぶっきらぼうに言いながらも、ジェイの髪を乾かすアッシュの手つきはとても優しい。
(なんだかんだと文句を言いながらも世話を焼いてくれるんだよなぁ)
口が悪いし態度も悪いが、根は優しくて面倒見がいい。そんな彼のことが愛おしいと思う。ふっと笑みを浮かべるジェイを見て、アッシュは眉間にシワを寄せた。
「何笑ってやがる?」
「いや、なんでもないさ」
「……気色悪ぃ顔してんじゃねぇよ」
そう吐き捨てるように言うが、アッシュの手の動きは優しいままだ。それが嬉しくて、ジェイはますます顔を緩ませる。
「ったく、なんなんだよ……」
アッシュは呆れたように呟くが、それ以上は何も言わずに黙々とジェイの髪を乾かし続けた。その沈黙さえも心地よく感じられる。
「ほら、終わったぞ」
「ああ、ありがとうなアッシュ」
「ふんっ……」
そっぽを向いて鼻を鳴らすアッシュの横顔を見つめながら、ジェイはしみじみと思う。
(俺は幸せ者だなぁ……)
アッシュと恋人になってもうすぐ二年になるだろうか。一緒に暮らし始めてからも一年近く経つ。喧嘩をすることもあるが、基本的には良好な関係を築いていると思っている。憎まれ口を叩きながらもこうして尽くしてくれる彼を見ていると、愛おしさが膨れ上がって止まらない。思わず手が伸び、ぽんぽんと頭を撫でる。
「あァ!?︎」
アッシュにじっとりと睨まれたが、構わずにそのまま引き寄せて抱き締める。ぎゅっと力を込めると、意外にも抵抗はされなかった。大人しく腕の中に収まった彼に満足しながら、耳元で囁く。
「アッシュ……、愛してる」
すると途端にビクッと身体を震わせたアッシュの顔が真っ赤に染まっていく。そして盛大に舌打ちをしたかと思った次の瞬間、胸を強く押されて引き剥がされた。
「調子に乗ってんじゃねぇよ! ︎老いぼれが!」
ドスドスと荒々しい足音を立てて部屋を出ていく後ろ姿を見送りながら、ジェイは苦笑いを浮かべた。
「相変わらず照れ屋だな」
だが、そういうところが堪らない。今日もまた彼を好きになったと実感したジェイだった。