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    佳芙司(kafukafuji)

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    リンク集【https://potofu.me/msrk36

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    POIPOI 71

    高級マンションの一室を元家族の為に買ったけど結局使ってもらえなかったから仕方なくそのままセーフハウスにしてたジェイと其処に連れ込まれたアッシュの話。

    #ジェイアシュ
    j.a.s.

    空の水槽(ジェイアシュ) 部屋の照明はベッドサイドのランプだけ。白い壁紙が光を反射して思いの外室内を明るく照らす。東に面した窓しかないこの寝室は昼間はきっと薄暗いのだろう。
     アッシュはこの部屋に足を踏み入れた瞬間に感じた事を反芻した。声を出し過ぎて喉がひり付く。

    「不自然にもほどがあるな」
    「なにが、だ?」

     寝返りを打つ要領でジェイが振り向く。よいせ、と掛け声のようなものを言いながら身動ぐ動作がなんとも間が抜けているなとアッシュは思ったがそれは今言うべきではないと判断した。

    「この部屋に行くまでの途中の廊下にあった観葉植物は造り物だし、手前の部屋ならある筈の水槽の一つもない。たまにしか帰れないから置いてないって云うなら、魚の写真か絵かオーナメントか……それに関連しそうな物一つでも飾ってそうなもんだろうに」

     白の壁紙は日に焼けたような様子も殆んどなかった。廊下の植木鉢の葉は照明の照り返し具合から一目で本物ではないと分かる品質だった。シューズボックスにも備え付けのクロゼットにも物が入っているような気配がない。
     此処で数日でも暮らしたような生活感がないのだ。

    「手前の部屋にしちゃ片付きすぎなんだよ」
    「なるほど」
    「すぐ余計なモン増やすくせに。いつもの調子なら並みのハウスキーパーは裸足で逃げる」
    「そんな俺の部屋をいつも片付けてくれて感謝してるよ」

     ジェイの笑い声は乾いている。ベッドのヘッドボードはクッションが付いていて凭れるのに丁度いいが裸で寄り掛かるとタフティングのボタンが肌に障る。アッシュは改めて身体を横たえた。枕の位置を調整したところでジェイが天井を向く。

    「妻と息子に買ったんだ、このマンション」
    「で、受け取られなかったってか」
    「俺一人で勝手に決めて買ったから、かなぁ」
    「人に贈るのに金額の桁がおかしいだろ。こんな部屋はそもそも普通じゃ買えない」
    「お前だって……いや、違うな。島をもらったとは聞いたが人にあげたとは聞かん」
    「維持管理だけじゃなくて税金とか大変なんだよ、島ってのは」
    「夢もロマンもない話だな」

     夢とロマンには金がかかるのだ、とアッシュは思う。
     リビングの他に、部屋は三つあった。おそらく此処でやり直そうとしたか、もしくは自分と別れた後の家族が暮らすのに良い家になるだろうと、良かれと思ってこの男は部屋の契約書にサインをしたのだろう。そして結局誰の生活拠点にもならずヒーローのセーフハウスとして辛うじて役目を遂行している。

    「やっぱり手放そうかなぁ」

     ゆっくりと長い溜息の合間に呟かれた一言にアッシュは思考を一時停止した。空調設備の稼働音が室内に充満する。

    「維持管理は確かに大変だし、絶対必要なものでもない」

     ベッドのスプリングが控えめに音を立てる。伺うような距離感はジェイの腕のリーチと同じ長さで、ただ両腕の合間にアッシュは閉じ込められる。右腕の硬質な表面がベッドサイドのランプを反射する。鼻筋を境界に影がかかった顔の、苦し紛れの笑顔の時にだけ出来る皺を見留める。

    「お前を連れてきてしまったから、もう一人で此処に戻る勇気がない」

     成程これで皆が騙されるんだな、とアッシュは不意に啓めいた。おそらく、否や間違いなくその騙された中に自分自身も含まれている。今夜だって何かと理由をつけられこの寝室まで引きずり込まれた。

    「お前の弱味だと明かされておいて不動産屋を紹介する気にはなれねぇな」
    「俺の弱味はアッシュお前だよ。これ以上女々しい気持ちにさせないでくれ」

     身を屈めたジェイが肩口に額を擦り付ける。センチメンタルに付き合う気はない。が、弱味、と喩えられた事がアッシュにはどうにもおかしくて堪らなかった。何も許していないのに素肌を辿る手を引っ叩く気が全く起こらないほどに。
     ジェイの顔が至近距離に迫ってきた一瞬、この部屋に一つしかない窓を横目に見て、アッシュはすぐに興味を無くし目を閉じた。
     窓の向こうはまだ暗い。朝日なんて、お呼びじゃない。



    〈了〉
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    佳芙司(kafukafuji)

    REHABILI園子さんは正真正銘のお嬢様なので本人も気付いてないような細かなところで育ちの良さが出ている。というのを早い段階で見抜いていた京極さんの話。
    元ネタ【https://twitter.com/msrnkn/status/1694614503923871965】
    京園⑰

     思い当たるところはいくらでもあった。
     元気で明るくて表情豊か。という、いつかの簡潔な第一印象を踏まえて、再会した時の彼女の立ち居振る舞いを見て気付いたのはまた別の印象だった。旅館の仲居達と交わしていた挨拶や立ち話の姿からして、慣れている、という雰囲気があった。給仕を受ける事に対して必要以上の緊張がない。此方の仕事を理解して弁えた態度で饗しを受ける、一人の客として振る舞う様子。行儀よくしようとしている風でも、慣れない旅先の土地で気を遣って張り詰めている風でもない。旅慣れているのかとも考えたが、最大の根拠になったのは、食堂で海鮮料理を食べた彼女の食後の後始末だった。
     子供を含めた四人の席、否や食堂全体で見ても、彼女の使った皿は一目で分かるほど他のどれとも違っていた。大抵の場合、そのままになっているか避けられている事が多いかいしきの笹の葉で、魚の頭や鰭や骨を被ってあった。綺麗に食べ終わった状態にしてはあまりに整いすぎている。此処に座っていた彼女達が東京から泊まりに来た高校生の予約客だと分かった上で、長く仲居として勤めている年輩の女性が『今時の若い子なのに珍しいわね』と、下膳を手伝ってくれた際に呟いていたのを聞き逃す事は勿論出来なかった。
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    みぃ☆

    DONE第8回キスブラワンドロライ
    お題は『年の瀬』でキースの家を大掃除する話。甘々キスブラ

    読み切りですが、続きっぽいものを1日と3日(R18)で書く予定。
    「今日こそはこの部屋を片付ける。貴様の家なのだからキリキリ働け」

    年の瀬が差し迫った12月のある晴れた日の朝。
    キースがまだベッドに懐いていると、部屋まで迎えに来たブラッドに首根っこを捕まえられ強引に引きずりだされた。
    ジュニアの「キースが暴君に攫われる~」という声をどこか遠くに聞きながら、車の後部座席に放り込まれる。車には既に掃除道具を積んであったようで、すべての積み込みが完了すると、ブラッドは急いで車を発進させたのだった。

    「まずはゴミを纏めるぞ」
    家に到着早々ブラッドは床に転がった酒瓶をダンボールに入れ宣言どおりに片付けを開始する。次に空き缶を袋に集めようとしたところで、のそのそとキースがキッチンに入ってきた。
    「やる気になったか」
    寝起きというよりもまだ寝ていたキースをそのまま連れ出したのだから、恰好は部屋着のスウェットのままだし、髪もあちこち跳ねてボサボサだ。
    「まずは顔でも洗ってシャキッとしてこい。その間に俺は……」
    ぼーと歩くキースは、無言のままブラッドの背後を通り越し冷蔵庫の扉を開ける。
    水と缶ビールばかりが詰め込まれた庫内が見え、ブラッドは呆れた溜息を尽く。
    「ま 3484

    ohoshiotsuki

    MAIKING死神ネタでなんか書きたい…と思ってたらだいぶ時間が経っていまして…途中で何を書いているんだ…?って100回くらいなった。何でも許せる方向け。モブ?がめちゃくちゃ喋る。話的に続かないと許されないけど続き書けなかったら許してください(前科あり)いやそっちもこれから頑張る(多分)カプ要素薄くない?いやこれからだからということでちゃんと続き書いてね未来の私…(キャプションだとめちゃくちゃ喋る)
    隙間から細いオレンジ色の空が見える。じんわりと背中が暖かいものに包まれるような感覚。地面に広がっていくオレの血。ははっ…と乾いた笑い声が小さく響いて消える。ここじゃそう簡単に助けは来ないし来たところで多分もう助からない。腹の激痛は熱さに変わりそれは徐々に冷めていく。それと同時にオレは死んでいく…。未練なんて無いと思ってたけどオレの本心はそうでも無いみたいだ。オレが死んだらどんな顔するんだろうな…ディノ、ジェイ、ルーキー共、そしてブラッド―アイツの、顔が、姿が鮮明に思い浮かぶ。今にもお小言が飛んできそうだ。
    …きっとオレはブラッドが好きだったんだ
    だから―
    ―嫌だ、死にたくない。

    こんな時にようやく自覚を持った淡い思いはここで儚い夢のように消えていく…と思われたのだが――
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