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    佳芙司(kafukafuji)

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    高級マンションの一室を元家族の為に買ったけど結局使ってもらえなかったから仕方なくそのままセーフハウスにしてたジェイと其処に連れ込まれたアッシュの話。

    #ジェイアシュ
    j.a.s.

    空の水槽(ジェイアシュ) 部屋の照明はベッドサイドのランプだけ。白い壁紙が光を反射して思いの外室内を明るく照らす。東に面した窓しかないこの寝室は昼間はきっと薄暗いのだろう。
     アッシュはこの部屋に足を踏み入れた瞬間に感じた事を反芻した。声を出し過ぎて喉がひり付く。

    「不自然にもほどがあるな」
    「なにが、だ?」

     寝返りを打つ要領でジェイが振り向く。よいせ、と掛け声のようなものを言いながら身動ぐ動作がなんとも間が抜けているなとアッシュは思ったがそれは今言うべきではないと判断した。

    「この部屋に行くまでの途中の廊下にあった観葉植物は造り物だし、手前の部屋ならある筈の水槽の一つもない。たまにしか帰れないから置いてないって云うなら、魚の写真か絵かオーナメントか……それに関連しそうな物一つでも飾ってそうなもんだろうに」

     白の壁紙は日に焼けたような様子も殆んどなかった。廊下の植木鉢の葉は照明の照り返し具合から一目で本物ではないと分かる品質だった。シューズボックスにも備え付けのクロゼットにも物が入っているような気配がない。
     此処で数日でも暮らしたような生活感がないのだ。

    「手前の部屋にしちゃ片付きすぎなんだよ」
    「なるほど」
    「すぐ余計なモン増やすくせに。いつもの調子なら並みのハウスキーパーは裸足で逃げる」
    「そんな俺の部屋をいつも片付けてくれて感謝してるよ」

     ジェイの笑い声は乾いている。ベッドのヘッドボードはクッションが付いていて凭れるのに丁度いいが裸で寄り掛かるとタフティングのボタンが肌に障る。アッシュは改めて身体を横たえた。枕の位置を調整したところでジェイが天井を向く。

    「妻と息子に買ったんだ、このマンション」
    「で、受け取られなかったってか」
    「俺一人で勝手に決めて買ったから、かなぁ」
    「人に贈るのに金額の桁がおかしいだろ。こんな部屋はそもそも普通じゃ買えない」
    「お前だって……いや、違うな。島をもらったとは聞いたが人にあげたとは聞かん」
    「維持管理だけじゃなくて税金とか大変なんだよ、島ってのは」
    「夢もロマンもない話だな」

     夢とロマンには金がかかるのだ、とアッシュは思う。
     リビングの他に、部屋は三つあった。おそらく此処でやり直そうとしたか、もしくは自分と別れた後の家族が暮らすのに良い家になるだろうと、良かれと思ってこの男は部屋の契約書にサインをしたのだろう。そして結局誰の生活拠点にもならずヒーローのセーフハウスとして辛うじて役目を遂行している。

    「やっぱり手放そうかなぁ」

     ゆっくりと長い溜息の合間に呟かれた一言にアッシュは思考を一時停止した。空調設備の稼働音が室内に充満する。

    「維持管理は確かに大変だし、絶対必要なものでもない」

     ベッドのスプリングが控えめに音を立てる。伺うような距離感はジェイの腕のリーチと同じ長さで、ただ両腕の合間にアッシュは閉じ込められる。右腕の硬質な表面がベッドサイドのランプを反射する。鼻筋を境界に影がかかった顔の、苦し紛れの笑顔の時にだけ出来る皺を見留める。

    「お前を連れてきてしまったから、もう一人で此処に戻る勇気がない」

     成程これで皆が騙されるんだな、とアッシュは不意に啓めいた。おそらく、否や間違いなくその騙された中に自分自身も含まれている。今夜だって何かと理由をつけられこの寝室まで引きずり込まれた。

    「お前の弱味だと明かされておいて不動産屋を紹介する気にはなれねぇな」
    「俺の弱味はアッシュお前だよ。これ以上女々しい気持ちにさせないでくれ」

     身を屈めたジェイが肩口に額を擦り付ける。センチメンタルに付き合う気はない。が、弱味、と喩えられた事がアッシュにはどうにもおかしくて堪らなかった。何も許していないのに素肌を辿る手を引っ叩く気が全く起こらないほどに。
     ジェイの顔が至近距離に迫ってきた一瞬、この部屋に一つしかない窓を横目に見て、アッシュはすぐに興味を無くし目を閉じた。
     窓の向こうはまだ暗い。朝日なんて、お呼びじゃない。



    〈了〉
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    みぃ☆

    DONE第8回キスブラワンドロライ
    お題は『年の瀬』でキースの家を大掃除する話。甘々キスブラ

    読み切りですが、続きっぽいものを1日と3日(R18)で書く予定。
    「今日こそはこの部屋を片付ける。貴様の家なのだからキリキリ働け」

    年の瀬が差し迫った12月のある晴れた日の朝。
    キースがまだベッドに懐いていると、部屋まで迎えに来たブラッドに首根っこを捕まえられ強引に引きずりだされた。
    ジュニアの「キースが暴君に攫われる~」という声をどこか遠くに聞きながら、車の後部座席に放り込まれる。車には既に掃除道具を積んであったようで、すべての積み込みが完了すると、ブラッドは急いで車を発進させたのだった。

    「まずはゴミを纏めるぞ」
    家に到着早々ブラッドは床に転がった酒瓶をダンボールに入れ宣言どおりに片付けを開始する。次に空き缶を袋に集めようとしたところで、のそのそとキースがキッチンに入ってきた。
    「やる気になったか」
    寝起きというよりもまだ寝ていたキースをそのまま連れ出したのだから、恰好は部屋着のスウェットのままだし、髪もあちこち跳ねてボサボサだ。
    「まずは顔でも洗ってシャキッとしてこい。その間に俺は……」
    ぼーと歩くキースは、無言のままブラッドの背後を通り越し冷蔵庫の扉を開ける。
    水と缶ビールばかりが詰め込まれた庫内が見え、ブラッドは呆れた溜息を尽く。
    「ま 3484

    佳芙司(kafukafuji)

    MOURNING出来上がってるオスアキのオスカーが昨夜の名残をジェイに見られてしまう的なアレ。
    男の勲章?(オスアキ前提オスカー+ジェイ)

     エリオスタワー内のジム設備があるフロアにて、こそこそとロッカールームに入っていく背中を見つけた。人目を気にするような、それとなく周囲を伺っているような。ただそのたった今入室していった人物がオスカー・ベイルだったので、ジェイ・キッドマンは思わず、んん? と声に出して首を傾げた。
     ジェイは以前、同チームのグレイ・リヴァースとトレーニングをした際に『人の目があると落ち着かないからロッカールームに人のいない時に着替えている』と話していた事を思い出した。彼は自分の筋肉のつきにくい体質や筋力不足を気にしていたようだが、果たしてかのオスカー・ベイルが、それを気にするような男だろうか。否や寧ろ逆であろう。
     オスカーがシャツを脱いでエリオスタワー内のジム器具を利用している様子は何度も見かけているし、自己鍛錬と研鑽に妥協のない男だから、まだまだだと冷静に己を見つめる事はあれど、人目から隠れて着替えようとするほど卑屈になる事はないだろう。ここは間を置いてから入るべきかと思ったが、もし何か思うところがあって体を縮こまらせているのならば、その悩みを聞くくらいは出来るし、何か人にいえないような怪我を負っているならば早急に確かめなければならない。
    1885