深夜のラーメンっておいしいよね暖房の付けられた部屋の中、窓から入り込んでくる冷気が日向の頬をくすぐり、瞼を持ち上げた。ぼんやりとした頭で部屋を見渡すとカーテンから光が差し込んでいる…ということもなく辺り一面に暗闇が広がっている。スマホに刺さったままのはずの充電ケーブルを手繰り寄せ、ディスプレイの明るさに、そこに映された時間に眉を顰めた。時刻は午前二時十七分。まだ起きるには随分と早い、と外気から自身を守るように頭まですっぽりと布団を被り、再び瞼を落とした。
ぐぎゅるるるる…
「う…」
先ほどから見ないふりをしていた空腹を強調するように腹の虫が鳴り響く。宥めるようにさすってみても、空になった胃はきゅるきゅると追い討ちをかけるように主張してきた。
「……はあ、」
仕様がない。もうすでに睡眠では誤魔化されてくれない空腹を抑えるためには、何か口に入れる必要があるようだ。とりあえずここから出なければ。日向は布団の中で丸まりを解くとのそりと亀のように首を伸ばし、冷やっこいフローリングに肌が触れないようつま先立ちでキッチンへ向かった。
「んー…」
収納棚を物色すると、インスタントの味噌汁、カップラーメン、カップ焼きそばなど、バラエティに富んだ品々が発掘された。普段から食事に気を使っている日向だって手を抜きたくなる時はあるし、同棲している侑が買ってきているものもある。カップ麺の底を見てみると名前は書かれていない。以前、侑の楽しみにしていたらしいものを食べてしまったことがあった。名前が書いてあるやろ!と三時間くらい拗ねられたことがあり、大変面倒臭い思いをしたのがつい先日のこと。それ以来、名前が書いてあるかを確認するのが常となった。
名前問題はクリアした。しかしもう一つ大きな問題がある。
カップ麺の側面に書かれた栄養成分表示のうち、最も着目される要素。つまり、エネルギーの項目だ。今日(というか昨日)摂取する予定だった総カロリー量は達成されており、これ以上は摂りすぎる。しかも、脂質や糖質もまあまあある。かと言って残すのは食に対する冒涜だし、味噌汁では絶対に満たされることはないだろう。
「どうするべきか…」
「なにが?」
「ギャア!!」
「うぐっ、」
突然降ってきた声と肩の重みに反射で飛び跳ねると、その重みの正体は低く呻きながら退いた。
「っ、たあ…。ちょお、なに?」
「何?じゃないです!驚かさないでくださいよ!」
顎にクリーンヒットしたのだろう。すりすりと顎をさすりながら侑がこちらを訝しむように睨んでいる。自分がした事を反省するでもなくあっけらかんとしたその態度に腹が立つ。そして、更に腹が立つことに文句を言ったとしても軽くいなされ、言いくるめられるのはいつも日向だ。勝てるのは完全に侑が悪いときだけ。日向は諦めたように開いたままの口からため息をこぼし、手元にあったそれを掲げた。
「お腹空いちゃって、食べようか悩んでたんです」
「カップラーメン…?食べたらええやん」
「いや、食事制限…」
「あー、翔陽くんその辺しゃんとしとるよなあ」
もうすっかり調子を取り戻した侑は再び日向に体重を預けると、手持ち無沙汰の手がいたずらに服の中に手を入れてまさぐろうとするとすかさず日向に叩かれた。
「いけず!」
「近所迷惑ですよ、侑さん」
「…いけず」
ケトルの中身が沸騰したことを知らせるアラームが鳴ると、侑は払われて空に舞った手をカップ麺へと伸ばし、シュリンクをビリビリと破いた。流れるように蓋を開け、お湯を注ぐ。あっけにとられていた日向はその場から動けず、タイマーをセットしているその後ろ姿を追った。
「え?」
「…?食べるんやろ?俺も腹減ったし、」
一緒に食べよや。
「あ…、は、はい!」
こそこそといたずらする時みたいににやりと笑った侑に日向もつられて笑う。割り箸を二膳掴み、いそいそとこたつへ潜り込み、電源をつけた。
おまけ
深夜のカップ麺うまあ!
罪の味がします!
二人で分けたから帳消しや
ちょ、侑さん脚当たってる!邪魔!
脚が長おてごめんなあ…って、おい!俺のチャーチュー!
へへん、よそ見してるからですよ!…おわっ!…っ、く、んっ、くすぐるのはずるい…!!俺あしは弱…んははっ
くすぐったがる翔陽くん見てると食が進むわあ。こらデザートまで頂かんと空腹で寝れんかもな
? 冷蔵庫にプリンならありますよ
……そう言うんとちゃうねん
おわり