Trick or Treat タイムライン上に流れる『ハロウィン』の文字。高校の時は「秋の大収穫祭や……!!」と目を輝かせて紙袋もっとたやつが傍におったなーなんて思い出しながら更衣室に向かっていると、前方にふわふわと揺れ動く黒髪が見えた。
「おーみくん」
「……。」
横からひょこりと顔を出すと、視線だけをよこして眉間にしわを寄せられる。まだ何もしとらんのに何でそんな面倒くさいと言わんばかりの顔しとんのん。正解やけども。と思いながら侑はにまりと口角を上げた。
「今日何の日か知っとるよな」
「……。」
「眉間のシワ深めて回答するんやめえて。てなわけで、trick or treat」
「はい」
「いやもっとんのかい」
口にした瞬間に差し出されたチロルチョコ。絶対何も持っていないだろうし、何なら無視されると思っていたのに差し出されたハロウィンパッケージに侑は驚きが隠せない。物珍し気に手のひらの中のチョコを見つめていると、差し出される手が目にはいる。
「うん?」
「trick or treat.」
「……エッ」
「人に聞いたくせに持ってないとかないよな?」
おそるおそる視線を佐久早に向けるとマスク越しに”ふふん”と笑っているであろう顔にたらりと冷や汗が流れた。やばい。今まじで何も持っとらん。
「……後で渡すんはあり?」
「なし」
「デスヨネ」
今日練習がある時点でお得パックでも買うとったらよかった……!と頭を抱えるも後の祭りだ。静かに待つ佐久早から、この場をどう切り抜けられるか思考をフル回転させているが一向に良い案は思い浮かばない。
「ないんだ?」
「ぐう……っ」
「へぇ」
じゃあ、trickだなと伸ばされる手に固く目を瞑るとパチンというおと共に前髪に重みを感じた。ゆっくりと目を開けるとどこか視界が広い。
「へ?」
「今日一日、それ外すなよ」
「え、何これ?」
「……ふっ」
「いや教えて?!」
結局何も教えてもらえず、佐久早は鼻で笑うだけ笑って去っていった。もー、何……と言いながら取ろうとするが、いや外すなって言われたな……?と思い出し手が止まる。いや、別にいうことを聞かなくたって見られているわけでもないし、問題はない。ないのだけれど。
「……まあただのピン止めやし。」
どこか外すのが惜しく感じられて、侑はそのまま更衣室へ向かった。勿論、途中のコンビニで菓子袋を買うのは忘れずに。
◇◆◇
「お疲れさんですー」
「おつかれ~。って侑それ……。」
「おつかれ!ツムツム、トリックオアトリート!」
「ほいほい」
「やったー!って、可愛いのつけてんね!」
「へ?」
「あ、俺も菓子くれ。そうそれ、取り忘れ?キティちゃんのピン止め普段使ってんの?」
「あ、ワンさんもどうぞ。てかきてぃちゃん……?」
「……ふっ」
「……臣くん!??これキティなん?!」
「あ、佐久早がつけたんだ」
「菓子持ってなかったあいつが悪いので」
「なるほど」
「一日つける約束なので外してたらつけなおしてください」
「みんなに言っとくわ」
「ちょちょちょおい!!」