【ディルガイ前提】モンドのめちゃモテ騎兵隊長【モブ→ガイシリーズ】ガイアさんに惚れたモブ女がエンシェアでだべってるだけ 当て馬ですらない
ガイアさん本人は登場しません
ロサリアさん友情出演
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エンジェルスシェアで、ロサリアが一人で飲むときはもっぱらカウンターに座ることにしている。ディルックは必要最低限しか話しかけてこないため、ただ酒を飲みたいときにはちょうどいい。
今日みたいに、バーバラに捕まって聖歌隊の練習なんてことをやらされた日には、誰かとおしゃべりをする気すら起きなかった。
週末の酒場は大変な賑わいで、早くも満席になろうとしていた。程々に人が入ってい方が変に絡まれなくて快適だ。ロサリアはゆったりと人々の会話にグラスと耳を傾けた。
「急に飲みたいなんて、どしたの?」
「来てくれてありがと。‥あのさ、ロベルトと別れた。」
ひときわはっきり聞こえるのは、隣に座った二人の会話だ。酒場には珍しい若い女の2人連れで、何やら少し深刻そうな雰囲気だ。
「え、何で?アンタから告ったんでしょ?」
髪の長い女は驚いているようだ。
「そう。でも、もう全然かっこよく見えなくなってさ。会うのも時間の無駄って思えちゃって。無理だなって。」
肩で髪をボブカットに切りり揃えた女が淡々と答えた。
「ええ‥、何でよ。」
「先週さ、わたしとロベルト、清泉町にお肉を仕入れに行く途中でヒルチャールに襲われてさ。ロベルト、足早くて私を老いてどんどん逃げてってさ。」
「ああ‥なるほどね。サイテーだわ。アンタ、どうやって助かったの?」
「木に登って避難したの。」
「あんたって木登りうまいもんね。」
「うん。子供の頃、アンタと木登り競争にハマってて良かったよ。あいつら、木には登れないから幹をユサユサ揺らしてきて。ほんと怖かった‥。しがみついて粘ってたんだけど、弓を持ったヒルチャールも来て、あーこれはもうダメって思ってたら、間一髪のところでガイア隊長が来てくれたの!」
「かなり危なかったじゃん‥!怪我がなくてよかったよ。」
「うん。ありがと。あ、死ぬかなって思ったとき、ママとアンタの顔がよぎったよ。」
「やめてよ。」
「でもロベルトの顔は浮かばなかったわ。」
「そう‥。ロベルトと別れた理由は納得したわ。」
髪の長い女は、ここで話は一段落ついたと思ったようだ。しかし、ボフガットの女は食い気味に身を乗り出した。
「まあそうなんだけど、それはどうでもいいの!まだあるの!!それでね、助けに来てくれたガイア隊長、あっという間に一人でヒルチャールを斬り伏せちゃって。氷の破片がキラキラ降り掛かって、あの人、ほんと輝いてんの!キレイだったの!次に走馬灯を見るときは、ガイア隊長の戦う姿だと思う。もうママとアンタの顔はでてこないかも。」
「あんたね‥。」
「それで、戦闘が終わった後も、あたし、腰が抜けちゃって木からおりられなくなっちゃってさ。そしたら、ガイア隊長が抱えて降りてくれたの。」
「えっ、どうやって?」
「ガイア隊長が木の上まで登ってきて、片手でこう、ぐっと抱き寄せて、片手で枝にぶら下がって、いい感じに着地してくれて!」
「え!ずるっ‥。てかすごっ。神の目持ってる人って、細身に見えても力すごいよね。」
「アンバーちゃんですら大の男を抱えて走れるらしいよ。」
「ひぇー。」
「話がそれたけどさ、それで!それで!!聞いてほしいのはこの先でね!」
「いや、ちょっと落ちついてよ」
「ごめんごめん。それで、ガイア隊長、あたしをそっと地面におろしてくれて、『怖かっただろう。よく頑張ったな』って笑いかけてくれて〜!立てるようになるまで、雑談で笑わせてくれてさ‥。」
「あー‥。」
ロングヘアの娘の声に憐れみがまじる。
「‥。めっっっちゃくちゃ好きだわって‥」
「ご愁傷さま。」
「なんでよ!」
「いや失恋決定でしょ‥。あの人だれとも付き合わないじゃん。あのエミリアで無理なら、誰も無理だよ。」
エミリアとはモンドの豪商の娘で、賢く、美しく、性格も優しく穏やかな評判の高嶺の花だ。そんな彼女がどうやら先日ガイアを食事に誘って断られたらしいと、色恋に興味のないロサリアにまで噂が流れてきた。
「キレイ系が好みじゃないだけかもよ!?」
「かわいい系ならドロテアとか、エマが玉砕してるじゃん。」
「‥。やっぱり?無理かな。」
ボブカットの女がしゅん‥と肩を落とすとロングヘアの女が慌てて肩をさすった。
「ごめんごめん、いじめすぎたわ。とりあえずお礼に贈り物をするとか食事の誘いをするとかして接点持ってみたら?」
「一応お礼に騎兵隊にお菓子の差し入れはしたんだけど。食事にも誘ってみようかな‥。でもアンタの言うとおり、うまくいく気はしないんだよね。」
「ま〜ね。あの人がどんな女の子が好きなのか全然わからないし。可愛い子、綺麗な子、優しい子、賢い子、気の強い子、おっとりな子‥。モテるのに誰とも付き合わないんだもん。」
「女じゃなくて男が好きとかある?服の趣味とかさ、そっちよりじゃない?うちの店の客がさ、たまにそんな話してるよ。アレって誘われてんのかな?ガハハッて、んなわけねーだろバーーカって思うけど。」
「いや、あの人、男とも付き合わないよ。デリスとアードルフ、あいつら春頃にバタバタと騎士団やめたじゃん?」
「そーだね。あいつらがどうしたん?流れ的になんとなく予想つくけど。」
「ま、予想通り。兄貴が後方支援隊だからウワサも流れてくるんだけど、あいつらがやめたのは隊長に告って振られたからみたいよ。」
ふと気づくと、かディルックは彼女たちの目の前に移動して酒を造っていた。接客をしているとは思えないほどに険しい顔をしていた。
「へー。あいつらがね。知らなかったわ。‥‥。でもわからなくはないかな。隊長と討伐任務とかやってたらしいし。」
ふぅー、とあついため息をこぼした。
「戦ってるときのガイア隊長、なんかさ、なんか、ヤバかったからさ。長い手脚がこう、優雅にキレよく動いて。そんで、氷元素をまとう姿はキラキラきれいでさァ‥。いやほんとに走馬灯に見ると思う。一緒に戦ってりゃ命助けられることもあるじゃん。それで、あのおっきくてキラキラの目に、『危ないところだったな?』なんて笑いかけられて、白い歯をみせられたらさぁ、おかしくもなるよ。それでさ、それで、ヒルチャールを斬り伏せたかと思えば、クレーちゃんの面倒を見てあげてたりさ。隊長、鹿狩りで、クレーちゃんとご飯食べててさ。クレーちゃんがほっぺに食べかすつけてるのを、ハンカチで優し拭いてあげててて~~~!もうやばい。やばいよ〜〜〜。何あの人!」
女はどんどんと早口になり、最後には髪を振り乱して熱弁し始めた。早ロングヘアの女は気圧されたように少し身を引いた。
「もうさ、あの日からガイア隊長のことしか考えられないよ。多分、ガイア隊長を走って呼びに行ってくれたのはロベルトだと思うの。あの場での最適解よね。でも、そんなことどうでもいいの。もうロベルトと会話する時間がもう無駄っていうか、苦痛に感じちゃって。」
「それで別れたんだ。」
「そう。もうロベルトとは無理。もちろん、ガイア隊長と付き合えるなんて思ってないけど!けど〜!」
ひとしきり喚くと、女は少しクールダウンしたようだった。
「隊長さぁ、何であんな服着てんだろ?隊長の服って胸出てるじゃん。」
今度は少し恨めしげな口調だ。
「ん、んー?まあ、そうかもね。」
「木からおろしてもらうときに抱きかかえてもらったって言ったでしょ。怖かったってのもあるけど、眼の前にあの胸板があったからさ、しがみついたんだよね。その時に隊長の胸板に頬ずりできてさ。」
「ちゃっかりしてんね。で?どうだった?」
「あったかくてすべすべしてて。もう、なに、その、こう‥、舐め回したいくらい。」
「あんたねぇ‥。」
女はぐっとドリンクを飲み干すと、カウンターを見ずに午後の死を注文した。彼女がディルックの表情を見ていなかったのは幸いだった。
「ガイア隊長、汗かいてて‥。心臓がどくどくしてて‥。」
ふぅーっと夢見るような瞳だ。
「涼しい顔してるけど、この人、息を切らして私を助けに来てくれたんだって。そう思ったらもーだめ‥。」
とうとうカウンターに突っ伏してしまった。
「ミリー‥。」
「わかってる。失恋確定だよ‥。あーー!おかしくなりそ。もう隊長のことしか考えられないよ。あの胸板に触りたくてさ、ころんだふりしてガイア隊長に抱きついたんだけど、満足できなくて。」
「あんたねぇ‥。迷惑かけるんじゃないよ‥。」
「だって‥。もうなんにも手につかないの。仕事中オーダーするときも、ガイア体調は何が好きかなとかどんなふうに食べるのかなとかそんなことばっかり考えちゃって。ミスばっかり。鹿狩りでガイア隊長見かけちゃって。影から見つめてたら遅刻しちゃったり。もう仕事やめようと思うの。」
「天職とかいってたじゃん。」
「そうなんだけど。でも本当に他のことが考えられないの。それに、店にはロベルトもいるから、うざったくて‥。最低でも店は変えるつもり。でも、ガイア隊長への思いをどうにかしないと就職もままならないよ!このままじゃ無職の上に彼氏なしになっちゃう。ガイア隊長に責任取ってお嫁にもらってほしい‥。ねえ、どうしたらいいと思う?」
「どうって‥どうしようもないでしょ‥。」
「そんな事言わないでよぉ。一夜だけでも‥って頼み込んで既成事実を作るとか考えてるんだけど。」
「やめなよ。隊長って元お坊ちゃまでしょ?お育ちがいいから絶対に断られると思う。てか嫌われるよ。」
髪の長い女の女はカウンターにチラチラと目線をやりながら声を潜めた。しかし、残念ながらディルックには聞こえているだろう。彼は2階の端の席の、軽く挙げたオーダーの声さえ聞きつける。
「そうだよね‥。じゃあ、お礼に食事に誘ってさぁ、こう、興奮する薬とか盛って、既成事実を作るってのはどうかな?もし子供ができたら、育ちのいい人なら責任とってくれるでしょ?」
坊やみたいなディルックの眉間に不似合いな、崖のように深いシワが刻まれる。わかる人間には殺気が漏れ出していることもわかるだろう。女の子たちがこの顔を見たらすくみあがってしまうだろうが、彼女たちが話に熱中していてディルックの方をみていないのは幸いだ。
「あんたねぇ、いい加減にしなよ。助けてもらって恩を仇で返すなんてことしたら友達辞めるからね。」
「うぅ‥。、わかってるもん。本当にやったりなんかしないもん。何で助けてくれたのがガイア隊長だったんだろ‥。近くにいた騎士がアンバーちゃんとかエウルアさんだったら良かったのに‥。騎士団カッコイー!ありがとう!ですんだのに‥。」
ボブカットの女は突っ伏して嗚咽を漏らしだした。
「正攻法でやるだけやって、それでダメなら諦めなさいよ。無理なもんは無理なのよ。アンタだって、もうロベルトは無理なんでしょ?ロベルトは、アンタのことまだ好きよ。」
「うん‥。」
泥酔したボブカットの女をショートカットの女が引きずるように店を出た後も、ディルックの眉間にはくっきりとしたシワが刻まれたままだった。このシワがクセになったら、ガイアがうるさそうだなとロサリアの脳裏によぎる。
「ご機嫌斜めね。旦那。」
「別に、そんなことはないが‥。」
明らかにむぅっとた顔でぬけぬけとそんな事をいう。大きくて丸いのに猛禽のような鋭い目線は、なぜかロサリアの太ももへむかっていたあら。と思ったが、その視線に色はない。そこにあるのは「不満」だ。ろくでもない面倒くさそうな気配を感じ、ロサリアはさっさと退散することに決めた。
2に続く