二人は空のグラスを満たした ブラックニードルの仄暗い店内を照らす照明は、店の雰囲気に合わせて光源を絞ったピンスポットに近いものを使用している。フロアに点在したテーブル席の真上に設置されたライトが暗がりにポッと席を浮かび上がらせる様は、深海に差し込む淡い光のようにも見えた。
ライトに映り込んだ微かな塵が光の粒になって落ちていくのを、カウンターの中からバーテン姿のクリアはぼんやりと眺めていた。ダンサブルなアレンジのきいたBGMに合わせるでもなく機械的に濡れたグラスをクロスで拭き上げていく。左手が軽くなったことにも気づかず光の粒を目で追うその耳に、甲高い嫌な音が飛び込んできて我に返る。足元へ視線を落として、ああやってしまった、と割れたグラスに眉をひそめた。
6744