Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    zawa

    廃棄孔
    ぐだの事は基本♂♀両方攻めでしか見てないです。
    元々ぐだ♂エレ、ぐだ♀マシュの人間。カリオストロは右寄り。柳生さん単推しの人間。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 8

    zawa

    ☆quiet follow

    ぐ×カ

    ※キャラ崩壊注意
    ※公式から伯爵お出しされるまではノリとパッションで考えた弊デアの伯爵をお出しさせて頂く所存
    ※この伯爵はマスターの事すら貶めるし、男に抱かれるのも厭わないタイプのクズです
    ※今回はかなり他人に精神左右されやすい伯爵
    ※知らない男の為に役を羽織って帰って来る伯爵、実質NTRでは
    ※こんなのが読みたいと言う願望を形にしただけなので矛盾だらけのお話になってます。なんかこう、ふわっと読んで頂けたら幸い
    ※弊デアのぐだ君は何時だって純情


    以上、宜しければどうぞ







    「1万QPを聖杯に替えて差し上げましょう」

    微小特異点にレイシフトするなり、そんな胡乱を投げ掛けてくる詐欺師に思わず眉を顰めるのは仕方の無い事だと思う。

    ─時は1929年。第一次世界大戦が終結後、世界最大の債権国家となったアメリカでその微小特異点は発生した。トリスメギストスIIの演算によれば場所はニューヨークウォール街、多くの証券会社、大手銀行が立ち並ぶ金融市場だ。
    観測した当初は歴史的干渉も低いとの事から、この特異点は自然消滅を待つばかりであった。しかし、観測後数分も経たずに演算結果にエラーが発生し微小であった筈の特異点が人理に本格的な影響を与え始めた。そこでノウム・カルデアは特異点解消の為、ニューヨークウォール街へとレイシフトする事になった。
    なったのだが…、何故かトリスメギストスIIが演算した同行サーヴァントはただの一基。しかも、そのサーヴァントと言うのが稀代の大詐欺師アレッサンドロ・ディ・カリオストロ伯爵。金融市場に詐欺師と言う時点で正直嫌な予感しかしないし、レイシフトするなりコレである。
    1万QPを聖杯に替える、なんて胡乱を言い始めた。コレには流石のマスターもダ・ヴィンチに、どう思う?と打診した程だ。勿論、通信越しのカルデアの面々は、駄目だ、止めとけ、信用出来ない、ンンン騙されてはいけませぬぞマイマスター、と(一瞬妙なのが居たが)皆否定的だ。あまりの信用の無さにマスターも同情する…、なんてことも無くカリオストロは困った様に笑うばかりだ。
    だが実際トリスメギストスIIの人選に誤りは無いのだろうし、今現在頼れるのも彼だけであるのは事実。議論に議論を重ね、まぁ1万QPで世界が終わるなんてことも無いよね、とカリオストロの提案に乗ることになった。

    「無茶な事はしない」
    「ええ」
    「人に危害を加えない」
    「勿論」
    「…、詐欺は程々に」
    「陛下の仰せのままに」

    させる釘を刺すだけ刺して、街へと繰り出して行くカリオストロを藤丸は見送った。
    カリオストロの提案では一週間程時間が欲しいとの事で、その間お互い単独行動になるとの事だった。マスター一人放ったらかして護衛が居なくなるのはどうなんだと管制室では抗議の声が上がったが、平気ですよなんて根拠の無いカリオストロの言葉でその場は押し切られてしまった。なんなら、一週間観光を楽しむと宜しい、なんて呑気な一言まで付け足されて。
    無論遊びに来た訳じゃ無いので調査をするのは当然だったが、如何せん近代的な町並みに少しだけ心躍るのは仕方なかった。

    ─そうしてたっぷり一週間、藤丸はカリオストロの発言通り旅行を楽しむ事になっていた。
    何故そんな愉快な事になったのかと言えば、まず元が微小特異点と言うこともありエネミーが殆ど居ないのだ。特異点に来てから一度も戦闘になる事も無かったし、敵の魔術師なりサーヴァントに遭うこともなかった。今迄の藤丸の冒険譚からすれば拍子抜けである。
    ましてや情報収集するにもここは金融街、出てくる話題と言えば株価チャートだのダウ平均株価だの、株に詳しくない人間が聞けばなんのこっちゃと言いたくなる話題ばかり。しかもそれが毎秒単位で更新されてはあーだこーだと話題に尽きず…。結局、情報収集も上手く行かず仕方無いと諦めた藤丸は兎に角ニューヨークを歩き回った。美味しそうな物を見つけては食べ、気になるものがあれば直接見に行き、遊覧…ではなく自分の足で可笑しな事は無いかと探した。
    つまり最終的に、そう最終的に旅行気分になってしまった。誰にも干渉されない一人旅は結構楽しかったなぁ、とか正直思ってはいるけど真面目にはやっていた。それに英気を養っていたと考えれば皆許してくれるだろう。何せ本番はここから、伯爵が設けた一週間と言う準備期間はここまで、きっとこれから本格的な聖杯探索が始まるのだろう。
    そう思っていた時期が俺にもありました…。

    「お待たせ致しました陛下。では、聖杯を頂きに上がりましょう」
    「………はい?」

    一週間ぶりに再会した伯爵は何だか随分と羽振りが良くなっていた。見た目こそ何処ぞで見た教頭姿そのものだったが、何故か上着には金の刺繍が入ってるし、腕にはギラッギラに輝く腕時計が2つも。靴も何だかそんなに光沢凄かったけ?と思う程に磨かれている。何?この一週間でパトロンでも誑し込んだの?と言う見た目に変貌を遂げていた。
    というか…

    「え?聖杯を頂くって…」
    「ええ、聖杯の所有者と面会し、100万ドルの株券を担保に借り受ける事を承諾頂きました」
    「…なんて??」
    『うわぁ…』

    100万ドルと言う言葉に藤丸は疑問符を大量に並べる。そもそも面会してたの?聖杯の所有者と?俺が遊んでた時に?その100万ドルは何処から出てきたの?宝くじでも当てたの?と言いたい事が有り過ぎて、逆に何を聞いて良いんだか分からなくなる。そんな藤丸とは対象的に嫌な顔を貼り付けているのはダ・ヴィンチだ。彼女は株券と言う言葉とこの特異点の時代背景を頭に浮かべては、本当に詐欺師って嫌な生き物だなぁと苦い顔をした。それに、だ。

    『100万ドルの株券って言うけど、それ本物かい?』
    「勿論、株券は本物ですとも」

    株券"は"と言う所に全てが含まれているのを察して、誰も何も言えなくなった。皆が皆本物の詐欺師の手腕に驚く、いや呆れ果てている間にもカリオストロは近くに止めてあった車へと藤丸を誘導する。これまた高そうな高級車に乗っているが、最早そんな事誰もツッコむ気にもならなくなっていた。

    「それで何処に行くの?」
    「シカゴの外れにある酒場へ。そこでとある魔術師と取引を行う予定です」
    『酒場だって?ちょっと待った、この時代は禁酒法が制定されていた筈だ。厳重な取締りの中、藤丸くんを連れて行く気かい』
    「ご安心をギャングが違法経営する酒場です。警察との癒着関係にあるのでご心配は無いかと」

    何処に安心する要素があったのか分からないが、ツッコむだけ無駄と言う事だけは分かった。たかが一週間されど一週間、詐欺師ってアグレッシブなんだなぁ、と藤丸は高級車に揺られながら道中1万QPを貸した事を後悔していた。


    ───


    酒場に着くとカリオストロは藤丸を中へと促した。そこは違法と言うには荒れ果てておらず、けれど清廉と言うには置かれた酒瓶の数々はまさに無法を謳っていた。そして思いの外人の出入りは多く、見る限り裕福そうな見た目…それこそ資産家、或いはギャングだろうか。何かの賭け事、はたまた此方も株価チャートの話題で盛り上がっている。そんな店内に未成年の藤丸が足を踏み込んでも誰も気に止めもしない。ただカリオストロに促されるまま藤丸は部屋の奥へと進んでいく。
    少し進む内に廊下の雰囲気が変わり始め辿り着いた扉の先、そこが所謂VIPルームである事は直ぐに察した。ムーディな音楽が流れる中、カリオストロは囁き声で藤丸に耳打ちする。

    「通信はお切りください、ここから先は私が対応いたします。陛下はどうか簡易召喚の準備を」
    「戦闘になる、って事?」
    「いえいえ、その様なものでは無く。そうですね…、子供達に手品を見せるような物だと思って頂ければ」
    「?」

    一体どう言う事だろう?そんな疑問を解消する間もなく扉が勝手に開いていく。中を覗けばそこには高そうなスーツに身を包み、指輪やネックレスと言った貴金属をコレでもかと身に着けた小太りの男が座っていた。まさに全身で金持ちを体現している様な男の周りには、これまた屈強そうなボディガードが3人取り囲む様に佇んでいる。物々しい雰囲気を掻き消すように響き渡るのはカリオストロの声だ。

    「閣下、本日はお招き頂き誠幸甚の限りでございます」
    「来たかアレッサンドロ、この間の取引はどうだった」
    「滞り無く、閣下のご助力の賜物です」

    ならば良かったと笑い合う二人の会話に、コレ聞いても良い奴かな?と藤丸の顔が少し強張る。取引だとか賄賂だとか不穏な言葉は途切れる事無く互いの間で交わされている。おまけに随分と親しげに話し合う二人はまるで旧知の仲と錯覚すると程で。
    たかが一週間でギャングの懐にここまで入り込む伯爵の手腕に、寧ろ伯爵へ対する警戒心が増した。聞いちゃいけない闇の部分に何だか居心地の悪い気分になりながも、ただ静かに佇むしかない藤丸は不意に閣下と呼ばれた男と目が合った。値踏みされているような、全身を這いずる視線に顔が引き攣りそうになる。

    「それで、コレがお前の言っていた魔術師か」
    「ええ、私の最高傑作なれば。如何です、ご覧になられますかな?」

    カリオストロの言葉に男は顎で促して来る。
    やれ、と言いたげなそれにカリオストロは小さく藤丸へ耳打ちした。『貴方の思う最も強く有名なサーヴァントを』その言葉を皮切りに簡易召喚を実行する。眩い光と共に顕れるのはアルトリア・ペンドラゴン、そのシャドウサーヴァントだ。現れ出たるその影に、周りの取り巻きは驚いた様に後退り、男はほぅ…と感心した声を上げる。その様子にほくそ笑むカリオストロは藤丸へスキルの使用を促した。言われるがまま被害が出ない程度にアルトリアの魔力放出を上乗せし、その神秘が間違えようの無い本物であると知らしめる。セイバーの中で膨れ上がる魔力の本流に男は手を叩いて喜びを表した。

    「素晴らしい」
    「ええ、ええそうでしょうとも!更に驚くなかれ、最大召喚数は6体!まさに敵無しと言えましょう」
    「6体も…、確かにこれなら次の聖杯戦争を勝ち抜くのも夢では無いな」
    「はい、そこへ閣下の聖杯を加えれば我らの勝利は盤石な物となりましょう」

    何だか理由が分からないが、二人の間で簡易召喚が妙な盛り上がりを見せている。次の聖杯戦争というワードを聞くに、その争い事にどうやら自分を利用しようとしているのだろう。そもそもこの時代に聖杯戦争なんてあったのか?と言う疑問が拭えないが、そこは恐らくカリオストロの詐術の賜物だろう。どうやら聖杯を借り受けると言うのも互いの利益あってこその契約関係だと見える。いや、まず最高傑作って何?どう言う紹介の仕方をしたの?と思わないでも無いがそこはそれ。
    カリオストロの指示するがままに男の前で幾人かサーヴァントを召喚して見せる。己が能力が男にとって有益な物だと知らしめる様に剣を振り、槍を振り、魔力の光弾を放つ。そしてそれをカリオストロが大仰にアピールして行く。

    「如何でしょうか。私に出資頂ければ、閣下へ多大なる利益を齎すとお約束しますが?」

    まるで胡散臭い通販番組でも見ている様な気分になる。その片棒を担がされているのだから、苦い顔にもなると言うもの。そんな詐欺師の言葉に特に考える様子も無く男は良いだろうと頷いてみせた。

    「新たに聖杯を獲得したくないか、と問われた時は可笑しな輩が来たものだと思ったが…。はは、どうやら良い拾い物をしたようだ」
    「我ら魔術師の悲願は根源への到達、その為のリソースは多ければ多いほど良い。私も閣下と良い取引をさせて頂きました」

    恭しくお辞儀をするカリオストロを、藤丸は少し呆れたような眼差しで盗み見る。新たに聖杯を獲得する、なんて嘘よく思い付くものだ。それで騙される方も騙される方だが、実際自分もあれだけ警戒していて心臓を刺されているのだから人の事は言えなかった。
    契約成立を果たした二人は、例の株券の贈与書類にサインをして行く。表向き無償の提供と言う形で合意する二人の手元には書類と、そして聖杯が置かれていた。意外にもあっさりと解決しそうな流れに、藤丸は少し物足りなさすら感じていた。まぁ戦わないに越した事は無いのだし、コレはコレで良い旅行になったなと最初の不安は何処へやら。1万QPを聖杯に…、なんて胡乱をまさか本当に実現するとは思わなかった。
    カリカリとペンの走る音が消える頃には、カリオストロと閣下と呼ばれている男は固い握手を交わしていた。

    「契約成立と言うことで」
    「ああ勿論だ」
    「では、私はこれにて…」
    「待て待て、本番はここからだろう?」

    突然握った手を男が引く。
    芋虫の様に肥え太った指先が、カリオストロの手を這いずるのが見える。その一連の動作に藤丸は思わず表情を固くした。何をしているのか、そう言いかけてカリオストロへ視線を向けた藤丸は言葉を無くした。そこに居たのは"藤丸立香のサーヴァント"ではなく、自分の知らない顔をしたカリオストロだった。

    「嗚呼、いけません閣下」
    「嘘を付くな、満更でも無いだろうが」

    そう言って手の上を這いずっていた指先が、カリオストロの腰へ伸びる。
    撫で付けるようにくびれに触れ、太腿へ降りると外側から柔らかな内腿へと擦りついた。厭らしい手の動きにピクリとカリオストロの身体が震えれば、気分を良くした男がもう片方の手で臀ぶたを揉みしだく。指先が食い込むほどの力で触れられているにも関わらず、カリオストロからの抵抗は殆ど見られない。僅かに縋り付くように男の腕を掴むのみだ。
    あまりの光景に目を白黒させる藤丸を他所に、取り巻きの屈強な男達がわらわらと餌に貪りつく様にカリオストロの身体へ群がってくる。後ろへと回り込み上着を脱がせ、ベストとシャツのボタンを乱暴に外せば晒された胸板へ視線が向けられた。

    「…っ、お待ちを」

    制止の声など誰が聞くだろう、豊満な胸を下から持ち上げる様に揉み込むと、男達はその柔らかな感触を愉しんだ。弛緩した筋肉は触れる程に熱を持ち、柔らかく熟して行く。胸の中心で赤く実る小さな果実は、揉みしだく程に充血し男達の前で硬さを増した。
    その様な恥辱にカリオストロは吐息を漏らすばかりで。無理矢理胸を持ち上げられる度に身体は仰け反り、ピンと立った胸の実りを食べてくれとせがんでいる様にも見える。頭を預けたその先では、カリオストロの匂い求めて男の一人が鼻を擦り付けていた。
    そんな異様な空間に、ただ一人取り残された藤丸は静かに立ち尽くすのみで。一体何が起こっているのか、訳の解らない恐怖に足が震えるばかりだ。何より恐ろしいのは、今まさに犯されようとしているカリオストロが、その顔が自分の知らない蕩けた表情を向けている事。何故抵抗しないのか、何故逃げないのか、どうしてそんな慣れた態度なのか。この一週間の間一体何をして来たのかと疑問で頭が一杯になる。

    「…ぁ、っ」

    けれど、考えている内にもカリオストロの身体は貪られて行く。掴み上げた臀を左右に割り開き、服の上からその秘所へ我先にと男達の隆起した欲望が押し付けられる。男達の無様に揺れる腰使いが、求める物を嫌でも理解させた。暴漢達によってカリオストロ美しい四肢が汚されて行く、欲を発散する為の道具にさせれる。それがどうにも許せなくて、思わず藤丸は自分の役割を放棄して声を上げた。

    「止めろ!」
    「っ…!」

    一斉に全ての視線が藤丸に向けられる、欲に塗れた瞳が剣呑な物へと変わっていく。しかし、その視線に怖気付くことも無く藤丸はカリオストロを見つめた。他の誰でもない自身のサーヴァントたるカリオストロを求めて手を伸ばす。
    当然その手を掴もうとするのは男の取り巻き達だ。邪魔をするなと言いたげに苛立ちを含んだ瞳に睨まれる。伸ばした手が鬱陶しいと払い除けられる─、がその寸前に主の手を掴んだのはカリオストロだ。

    「おっと、いけませんね。私の大切な魔術師殿です、傷を付けられては困りますな」

    握り込んだ手を引き寄せ、抱き抱えるように胸元にしまい込む。壊れ物を扱う様に、優しく腕の中にしまい込まれた藤丸はカリオストロの上品な匂いに包まれた。驚いて顔を見やれば、そこには見知った笑顔のサーヴァントがいて。先程まで男達に囲まれていたのは何だったのかと言いたくなるような早業で、髪と衣服を整え始めた。

    「カリオ…ッむぐ!」
    「心苦しいのですが、私は次の商談が待っておりますので、これにて失礼させて頂きたく」

    では…、と聖杯と書類の諸々を引っ掴むとカリオストロは藤丸を引き摺ってその場を後にした。後ろの方からアレッサンドロ!と名を呼ぶ声が聞こえた気がするが、カリオストロがそれへ振り向くことは無かった。ただ黙々と酒場の階段を登り、人気の無い踊り場へと出る。追いかけて来る者が居ないことを確認すると、そうして漸く藤丸の方へと向き直った。

    「申し訳ありません、見苦しい物をお見せしました」
    「いや、そんな…。俺よりカリオストロの方こそ大丈夫なの?」
    「ええ、陛下のお陰で何とも」

    そっか、と安堵の声を漏らすが内心は穏やかでは無い。目の前であんなものを見てしまったのだ、当然と言えば当然で。表情の強張ったままの藤丸に話題を変えるようにカリオストロは一つ手を叩いて微笑みかけた。

    「それよりも此方、陛下のお望みの聖杯でございます」
    「うん、これでこの特異点も解消されたかな」
    「ええ無論。それが本物であれば、…ですが」
    「え?」

    思わぬ返答に藤丸は顔を上げた。一体どう言う事だと、よもや偽物の可能性を想定して表情が曇る。それを肯定する様に、カリオストロは一つ頷きポツリと話し始めた。

    「恐らくこれは偽物でしょう」
    「どういう事?」
    「簡単な話です、此方にはサーヴァントがいるのですから聖杯を持ち逃げされれば対抗する術が無くなる。それを懸念して、敢えて偽物を渡してきたのでしょう。ましてや一介の魔術師に本物の聖杯の区別など付きますでしょうか?」
    「確かに…」

    最近のインフレ加減にすっかり忘れていたが、聖杯はそう安々と手に入る物ではない。一般の魔術師が偽物を渡されたとて気付く者がいるかどうか。つまり罠に嵌められたのは此方、と言う事になる。実際、契約内容には無償で株券を贈与するとの旨だけが記載されていた。これで詐欺だと騒いだ所でなんの意味も無い。向こうからすれば聖杯を餌に優秀な魔術師と、100万ドルの株券が無償で手に入った、と言う事だ。一杯食わされた、と苦い顔をする藤丸とは対象的にカリオストロはそれでも笑みを崩さない。

    「…と、まぁ相手方はそう思っているのでしょう」
    「…ん?」
    「ご安心を、此方本物の聖杯にて!」

    急に話の流れが変わったと思えば、まるで手品を披露するかの様に手を広げて笑って見せる。あまりに胡散臭いカリオストロの演技じみた態度に、藤丸は意味が分からず首を傾げるばかりだ。

    「え…?何、どういう事?」
    「無論、私の得意とするイリュージョンを陛下にご覧頂いたまで」
    「そう言うのいいから」
    「おや、つれませんね。まぁ実を申しますと、事前に偽物とすり替えて置いただけの話ですとも」

    思わずはぁ?と呆れた声を上げてしまう。事前に取替えていたって、つまり盗む機会があったと言う事だ。それなのにわざわざ商談を持ち掛けたのは一体なんの為なのか。意味が分からないと困惑する藤丸にカリオストロはそれよりも!と愉しげに目を細めた。

    「陛下にはこれより絶景を楽しんで頂きたく」
    「絶景?」

    そう言って目を向けるのは踊り場から見える人々の営みだ。酒を飲み交わし、他愛のない会話で盛り上がる。ここにいるのがギャングでなければ、普通の日常風景とさして代わり映えしない、ごく当たり前の営み。コレの何処が絶景なのだろうか、そう思う藤丸の疑問に応えるべく少しずつ、異変がその場を覆い始める。
    最初は誰かの些細な気付きから。
    ──今ダウが下落しなかったか?
    それはまさに湖面に落ちる水滴の如く小さな波紋を浮かび上がらせる。
    それは少しずつ強まる雨水の様にポツリ、ポツリと増えていき周りへと着実に波及していった。その異変に誰も彼もが"可笑しい"と気付き始める。ある者は何かを予見して店を飛び出し、ある者は思考が停止したように唖然と固まった。楽観的な者はそれでも大丈夫だろうと止まらない冷や汗を流す。
    聞こえて来る声は全て、下落し続ける株価への困惑と戦慄に溢れていた。
    突如襲ったその異様な雰囲気に藤丸は思わず顔を引き攣らせる。先程までは何とも無かった筈だ、そう聖杯を受け取るまでは。
    嫌な考えが頭を巡る。
    それを払拭する様にカリオストロへと声を掛けようとして─
    ピピーッ、と言う通信音を聞いた。それはカルデアから発信されたものに間違いなく、藤丸は直ぐにその通信を開いた。

    「ダ・ヴィンチちゃん!」
    『無事かい藤丸くん』
    「俺は何とも無いけど、急に周りが可笑しくなり始めて…」
    『ああ、始まったんだね暗黒の木曜日が』

    聞き慣れない単語に藤丸は何?と聞き返す。

    『暗黒の木曜日、1929年に起きた株価の大暴落さ。藤丸くんもバブル経済って言葉は聞いたことあるだろう。第一次世界大戦が終了したアメリカでは工業生産が盛んになった。多くの物を売り出し多くの利益を得て、アメリカ経済は好況になっていった。けれど、その需要と供給は次第に見合わなくなっていったんだ。物が売れないのに同じだけ生産を続ければどうなるか、分かるだろう?』
    「経済が破綻する?」
    『そう、負債を抱え込んだ泡は何時弾けるとも分からない。それを見越した資産家達が、湯水の様に注ぎ込んだ資金を回収しようと一斉に株を売却し始めた。それが暗黒の木曜日、世界恐慌の始まりとも言えるウォール街の大暴落だ』

    つまり、その世界恐慌が今まさに始まろうとしていると言う事なのか。頭では分かっても、それでもやはり何故今と言う疑問が拭え無い。そんな藤丸の考えを見越してか、ダ・ヴィンチは言葉を続けた。

    『恐らくその聖杯の役割は、資産家達の認識の操作をしていたんじゃないかな。株を売らなければ少なくとも暴落は起きない。まぁ、その後にバブルの崩壊が来るだけだろうけどね』

    だからこその微小特異点だったのだろう。ここはどの道破滅する世界だった。聖杯を持ってしても腐った土台を元通りにすることは出来なかったらしい。

    『元々起こるべくして起こった事だ、君が気に病むことじゃないさ』
    「…うん」
    『それはそれとして、全く詐欺師って言うのは怖い生き物だなぁ。寄りにもよって聖杯を"100万ドルの株券"と交換してしまうんだから』

    その言葉に藤丸は合点が行った。何故わざわざ簡単に手に入れられる筈の聖杯を、商談なんてまどろっこしいやり方で手に入れたのか。詰まる所、いずれ100万ドルの価値さえ無くなる紙切れと聖杯を挿げ替えたと言うこと。わざわざ相手に見える形で爪痕を残そうとする辺り、相手をおちょくってるとしか考えられない。
    そんな詐術師に、一体どんな顔でこの状況を見守っているのだろうと藤丸は俄に目を向けた。

    ─そこに居たのは人々の混沌に共鳴するように、まるで体現するように、狂気に嗤いながら、しかし晴れやかな顔をする"誰か"だった。その誰かは憧れを抱く少年みたいに笑って、恋をする少女の様に頬を染めて、男を籠絡する傾国の様に冷ややかで。
    けれど、そのどれもが今の彼に当て嵌まることは無かった。ドロドロとゆらゆらと幻のように、霧のように不確かな感情が、まるで鍋の中で掻き混ぜられる具材の様に浮かんでは消え、その形を崩して別の物へと変化する。
    ひゅっ、と喉が鳴る。
    得体の知れないその誰かは人々の嘆きと怒りに微笑っていた。
    この時にはもう酒場の中は悲鳴と後悔と狂気に満ちていて。金を返せと嘆く誰かを嗤い、もう終わりだと絶望する誰を笑い、狂った様に笑う誰かを微笑っていた。
    一向に定まることの無いカリオストロの感情に、不安に苛まれる藤丸は不意に名前を呼んだ。不確かな物を掴むように、その形を確かめる様に。
    ─カリオストロ
    それがいけなかった。
    不意に振り向いたその顔は何時もの笑みを絶やさず、瞳の輝きは失われず、なのに知らない誰かのようで。まずいと直感的に後退る。

    『藤丸く─』

    ブツリと通信が切断される。短剣を携えて知らない誰かがゆっくりと近付いてくる。逃げようと動かした脚は縺れて、手すりにその背を預ける形になった。逃げ場を失った身体に、カリオストロが覆いかぶさって来る。携えた短剣を大きく振り被り、そしてあの時の様に心臓へ目掛けて振り降ろしてくる。
    ドスッ
    何かに突き刺さる音が響き、藤丸は目を見開いた。短剣は手すりの縁に突き立てられ、藤丸の唇には何故か柔らかい物があたっていた。それが何かなど、視界に広がる閉じられた双眸で理解する。
    それはカリオストロの唇だった。何が起きたのか、考える間もなく柔く食まれ舌が藤丸の唇をなぞる。当惑する藤丸に焦れたカリオストロが唇を離してポツリと呟いた。

    「"閣下"」
    「え、」

    それはあの取引相手の呼び名で間違いなく、どうして今そんな風に呼び掛けるのかと思わず声を上げる。その隙間を縫って、カリオストロの唇が再び重なった。今度は逃さない様に両の手で顔を覆って、無遠慮に舌が侵入してくる。驚く内に舌同士が擦り合わさり互いの粘膜が口内で混ざり合った。柔らかく蠢く舌同士が絡み合う程に、呼吸は乱れ唾液が粘度を増していく。思考が少しずつ奪われて行くと、カリオストロの手が顔から離され導くように藤丸の腕を取る。
    そのままあの時のように、あの男がやった様にカリオストロの腰へと促された。くびれをなぞり、太腿を撫で擦って、後ろの方へ手が回り込む。ぼー、とする思考の向こう側で危険信号が鳴り響いていた。これ以上は駄目だ、こんな事はいけないと理性が警報を鳴らす。
    だのに、自分の意志とは関係のない所で回された腕がカリオストロの身体を弄り始める。啜り付いてくる唇に応えるように、今度は藤丸の方から口内へ舌を差し込んだ。唾液を流し込むように舌をなぞり、上顎を舌先で突いて反応を確かめる。コクリと喉が上下するのが見えると、それに何故か気分が良くなる感覚を覚えた。
    そうして藤丸がカリオストロの身体を掻き抱こうとして─
    突然、スッと身体が離された。顔を上げた向こうでは"何時ものカリオストロ"が困った様な顔で佇んでいた。

    「…っ、私とした事が、とんだ失態を…。申し訳ありません"陛下"粗相を致しました」
    「え、そ、…だ、大丈夫だよ。俺もちょっと変だったし」

    本当に申し訳無さそうに眉を顰めるカリオストロに、藤丸も怒るに怒れずぎこち無い慰めをする。何より内心ちょっと惜しいと思っている自分に罪悪感さえあった。
    しかし、どうして急にこんな事をしたのか。先程から揺らめいているカリオストロの存在が、きっと原因である事以外何も分からないのだ。藤丸の問い掛けにバツが悪そうに口を閉じるカリオストロは、だが直ぐに観念したように白状しだした。

    「どうやら私の霊基は少々不安定な様でして。…ええ、改竄の影響かは分かりませんが、他者の魔力を受け取ると些か染まりやすい体質になっているのです」
    「魔力を、受け取る…」

    その言葉に顔が歪む。カリオストロの言葉はまさに他の誰かと魔力供給をしたと自白している様なもので。それが例え聖杯を手に入れる為とはいえ、自分の預かり知らない所でそんな行為に及んでいたと思うと握った拳に力が入った。彼のやり方に口を出すつもりは無いけれど、遣る瀬無さで自分を許せなくなる。魔力を与えられる度に、カリオストロは誰かの為の役を羽織らなければならないなんて、そんなのはいくら何でもあんまりだ。
    ─そこまで考えて、ならばと藤丸は一つ提案を出してみた。

    「それってさ、俺の魔力があれば安定するって事だよね」

    思い切った主の発言にカリオストロは目を見開く。その提案が主へ酷い負担を掛ける事になるのは明白だ。それを分っていて了承する僕がいるだろうか、そんなのは決して許される事ではない。

    「いけません、陛下。それだけはいけない。私の様な者に施しなど許されよう筈もありません」
    「施しなんかじゃない」
    「ですが…」
    「俺がそうしたいんだ」

    だが、真っ直ぐに視線を向けてくる主に曇りなど一つもなかった。真っ向から己の意思で、魔力供給と言う行為を容認しようとしている。ただの一サーヴァントの為に、だ。有り得ない、と普段ならば一笑に付す所をカリオストロは静かに主の意思を尊重する事にした。ここまで言われて、断るなどそれこそ無礼に当たる。未だ貞操を守る若人が、寄りにもよって自身の為にそれを捨てようと言うのだ。その意思を否定するなど誰が出来ようか。
    この精神を繋ぎ止めようと言うのなら、この混沌を御せると言うならやって見せると良い。それでこそ大詐欺師たる己が主なれば。

    「…はは、貴方も酔狂な方だ。そうやって破滅した者がどれだけいたか」
    「俺は破滅なんてしないよ、君のマスターで在りたいからね」
    「ふふ、左様で。では我がマスターへ敬意を評して、どうぞ今宵私の寝所へ要らしてくだされば」

    その言葉に少し顔を赤らめて頷く主へ、ちょっとした悪戯心を刺激される。どの道此方は醜態を晒すのだ、少しくらい主を惑わしても許されるのではないか、とそんな風にカリオストロは微笑む。
    そうこうしている内に聖杯の回収と共にレイシフトが開始された。光の粒子となって消え行く主にカリオストロはとびきりの笑顔でそれを見送る。

    今の私貴方の私は貴方が初めてなのです。どうかお手柔らかにお願いします、陛下」

    最後に聞こえた囁き声は確かに藤丸の元へと届いただろう。







    おまけ


    「うーん、やっぱり可笑しい」
    「ん?どうしたんだね技術顧問」
    「あ、ゴルドルフくん。実は今回の特異点なんだけど…」
    「何か問題でもあったのかね?聖杯は藤丸が回収したんだろう」
    「そうなんだけど、ちょっと可笑しいと思ってトリスメギストスの履歴を検索したらエラー報告が消えててさ」
    「エラーが消えた?」
    「そうなんだ。この特異点が人理に及ぼす影響なんて何処にも無いんだ、まるで狐に化かされたみたいで…」
    「…ちょっと待ちなさいよ。じゃあ何かね、別にレイシフトの必要も無いのに藤丸の奴は特異点に行かされたと」
    「いや、…うん。そうなるね」
    「待て待て待て、原因!そうトリスメギストスが正常に作動しなかった原因は何だと言うんだ!」
    「それが分からないんだ。…一つ心当たりがあるとすれば、私達が幻を見せられていた、とか」
    「…………、藤丸ぅーー!!!そのサーヴァントから離れろぉーー!!!」

    真相の程は定かではない。


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    zawa

    MAIKINGいやあった、書きかけの奴。花吐きパロで、花吐くんじゃ無くてヒビから花が発芽する謎の話。どんどん花が咲き誇って伯爵を彩っていくんだけど、それが全部青い薔薇とか黒い百合とか、造花とか伯爵の心を現すかの様に偽物の花ばっかり咲かせる話。
    マリーオルタに「あら、いい気味ね」とか言われたり、「恋をすると人は美しくなると言うけれど、貴方のそれは悍ましいわね」って煽られる話。
    多分もう書かないので全部言う。
    ※芽生えたものが本物か偽物かなんて誰にも分からない



    ポカンと見詰めたその先に、明らかな異常が鎮座していた。
    自分よりも幾分大きな背丈を見上げた先にあるのはカリオストロの相貌で、その額、ひび割れた亀裂から何かが角のように生えている。それは確かに"芽"の様な何かで、思わず口にした疑問に伯爵は事も無げにさらりと告げた。

    「なに…コレ?」
    「蕾、でしょうかね」

    まるで他人事の様に諦観する男は、自身の顔、ひび割れた溝に指先を滑らせる。赤い瞳から額にまで伸びた大きな溝を辿れば、そこには本来あるはずの無いものが顔を覗かせていた。
    伯爵の言う、花の蕾。何故そんな物が生えているのか、疑問に顔を曇らせるが当の本人も答えを得てはいないのか困りました、と曖昧に微笑むばかりだ。あまりにも素っ気無い回答に、もしかして揶揄われているのかとカリオストロの顔をまじまじと観察する。しかしひび割れたその隙間、細かな溝にさえツタのような物がびっしりと覆っているのを見てしまっては素気無く返す事も出来なかった。
    1461

    recommended works