魔法使い街はハロウィン一色で、今年も商店街ではイベントが開催されていた。
「ほまれ、今年は仮装しないの?」
言われて振り向けば、今年は淡い水色をベースにした魔女??に扮した幼馴染がいた。フードの付いた衣装の端には所々に白のレースが施され、胸元には黒の大きめなリボン。手にはカボチャの杖を持っている。
「私はいいよ。アンリは今年もイケてんじゃん。可愛い」
「でしょ?」
自然溢れるはぐくみ市の中でも、一際大きな木。
ほまれはそこにいた。
ビューティハリーがあったその場所は、商店街もよく見える。でも、今は何もない此処には、ハロウィンの飾り付けはもうない。いつもの電灯だけが灯り、小さくほまれたちを照らしていた。
ほまれは手にしていた写真を鞄に入れる。
狼男と、カウボーイのほまれが2人で写った写真。
狼男は、もう此処には居ない。
アンリはほまれの横に並び、腕を組んでその木に体を預けた。
秋の風が、二人の間を通り抜ける。
長袖でも少し肌寒い。
そこはとても静かだった。
「まだ、好きなんだ。その人のこと」
隠したつもりはないけれど。
ほまれが何を持っていたのかアンリは何となく理解しているようだった。
ほまれは頷く。
「好き、なのかな。何だか、分からなくなってきちゃった」
大好きだった。初恋だった。
この気持ちに嘘はない。
でも、この想いはもう絶対に届かない。
だってハリーは、もういない。
思い出すと胸が苦しくなるけれど。
ハリーの事が現実ではなくて、毎年少しずつ思い出になっていくのが分かる。
好き“だった”。
「僕は嫌いだよ、あの人」
驚いたほまれが顔を上げる。アンリを見上げれば、こちらを見ていた彼と目が合った。
「ほまれを泣かせる奴は、みんな嫌い」
真っ直ぐにアンリはほまれを見ていた。
ほまれは目を見開く。
「あんな奴、僕の魔法で忘れさせてあげるよ」
アンリはカボチャの杖を振って悪戯っぽく笑った。
ほまれの見慣れた綺麗な笑顔で。
「なんてね」
小さく呟くように続ける。
「忘れる必要はないけど。
…もう、いいんじゃないかな」
アンリはオレンジ色に染まる商店街を見て、目を細めた。
ーーもうこの街の何処にも、あの人はいない。
そう、言われた気がした。
End***