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    ひらい

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    ひらい

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    バームクーヘンエンドのスタート地点にすら立てなかった鯖の話。Twitterログ。
    ※根底は鯖乙で他人と苺が結婚してる。
    ※鯖→苺はあるのかないのか微妙な雰囲気。

    絶対絵の方が映えるから以下はフリー素材です!
    ・日に照らされている結婚式場を空中(木の影)から眺める鯖
    ・紙袋を持って帰路に着く招待客にすり抜けられながら式場の方を手ぶらで眺めてる鯖
    ・背景は紫陽花(花言葉 無情)合いそう

    ##鯖関連

    ノーマルエンドのなり損ない、或いは既に過ぎ去ったバッドエンド

     時期は六月、場所は結婚式場。世間で言うところのジューンブライドというやつ。
     花嫁の髪は、あの頃の乙女よりも幾分か長いくらいまで、綺麗に伸びていた。
     参列者の中に知り合いはいないように見える。てっきり彼女との交流を絶ったのは自分だけだと思っていたのだが、息子もそうだったのか? あぁいや、交流があるが故に招待しなかった、という可能性の方が高いか。仮にも夫となる人間がいる前でいつものノリで親しくするのは、あまり良いものでは無いのかも知れない。あと、それとは別で、死神の少年とも交流が続いていると聞いていたのだが、そちらも呼ばれてはいないようだ。りんねを呼ばない以上、確実に浮いてしまうからだろうけれど。
     
     ぼんやりと空中から会場を眺めていたら、長髪を綺麗に結い上げた女性に、訝しげに声を掛けられた。りんねはいないが、こちらの方は招待されていたらしい。
    「何やってるんですか、おとうさん」
    「いや~、あはは。………これって不法侵入かなぁ」
    「多分そうだと思いますけど……。害を加えないのなら、別にいいかなって思いました」
     害を加える――ということは、自分が結婚式に介入するのでは無いかと思って声を掛けてきたのか。幸いにも、鯖人の返答はその疑いを瓦解させるに充分だったみたいだけれど。一体どうして。あまりに声に覇気が無かったから? 相変わらず読めないものの、少し複雑そうな表情を浮かべて、彼女は招待客の輪の中に戻っていった。
     陽光に照らされて笑みを浮かべる花嫁の姿に、どうしてか嘗ての乙女が被って見えた。乙女が着ていたのはウェディングドレスではなかったし、鯖人たちの結婚式はこんなガーデンパーティーのようなものでは無かったけれど。
     眩しさで片付けられないほどに視界がぼやけて、初めて涙を流していることに気づく。嗚呼、これは愛だったのかしら。乙女のことは確かに愛しているけれど、苺のことは、
     
     苺が成長するのと反比例するように、会う頻度は減っていた。彼女の交友関係の妨げになるから、なんて殊勝な理由では無く、折り合いが悪いことが重なってしまって、そのまま。誰だって自分の妻だった人が他人と付き合っている姿を見たくは無いだろう?
     だから、今回の結婚話だって、りんねに聞いたものだった。色んな感情がまぜこぜになった顔で「おふくろの結婚話をおやじに知らせに来るおれの気持ちが分かるか!」と言われたけど、生憎と、そんな気持ち、分かりたくなんてない。ごめんね?
     
     分かっている。鯖人が口でも手でも滑らした瞬間、結婚式当日に離婚なんてことになりかねないのだと。分かっている。自分に、結婚式で何も起こさない保証がないことを、鯖人自身が一番分かっている。保証書を書こうと金を賭けようと、倫理も常識も通用しない自分の行動なんて読めないのだ。正直、堪え性があるとは世辞でも言えない性格である以上、こうして手ぶらで空中から眺めていることすら、安全だとは言い切れない。
     そんな綱渡りをしてしまうほどに、掻き乱されているのだ。乙女は故人であり、苺は苺であると、理解している認識している諒解している、していなくてはならないのに。
     メダカもカナリアもアリクイも、人の姿では無く、当然記憶を持ってはいなかった。けれどけれども、人の姿で、あの頃に少し似た姿で生を受けて、記憶までも戻ってしまったものですから! そんな相手に何も思わずいられるほど、鯖人は潔くは無かった。
     
     結婚式が終わり、式場を出て行く人の群れを、空中からぼんやりと眺める。あの少年は、小学生の頃に苺に告白して振られていた子で、あちらの少年は、高校生の頃に数週間だけ苺と付き合っていた子だ。今は何とも思っていないかもしれないが、少し気分が下がった。どうせ花嫁はここにいないし、嫌がらせの様に花弁を撒いて、現世を去る。
     
     愛する人が別の人と結婚する結末を、世間ではバームクーヘンエンド、というらしい。そのドイツの菓子が、結婚式の引き出物の定番であるからとか何とか。
     ならば招待すらされず、当然引き出物を貰うことすら出来ない自分は、何と例えれば良いのだろう。前世の夫だなんて、現世において何の繋がりにもなりやしなかった。そう、何の繋がりも無いのだ、ならばそもそも攻略ルートの対象外、最初っからエンドなんて決められていない、そこら辺のモブAだったりして? 或いは、乙女と違って転生していない以上、前作主人公みたいな例外枠止まりなのかもしれない。どうでもいいか。
     長年のあらゆる不道徳の報いだろう、と誰かが言った。
     有り得ない。りんねすら一度(間接的には鯖人のせいで)死にかけたというのに、鯖人がのうのうと生きながらえている時点で、世の中に因果応報なんて存在しないはずだ。
     運命だったのでしょう、と諦念を込めて誰かが呟いた。
     そんな訳がない。もしこの世に運命なんて物があるとするならば、それは鯖人と乙女との出会いであり、苺に記憶が戻ったことであるはずだ。否、仮にそうでなかったとしても、苺がどこの馬の骨とも知れぬ人間と結婚することが運命だなんて有り得るはずがない。いや、相手の情報は出生体重から口座番号に至るまで全て把握しているけれど。
     
     故に、この結末は報いだとか天命だとか、対外的要因によるものじゃあなくて、ただ、己がどこかで選択を誤ったという、それだけの話のはずなのだ。
     何をいつ間違えたのか、どうすれば良かったのか、だなんて、一切分からないけれど。
     どうか死ぬ時は教えて欲しい。一緒に輪廻の輪に向かいたいから。現世には共に死ねば来世は双子になれる、なんて迷信があるらしいので、それに縋ってみるというのも一興ではないか、なんて思うのだ。りんねを置いていくことになるのは、少し未練になるけれど、彼は同じ時を生きられる友人も多くいるようだから、きっと大丈夫だろう。
     
         あ~あ、ままならないものだなぁ。



    (24/06/27)
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    ひらい

    DONEバームクーヘンエンドのスタート地点にすら立てなかった鯖の話。Twitterログ。
    ※根底は鯖乙で他人と苺が結婚してる。
    ※鯖→苺はあるのかないのか微妙な雰囲気。

    絶対絵の方が映えるから以下はフリー素材です!
    ・日に照らされている結婚式場を空中(木の影)から眺める鯖
    ・紙袋を持って帰路に着く招待客にすり抜けられながら式場の方を手ぶらで眺めてる鯖
    ・背景は紫陽花(花言葉 無情)合いそう
    ノーマルエンドのなり損ない、或いは既に過ぎ去ったバッドエンド

     時期は六月、場所は結婚式場。世間で言うところのジューンブライドというやつ。
     花嫁の髪は、あの頃の乙女よりも幾分か長いくらいまで、綺麗に伸びていた。
     参列者の中に知り合いはいないように見える。てっきり彼女との交流を絶ったのは自分だけだと思っていたのだが、息子もそうだったのか? あぁいや、交流があるが故に招待しなかった、という可能性の方が高いか。仮にも夫となる人間がいる前でいつものノリで親しくするのは、あまり良いものでは無いのかも知れない。あと、それとは別で、死神の少年とも交流が続いていると聞いていたのだが、そちらも呼ばれてはいないようだ。りんねを呼ばない以上、確実に浮いてしまうからだろうけれど。
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