現代AU 忘羨♀ ⚠️なんでも良い人向け、転生藍湛と魏嬰は学生時代に出会った。
2人の性質は静と動、水と火のように常に対極にあった。ただ義侠心に厚く優しい心の持ち主であるという点において互いに通じ合うものがあった。
やがて無意識のうちに互いが特別な存在となっていき、出会う度に意識は互いに向けられ視線や表情に具に現れるようになっていた。
2人が成人を迎える頃、突然魏嬰が姿を消した。彼女の足取りを求めて藍湛が掴んだのは、彼女を幼い頃から引き取り育てた江家に不幸があり義姉弟は無事だったが魏嬰と義父母は行方しれずとなっていることだけ。
それ以外のわずかな行方も掴めないまま数年が経った頃、魏嬰によく似た女性を見かけたという情報が舞い込む。片田舎の施設に向かった藍湛は、そこで幼い子どもの面倒を見ながら老人達と生活する魏嬰の姿を眼にする。
居ても立っても居られず「魏嬰」と名を呼び、彼女の前へ姿を表した藍湛だったが、藍湛を見るなり魏嬰の美しい顔は、驚きから安堵、そして厳しいものへと変わっていった。老人達に「知り合いですか?」と尋ねられた魏嬰は「この子を頼みます」と幼い子ども預けると、藍湛の手を掴み人気のない林の方へ勢いのまま歩んでいく。その手の熱さに魏嬰が確かに目の前に居る喜びを噛み締めた藍湛だったが、鬱蒼としげる木々に囲まれた場所で突然止まった彼女は、振り返り藍湛を見上げると「なぜ、ここが分かった?」と鋭い眼差しで聞いた。魏嬰の冷たく硬い声音を聞きながら、「君を見かけた、と人から聞いた」と伝えると、魏嬰は思考を巡らせるようにしばらく黙り込んだあと、「もうここへは来るな」とだだ一言告げて藍湛の元を去ろうとする。
今度は藍湛が彼女の手を掴む。掴んだ手首は細く硬い。痩せている、と藍湛は思った。
「離せ」と低く怒気を孕んだ声音で言い睨みつけてくる彼女に「離さない」と告げた藍湛は咄嗟に
彼女を抱き寄せる。胸の中で暴れる彼女を逃すまいと更に強く抱き締めて、これまで一度も触れられずただ求め恋焦がれた相手との再会の歓びと彼女に拒絶されることを受け入れられない自身に動揺する藍湛。やがて抵抗はやんで胸の中の魏嬰が大人しくなる。
「いたいよ、藍兄ちゃん」と懐かしく柔らかいくすぐる様な声音に安堵して抱き締めていた腕の力が緩んでいく。魏嬰は藍湛の腕から逃れようとはせず、胸に頬をそわせ身体を預けると、そのまましばらくしてゆっくりと藍湛を見上げた。
「魏嬰」と再び名を呼べば、「藍湛」と懐かしい柔らかな声音でかえされる。藍湛は魏嬰の髪と頬に触れる。魏嬰の唇が動き「なあ藍湛……お前、俺が好きなのか?」と問われる。藍湛は、自分に向けられた澄んだ瞳を見て、なぜか不安と焦燥が込み上げて綯交ぜとなった。答えることで何かが変わり何かが決まる気がする。おそらく慎重に答えなければならないのに、今彼女が自分の腕の中にいるのは現実で、一瞬でも離したくはないと本能がうるさく叫ぶ。だからか、戦慄く唇が動き出すのを止められなかった。
「……好きだ、きみのことを……愛している」そう絞るように、本心から真っ直ぐに告げた。
魏嬰は眼を大きく見開いたあと、一度だけ両方の瞼を閉じた。再び開かれた瞼の下から現れた瞳は木漏れ日の光を受け濡れる。揺蕩う。
彼女の片方の腕が藍湛の背に緩く回り、彼を見上げる口元が微笑みの形になる。
そして、もう片方の腕が持ち上がり藍湛の顔の輪郭を愛しむかのように上から下へと優しくなぞっていく。魏嬰の指先が、彼の乾いて水気を失った唇にたどり着く。そして魏嬰は藍湛に口付ける。
石のように固まったまま、魏嬰になすがままにされていた藍湛。身体を離していく彼女。触れただけの唇への感触は生々しく残されている。
魏嬰はただ微笑んでいる。藍湛に向かって。その微笑みは藍湛によく見せていたカラリとした太陽のようなものではなく、慈しむようなどこか諦めたようなそんな淋しいものだった。
「…魏嬰っ!」藍湛は魏嬰の身体を再び抱き寄せて、深くその唇を重ねた。自分の名を呼ぼうとする声さえ掻き消して。
(いかないで)と、腕の中にいるはずの魏嬰に向かって、みっともなく乞い願う。
藍湛の激しく有無を言わさない想いを受けながら、魏嬰は仄暗い歓びと残酷な決意を胸に宿していた。