7月9日ひさしぶりに逢えたオルコットは、いつもは身ひとつで現れるのに、今日は見慣れない包みを提げていた。
「土産だ。ナジが持ってけって」
地球産のじゃがいもだ、と押し付けるように俺へ紙袋を渡す。
ずしりと重い袋は、受け取るとごろりと手の上で揺れた。開けるとふわりと土の匂いがする。地球の匂い、あのとき、埋葬、嗅いだ、
「どうした?変な顔して」
顔を上げるとオルコットと目があう。あのときと、おなじ、瞳、
「俺達が農作業してたら可笑しいか?復興計画地区の食料自給率を上げるためだ。四六時中ゲリラ活動してるわけじゃないんだ俺たちは」
俺たち。オルコットの仲間。あの、輸送船で会った、ナジと呼ばれていた。オルコットと地球で別れるとき、それとなく聞いた、これからどうするのか、合流する、
「ずいぶん、仲、良いんだな」
いけない、頭の中でアラートが鳴る。以前、あまり深く聞くなと嫌がられた、オルコット、顔がゆがむ、
「まあ、ナジとは長い付き合いだからな…」
遠くを見るような、懐かしむような、俺が見たことない表情。俺が知らないあんた、俺が知らない過去、聞けない、教えてくれない、聞いても、無駄、
「…おい、どうした?なんだその膨れっ面は?」
だめだ、オルコット、だめだ、
「お前もしかして…妬いてるのか?」
だめだ
「…だって、いや俺もガキっぽいと思うけどさ…」
だめだ、言うな、
「だって俺は休暇とか数ヶ月に一度の…数時間、長くても数日、しか、逢えないのに…」
鼻の奥がツンとする、最近忘れてた感覚、恥ずかしい、悔しい、だめだ言うな、いや、いっそ、
「ナジさん、は、あんたと、ずっとなんねんも、いっしょ、に、いる、のかと…おもった、ら、…たまらなくなっ…… 」
違う、いや、違わない
俺が知らないあんたを知っているひとが羨ましくて、
俺に何も教えてくれないあんたが憎くて、教えられないくらい俺が子どもで頼りないと思われているのかと自分が悔しくて、
顔を上げられなくなって見つめる床に、水滴がぼとりと落ちる。無意識に握りしめた紙袋のじゃがいもががさりと音を立てた。立派なじゃがいもだったな、どう調理しようかな。寂しくて悔しくて恥ずかしくて泣いている俺から乖離した俺が、他人事のようにじゃがいもの行末を心配している。
もう駄目だ、あまりにも情け無くガキまるだしな俺を、きっと、オルコットは、見限る、だろう。
頬に触れられ、指先で涙を拭われる感触。俺はやはり顔を上げられない。
やさしく、まぶたに触れられる。煙草の匂い、オルコットの。
俺の、涙のあとを、辿る唇、
「泣くな」
ため息とともに耳に注がれる声。耳たぶを甘く噛まれる。駄目だ、俺を、甘やかすな、やめろ、
「…ないてなんかないッ…!」
「うん、そうだな」
やさしく、顔を掴まれる、目の前にオルコット、薄紫色の瞳、真剣な、すいこまれそうな、綺麗
「グエル、ちゃんと話そう。
話せないこともあるけど、お前が知りたいことは、聞け。できるだけ話す、から」
そう言って、俺を見つめる瞳、変わらない、あの日、地球の、朝焼けの、そらのいろ。