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    瀬名🍭

    書きかけ、未修正の物含めてSS落書きごちゃ混ぜ。

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    瀬名🍭

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    れーりつ 「貴方はれーりつで『来世でもよろしく』をお題にして140文字SSを書いてください。」 勢いでかいたら伸びた

    ##れーりつ

    僕が街を離れて数十年が経った。街並みは寄せ集まっては瓦解して、早送りの羽化を見るようで帰るたび知らない顔を覗かせた。その中で意外にもしぶとく相談所は居座り続け、商い主の葬儀に人々は列をなしたが肝心の霊幻さんだけが彼の人徳を示すこの光景を知らないのだった。後年数多の証言により一廉の霊能力者として名を残すのは確実だった。彼がそう望んだかは定かでないが、斎場に例の彼特有の妙な気配は感じられなかったので悔いなく成仏したのだろう。
     兄は終始気丈に振る舞っていた。霊幻さんは彼を慕う人々に囲まれ穏やかに晩年を過ごしたと聞くが、一番の友人を失った兄の胸中の悲しみはいかばかりか想像がつかない。二度と戻らない半身。柄になく熱いものが込み上げてきたので、ハンカチで目元を押さえていると、祭壇の花に囲まれるようにして中央に置かれた彼の写真に静かに微笑みを向けられた。目尻に笑い皺を深く刻んでいる。
    「俺の伝記を書いてくれないか?」いつ交わしたのか全く思い出せない台詞がふと耳に蘇る。おそらく僕がまだ十代だった頃だ。たまに兄の代理で相談所へ顔を出していた。理由はただそれだけだった。
    「イヤですよ」
    「即答だな。まあ、モブにも断られたんだが」
    「兄さんに変な物書かせないでくださいよ……。在庫を捌ききれないと思うのでやめた方がいいと思いますよ」
    「知名度はあると自負してるんだが。なんだ、渋い顔して」
    「霊幻さんに建設的な忠告を与えてしまった……」
    「オイ」と苦笑する霊幻さん。本当にこんなやりとりあっただろうか。遺影を前にしてそれらしく脳内で自動生成してるだけじゃなかろうか。ああ、でも、確か軽口叩き合いながら、この時悪霊に囲まれていたんだ、僕ら。
    「律は霊的な現象で閉じ込められるのと人為的な密室ってどっちが厄介だと思う?」話題が飛ぶ。「前者は今みたいな状況、後者はモニタリングされててさ」
     訳がわからないと思うが、この日対峙した都市伝説の悪霊は僕達が沈黙すると強くなり、喋ると弱体化するのでどうでもいいことを話し続けなければいけなかった。
    「監禁されてるってことですよね? 人の方が交渉の余地はありそうですね。どちらも話が通じるかわかりませんが。因みに超能力の使用は?」
    「ナシだ」
    「ならば、人の方が与し易いです」
     僕の超能力でパンパンと派手に二体霊体が弾けた。霊幻さんは背後で塩を大量消費している。アドレナリンが身体中を駆け巡って汗が背筋を伝って流れた。闘争か逃走か。神経細胞が発火し、指先から光を放つ。追い詰められて危険な状況なのに、手にした力を思い切り解放する瞬間は未だにワクワクしてしまう。ずっと憧れていたから。うまく使いこなせるようになりたくてバイトを引き受けている側面もある。過ちを犯した自分がこの力に見合う持ち主になるように。
    「そうか、俺はもし霊的な閉鎖空間でも抜け道はあると踏んでる。人間より霊の方が規則的だったりしてな。さて、目下交渉の見せ所と言う訳だが」
    彼と背中がぶつかり振り返る。肩で息をしている霊幻さんがニヤッと笑い、「次何話す?」
     廃ビルを出ると夜空の低い位置に細い三日月がかかっていた。光の加減で少し赤く怪しく光る。悪霊を退治し終えて彼は労うような調子で言った。「伝記の件頼んだぞ」
    「まだ言ってる……」
    「今回の案件は21世紀の天才霊能力者霊幻新隆、名解説、名DJで闇を払う! ってタイトルでどうだ?」
    「う〜ん、今世紀中には書けそうにないですね。死者の書でいいですか?」
    「エジプト式だと」
     古代エジプト時代、死者の書を携えて死後人々は神に裁かれた。死する者へと文字の供物が金字塔の内壁に、棺の中にと手向けられた。
    「うまくいけば来世で復活できますよ」
     一般に日常会話で意味深長な含みがない限り、話し手の意図は一秒以内に理解されるという。一秒、二秒……。返答に間が空いたので少し思うまま喋りすぎたかとちらりと様子を窺う。すると、彼は人を食ったような笑みを浮かべていた。
    「来世でもよろしく」

     もう彼と会うことはないが、今夜の暖かな葬式の光景は日記に書いておこうと思う。彼の魂の裁定に響かなければいいと願う。
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    瀬名🍭

    PROGRESS不定期でトとジェがお茶会する♣️🐬SSのまとめ(未完) 捏造多。随時更新。お題:salty lovers
    Merman’s test garden 魚類は虫歯にならない。歯を蝕む病は人類と砂糖の出会いによって生まれ、海中暮らしで甘味を知らなかった人魚もまた、人と交わることで歯を患うようになったと言われる。太古の昔、人間の王子と結ばれた人魚の姫は、心優しいハンサムではなく実際のところお城の豪華なテーブルに並んだ愛しき者たち――チョコレートケーキにミルクレープ、焼きたてのスコーンにクロテッドクリームとたっぷりのジャムを添えた、華麗なるティータイム――と恋に落ちた、なんて使い古されたジョークがある程だ。
     それまで、栄養補給を主たる眼目に据えた、質実な食卓しか知らぬ人魚たちの心を蕩かしたこれら、危険で甘美な食の嗜好品はsweety loversと名付けられ持て囃された。他方、人間に人魚、獣人、妖精と多様な種族がファースト・コンタクトを済ませたばかりで、種の保存において血筋の混淆を危険視する声も少なくなかった。昼日向に会いたくても会えず、仲を公言することもできない、陸の上の恋人を持つ人魚たちはなかなか口にできぬ希少な砂糖になぞらえ、情人をもまたsweety loversと隠れて呼びならわし、種の垣根を越え、忍んで愛を交わしたと伝えられている。
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