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    瀬名🍭

    書きかけ、未修正の物含めてSS落書きごちゃ混ぜ。

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    瀬名🍭

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    れーりつ/普通に別れてる。頭いい子が情にまみれてぐるぐるしてたら可愛いなと思った。見つけたところで終わった方がよかった気がするし若干うーん?ってなってて書き直しそうな気もするけどまあいいや

    ##れーりつ

    彼女との結婚が決まり、一人住まいの部屋の整理をしていた時のことだ。実家を出てから物はあまり持たなくなったし、定期的に不要な荷物は捨てていたから、どこか出張にでも出掛けるようにすんなりと片付けは終わった。が、部屋を出て行く前日だったか、書棚と壁の隙間から書籍が転がり出てきた。長らくひっそりと僕の生活の影に潜み、埃をかぶっていたその本の往生際の悪さは持ち主の資質を思わせた。それは霊幻さんの私物で、「お前にやるつもりだったんだけどなー」とか本気だか冗談だかよくわからない戯言をぶつくさ言いながら、絨毯に這いつくばって隣のスチールラックやベッドと床の合間に目を凝らしていた後ろ姿を昨日のことのように、思い出すことができる。結局初めての贈り物という彼の企みは失敗に終わり、どうにもかっこつかない恋人のそんなどうしようもないところを僕は好ましく思っていた。
    「まさかこんなタイミングで現れるなんてな……」
    中身をパラパラと捲ってみると意外にも詩集だった。記憶が確かなら彼が学生時代によく読んでいたという。僕の情操教育に役立つなどと保護者顔でおどけていた様子が脳裏に甦り、僕は少し顔を顰めたがそれだけだった。僕らはもうとっくの昔にさよならしていたから。
     調べてみると詩集は絶版で中古品のようだったが(これが学生時代の霊幻さんが手にしていたものなのか、成人してから改めて古本屋で買い求めたものか判断はつかない)、マーカーも引かれていず、目立った汚れもなく、栞も紙片すらも挟まっていない。それでも、ページを捲る手が止まらなかったのは、彼があの時伝えたかった大人になるために必要な何かというものを知りたかったからなのだろう。だが、これなしに大人になってしまった僕にはとうに道を違えたあの人のしるしなど分かりもしない。ただ、僕の目に留まったのは息切れするように乱れ打たれた詩人の読点と、数々の修辞を経て愛している、と締めくくられた祈りの詞(ことば)。
    「分かる訳ないだろ……」
     携帯電話のメッセージアプリを開くと時刻は既に午前0時を回っている。一番上は彼女の項目で片付けの進捗報告だった。粗方の荷物を廃棄したと。僕は一言、お疲れ様と送って少し思案する。僕が今からすることは彼女への背信行為になりやしないか。霊幻さんの連絡先も一応登録してあった。変に心残りを新居に持ち込むよりはと、数年ぶりにページを開くと機械的なやりとりばかりが残っていて笑ってしまう。彼は筆不精だったし、僕は何もかも初めてで気恥ずかしくめったに長いメッセージは送らず、やりとりは電話が主だった。僕としては一字一句にみっちりと感情を込めたつもりだったが、爆発しないように注意深くちぎりにちぎって霊幻さんに届く頃には残滓のようになっていて、うまく伝わらず電話の方がいいと言われてしまったことさえある。別れてからも彼は兄と交流があったから、顔を合わせないわけにはいかず、最初のうちは顔を見るのも辛かったが、久方ぶりに会っても何ともなさそうな彼の調子に合わせているうちに、傷はかさぶたになった。文字を入力するたび、溢れ出そうな雄弁な感情はもうない。知人と言って差し支えない友好的な関係を築けている。僕はこれまでの僕の、もしかしたら僕らの努力に感謝する。
    「忘れ物を見つけたので郵送します」
    送信したのは意図せず懐かしい事務的な文章だった。霊幻さんは相変わらず筆無精で、メッセージを読んだのかどうかさえ分からず、僕もその後ページを開くことはなかった。黙って捨ててしまった方がよかったのかもしれない。しかし、家族以外の誰かに迷惑をかけてもいい、間違えてもいいと僕に教えてくれたのは他ならぬあの人だった。
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    瀬名🍭

    PROGRESS不定期でトとジェがお茶会する♣️🐬SSのまとめ(未完) 捏造多。随時更新。お題:salty lovers
    Merman’s test garden 魚類は虫歯にならない。歯を蝕む病は人類と砂糖の出会いによって生まれ、海中暮らしで甘味を知らなかった人魚もまた、人と交わることで歯を患うようになったと言われる。太古の昔、人間の王子と結ばれた人魚の姫は、心優しいハンサムではなく実際のところお城の豪華なテーブルに並んだ愛しき者たち――チョコレートケーキにミルクレープ、焼きたてのスコーンにクロテッドクリームとたっぷりのジャムを添えた、華麗なるティータイム――と恋に落ちた、なんて使い古されたジョークがある程だ。
     それまで、栄養補給を主たる眼目に据えた、質実な食卓しか知らぬ人魚たちの心を蕩かしたこれら、危険で甘美な食の嗜好品はsweety loversと名付けられ持て囃された。他方、人間に人魚、獣人、妖精と多様な種族がファースト・コンタクトを済ませたばかりで、種の保存において血筋の混淆を危険視する声も少なくなかった。昼日向に会いたくても会えず、仲を公言することもできない、陸の上の恋人を持つ人魚たちはなかなか口にできぬ希少な砂糖になぞらえ、情人をもまたsweety loversと隠れて呼びならわし、種の垣根を越え、忍んで愛を交わしたと伝えられている。
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