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    雨音🌟

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    雨音🌟

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    [星を掴む]
    ●注意●
    ・御手洗暉が、伊藤班にいた頃を想定した話です
    ・名前付きのモブが出ます。むしろ、彼と御手洗くんの交流がメインの話です
    ・捏造です。捏造しかないです
    ・御手洗⇨真経津ぽさはありますが、無CPです

    以上、なんでも許せる方のみお読みください

    ##星を掴む

    星を掴む 星 一誠。
     ホシ イッセイ。
     
     男は、そう名乗った。
     品の良いスリーピースの黒スーツに、濃い青のナロータイ。フレームレス眼鏡。
     涼やかで切長の、薄茶の瞳。
     白い肌に、人好きのする微笑を浮かべた、整った顔立ち。丁寧に短く整えられた、艶のある黒髪。
     年齢は、御手洗より一つ上。25歳。
     彼は、ギャンブラーだった。ランクは1/2ライフ。伊藤班管轄。
     あの班に居た頃、毎日のようにギャンブラーを取り替えては試合に駆り出されていた。
     その時に担当したギャンブラーなんて……叶さんと天堂さんを除いたら、覚えていたのは彼くらいだった。
     いや、それでも忘れていたのだ。つい、最近まで。忘れたことにすら、気が付いていなかった。
     長くて短い彼からの手紙を、雪村さんから手渡されるまで。
     それを受け取る時、弾ける泡のようなレモンライムの爽やかな香りと、紫煙の匂いを嗅いだ気がした。
     
     それは、彼の遺書だった。
     
     ***
     
    「星様」
     カラスホテルでのゲーム終了後。
     片付けを終えて会場を出た御手洗は、廊下に座り込む男に声をかけた。
     黒髪の頭がピクリ、と動き、立てた膝に伏せられていた顔が上げられる。フレームレス眼鏡のレンズの奥で、薄茶の目が何度か瞬く。
    「どうされましたか?」
     彼は、先ほどの勝負で担当していたギャンブラーだった。結果は、彼の勝利。もっとも、ギャンブラーを取っ替え引っ替え試合に駆り出されているここ最近、御手洗の担当したギャンブラーは全勝だったが。
     ただ、確か、彼も浅くない傷を負っていたように思う。医務室で治療を受けた筈だが、身体ダメージが深いのだろうか。
    「失礼します」
     声を掛けて、正面に屈む。顔を覗き込むようにしてみれば、目が若干焦点を失っていた。はぁ……と吐き出された吐息が、熱さを伴っているようにも感じる。
    「……貴方」
    「はい?」
    「御手洗さん、でしたっけ……」
    「はい」
     問い掛けられ、肯定する。その声も、先程の勝負の時と比べれば、だいぶ張りを失っているように感じる。黒髪をかき上げ額に触れてみれば、手には正常ではない温度が伝わってきた。
    「……熱がありますね」
    「みたいですねー……」
     困ったように、笑う。どこか口調は他人事のようで、焦りなどはあまり見られなかった。
    「1人で帰るのは無理そうですね……お送りします」
     そもそも、ギャンブラーの送迎も担当行員の仕事の一つだ。必ずではないが、自宅に迎えに行き、連れて帰ることは少なくない。
     車を回して来ないと……と考える御手洗に、「いや……」とどこか気まずげな声がかかる。
    「それには及びません」
    「いや……無理でしょう、1人で帰るのは」
    「いえ、一人でも二人でも関係ないと言いますか。帰れないと言いますか」
    「は?」
     まさか家出中とかそういう話か? 何歳か忘れたけれど、どう見積もっても、成人はしている良い大人の筈だ。
    「私……家、無いんですよね」
    「は?」
    「家なき子、というやつでして」
     いや『子』って歳じゃどう見てもないだろ。敢えて表現するならホームレスだ。
     いや待て、なんで。ギャンブラーだろ? 家買うなんて簡単だろうし、豪邸だってひょいっと建てられるくらいの資産を持っている筈だろ。
    「ありますね、お金は」
     思考を読んだような答が返ってくる。ギャンブラーは、時々こういうことをする人間が多い。
    「本業の方が、最近クビになっちゃったんですよね」
    「はあ?」
    「会社の寮に住んでたのですが、追い出されちゃいまして……」
    「………」
    「なので、住む家が無くなったわけですが。もう、家もいいかな、と」
     いや、なんでそんな発想になる。
    「だから、ご心配なく。動けるようになったら眠る所ではいくらでもありますし」
     いや動けるようになるまでここにいるつもりなのか。悪化したり最悪死んだらどうするつもりだ。
    「まぁ……大した問題では」
     問題あるだろ、だから思考を読むなよ、これだからギャンブラーは。
     いやでも。ギャンブラーも人間で。ダメージを負ったらちゃんと辛いんだ……真経津さんだって……
    「星様」
    「はい?」
    「失礼します」
     危うく浮かんでしまった名前を振り払うように、声を出す。今は、自分の担当ギャンブラーこそ見るべきだ。それが仕事だ。
     だから、首を振って。肩を貸して、男の身体を半ば引きずるように立ち上がらせる。
     見ていた時から思っていたけれど、そうしてみれば体格はかなり華奢だった。身長は御手洗より5cmは低い。体重もかなり軽いことは確かだ。
    「御手洗さん?」
    「ここで死なれたら……僕も、結構面倒なので」
     告げた言葉に、決して嘘は無かったが。それが全てでないことは、きっと、このギャンブラーにも見抜かれていた。
     
     ***
     
    「………そんなこともありましたね」
    「いやなに普通の顔で寛いでるんだアンタ」
     あの、ホテルの廊下で男を拾って四日が経った。自宅のリビングのソファで、寛ぐ男……星一誠(フルネームは昨日聴いた)を胡乱な目つきで御手洗は眺めた。
     あの時のスリーピースのジャケットを脱ぎネクタイを外した、ややラフな姿。3人掛けのソファの二人分を占有し、緑色の缶を傾けている。
    「セブンアップ。至高の飲料です」
     それが何か、と疑問に思うよりも前に回答が飛んでくる。
    「ジュース?」
    「炭酸飲料。お酒ではないので……まぁ、ジュースですね」
    「ふーん」
     四日前、家に連れてきた彼の荷物は少なかった。小さなトランクが一つ。中はしっかりと見たわけではないが、最低限の着替え(なので寝込んでいた2日は部屋着を貸していた)と、100円ライターとタバコ。それと、この7のロゴがついた缶が3つ。
     それ以外にも何やらあったとは思うが……とにかく「家がない」と言った以上、それが持ち物の全てであろうに。とても、少なく思えた。
    「あまり、欲しいものってなくて」
     薄く、男が微笑む。飲み干したらしき缶を片手に、立ち上がる。
    「アキラくん」
     呼びかけられる。
     昨日、熱が下がり会話のできるようになった彼に、「敬語じゃなくても」と困ったように言われた。「あなたが家主なんですから」と言われてみれば、それはそうで。
     だから御手洗は敬語をやめて。ついでに「アンタも好きにしていいけど」と返せば、「ボクのこれは、敬語というよりも、ただのこういう話し方なので」と返された。
    「なに?」
    「アキラくん、牛丼好きですよね」
    「……よく分かるな」
    「冷凍庫に、牛肉がありましたよね。あと、野菜室に玉ねぎ。極めつけは、冷蔵室の紅生姜かな」
    「………」
    「殆ど空っぽに近いのに、それだけがあれば牛丼かな、て」
     苦笑まじりの言葉に、手で顔の半分を覆う。推理ですらない。あまりに、分かりやすすぎる。
     いやでも、そう。最近は……伊藤班に買われてからは、とにかく仕事が忙しくて。日々が忙殺されて過ぎて行って。買い物も料理も、まるで時間がとれなくて。
     昨日、何を食べたか覚えていない。マトモに料理や掃除をしたのがいつか分からない。美味しいと最後に思ったのか、記憶すらない。
     そんな毎日の中でも、せめて……と確保していた材料なのだ。結局、作ることはできてないけれど。
    「好きなら、よかった」
     そう言って、彼はニッコリ笑った。フレームレスの眼鏡越しの瞳が細められる。人好きのする笑顔……だと、思う。
    「ちょっと、待っててください」
     そう言って、キッチンに引っ込んで十分後。星一誠が携えてきた丼には、甘辛い匂いの堪らない牛丼が盛られていた。
    「どうぞ」
     2つの内、量の多いものを御手洗の前に置き、腰掛ける。中を覗き込んでみれば、甘辛いタレに絡められた玉ねぎと牛肉が白飯の上にこんもり盛られていた。紅生姜も、きちんと添えられている。
    「ご飯は棚にしまわれてたパックご飯を拝借しました。期限ギリギリでしたよ」
    「あ、うん」
     ごくり、と生唾を飲み込む。匂いが、とにかく堪らない。ちら、と向かいに視線をやってから、箸を手に取った。いただきます、と呟いて丼を持ち上げる。
    「」
     最初の一口は、衝撃だった。ああ、いつぶりだろう? と。牛肉と玉ねぎを噛み締める。
     しっかりと火の通った、けれど硬くない牛肉。軽くシャキシャキ感の残る玉ねぎ。これくらいの方が、クタクタよりも好みだった。
     そこからは、もう止まる筈も無かった。箸を素早く操り、口に掻き込む。
     ちら、と正面の様子を伺えば、手を合わせた男が箸を手に取るところだった。食べる所作が丁寧で、育ちの良さを窺わせる。
     なんとなく納得するものを感じながら、最後の一口まで夢中で掻き込む。呼吸する間すら惜しい気がして、殆ど一気に食べてしまった。さり気なく食卓に置かれていたグラスを掴み、中の水を呷る。
    「……ふぅ」
     一息つけば、まだ食事中の彼がこちらを見ていた。ぱちぱちと瞬き、口端を上げる。
    「………美味かった」
     そう呟くように告げれば、その表情のまま「よかったです」と返される。
     食べる様を眺めているのも妙な気がするので、スマホを手に取る。表示されていた時刻は、深夜一時前。帰ってきた時点で日付が変わる直前だったのだから、おかしくはない。
    「……こんな時間に牛丼食べてしまった」
    「大丈夫ですよ、たぶん」
     なにが? とはツッコマない。手ずから拵えてくれた牛丼は確かに美味すぎたので、これ以上の愚痴なりツッコミは野暮というものかもしれない。
     だから、何も言葉にせずに。卓上のペットボトルを手にとり、グラスに注ぐ。そういえば、備蓄用のこの水を買ったのもいつだっけ? と考える。
    「……明日も」
    「ん?」
     食べ終えたらしき声に、視線を向ける。
    「明日も、これでいいです? 夕食」
    「…………明日も?」
     因みにこの『明日も』は、『明日も牛丼?』と、いう意味ではない。断じてない。『明日も居るのか?』と、いう意味の『明日も?』だ。
     けれどその真意は、伝わらなかったようで……敢えて黙殺された可能性も高いけれど……ゆるり、と小首を傾げられる。
    「材料が、これ以外ありませんし……」
    「悪かったな。いや、そうじゃなくて。そうなんだけど……ああ、もう!」
     本当に、ギャンブラーという人種は!
    「明日……何時に帰れるか、わからないし」 
    「構いませんよ、何時でも」
    「~~~………」
     ここから逆転する目は、明らかに無い。いやそもそも、牛丼が美味かったから、その時点で負けていた。大敗だ。
    「……帰り、連絡する」
    「ありがとうございます」
     白旗を上げる心地で呟けば。本心が読めるのか読めないのか分からない笑顔が、そこにはあった。
     
     ***
     
    「一誠」
     帰宅してドアを開け放つなり、御手洗はそこに居た居候の名前を呼んだ。
     いつもと変わらない服装(洗濯はしていますよ、とのことらしい)で寛いでいた男が、こちらを見る。
    「おや、アキラくん。今日は早いですね」
    「住所不定無職のギャンブラーから呼び出しがあった、て言っておいた。どうにかなるもんだな」
    「あの……それ、もしかしなくても私です?」
    「間違ってはないだろ」
     六日目。家に置いてから今まで、彼に働きに出た様子は無かった。いやそもそも、家から出た様子も無い。この家はオートロックであるから、出たら入ってこられないはずだ。
    「入る方法はいくらでもありますよ……まだ使ってませんけど」
    「永久に使うな。それより、行くぞ」
    「何処にです?」
     疑問符を浮かべて立ち上がるのに、我ながらじっとりとした目を向ける。
    「携帯屋だよ!」
     二日前。帰る前に連絡する……と、言ってみたものの、ある意味世捨て人レベルに持ち物の少ない、何ならセブンアップ(と、時々タバコ)以外に全く執着の持っていない彼は携帯電話は持っているのか? と不安になり問い掛ければ、「ありますよ」と返事があった。
     考えてみれば、銀行からの連絡はメールやメッセージアプリなので、持っている筈だった。そう安心したのも束の間、彼がベストのポケットから取り出したブツに、目を疑うことになる。
     思わず叫んで曰く「ガラケー!」コロン、としたフォルムに懐かしささえ感じる。「久しぶりのパカパカ」。
    「使えるんですけどねー……」
    「いやあと数年で使えなくなる」
    「数年ですよね。それなら別に……」
     生きてるか分かりませんし。
     言外にそんな言葉を読み取り、苛立つ。ギャンブラーなんて、いつ死んでも不思議では無い。そんなこと、理解している筈なのに。
    「いいから、行くぞ」
     繰り返せば。いかにも気が進まないけれど……と、いう風に、肩をすくめてみせたのだった。
     そして、数時間後。
    「アキラくん、この『らいん』というのはどう使うんです?」
     新品のスマホを手に質問攻めしてくるギャンブラーに辟易しながら、御手洗は彼と共に帰宅した。当たり前のように「ただいま」と口にするのを眺めながら、ポケットに手を突っ込む。
    「一誠」
    「はい?」
    「これ」
     ぽん、と投げて寄越したのは、この部屋の合鍵。受け取って不思議そうな顔をするのに、笑う。
    「アンタ、どうせしばらくウチ居るつもりだろ。なら、出掛けられないのは不便だろうし。『いくらでもある』テを使われても困る」
    「……はぁ……」
    「出てく時は……もう帰らないって時に、置いてってくれたらいい」
     そう、告げてやれば。
     本当に微かな……小さな声が「キミって人は……」と、呟いていた。
     
     **
     
    「星一誠」
     七日目。
     その日、日付が変わる直前に帰宅すれば、居候の姿は無く。それでも合鍵が無かったので、待てば帰るだろうと思った頃に、ひょっこりと彼は帰ってきた。
     玄関を開けて一歩入ったところを、呼び止める。
    「なんですか? アキラくん」
    「訊きたいことがある」
    「はい」
     頷きながら靴を脱いで家に上がる。靴をきちんと揃えるところに、なんとなく『らしいな』と感じる。
    「なんで、僕の家にセブンアップがカートンで届くんだ!」
    「あ、届いてましたか?」
     置き配の回収ありがとうございます。て、感謝するところはソコか。
     何本あると思ってるんだ。30本だぞ。いつまでいる気だよ。飲みきるまで居るつもりか。
     ただでさえ、今日は仕事がうまくいかず(うまく行ったことなど、賭博で担当ギャンブラーが勝つこと以外、一度も無いのだが)、疲れている。
     勿論、八つ当たりをするつもりはない。もはや、それすら面倒くさいとも言える。そもそもこの男は、何を言っても反応に大きな変化は無いので、八つ当たりしたところで微塵もスッキリするはずも無い。
    「……あー……」
    「アキラくん」
     苛立ちながら髪を掻き上げれば、名を呼ばれた。
    「なに?」
    「鬱陶しくありません?」
    「なにが?」
    「髪」
     言われて、気がつく。いや、ずっと気がついてはいたが、気にしないフリをしていた。髪が、伸びている。特に前髪など目に入って鬱陶しいことこの上ない。銀行員ならば清潔感も大事、という意識はあるので、見苦しくないようにはしていたが、鬱陶しさはどうしようもなかった。
    「仕方ないだろ。散髪に行く時間なんかない」
    「それ、ボクに任せる気はないですか?」
    「は?」
     思いもしない言葉に、反応が遅れた。
     そうすれば、彼は手にしていたカバンから、何やら取り出す。ガンベルト? と一瞬思ったが、勿論違う。
    「言ってませんでした?」
    「なにが」
    「ボクの、本業」
     ハサミを手にして、首を傾げる。カバンから出したガンベルトのような物(正式な名前が分からないので、これでいい)を腰に巻き、準備を整える。
    「美容師?」
    「ええ、まぁ」
    「初めて聞いた」
    「そうでしたっけ」
     廊下を歩き、洗面所へと向かう。小さな椅子を運び込み、手招きされる。
     大人しく従い、促されるまま椅子に座った。
    「……狭い」
     呻く。
     そこらの家より広めに作られているとはいえ、椅子を持ち込み大の男二人が存在すれば、どうしても狭苦しい。
    「まぁまぁ。椅子の上は陣地が保証されてるんですから……じゃ、シャンプーしまーす」
    「わ、っぷ」
     巧みに頭を抑えつけられ、次いで、後頭部からお湯を掛けられる。水温は適温で熱くも冷たくもなかったが……唐突だから、堪らない。シャワーが止まった隙に「仰向けじゃないのか」と口に出す。
    「だって……シャンプー台が無いんですもん」
    「あの歯医者みたいな椅子」
    「……否定はしませんけど」
     手際よく泡立てられたシャンプーで、髪が洗われる。強くもなく弱くもない力加減は絶妙で。心地よさに、眠気が襲う。
    「さて。シャンプー終わり」
    「……ん」
    「お客様、今日はどうされますかー?」
    「んー……鬱陶しくない程度になればそれでいい」
    「お任せですね、承知しましたー」
     まるで店のような……けれど店にしては随分テキトーなやり取りが、楽しい。
     ああ。『楽しい』なんて、思ったのはいったいつぶりだろうか。こうやって、屈託なく笑うのも……心地よい眠気に包まれるのも、本当に、何日ぶりなんだろうか。
    「眠っても大丈夫ですよ」
    「……いや。それは……うん」
    「ほら。ね?」
    「ん……」
     お疲れ様。
     そんな声を聴いたのを最後に……御手洗の意識は、抗えない眠気へと、落ちていった。
     
     翌日。
     朝、目が覚めた御手洗は(ご丁寧にも、自室のベッドに寝かされていた)、真っ先に鏡を確認した。そして、遅れて起きてきた居候に「腕は悪くないんだな……」と、感心しつつ告げることになった。
     けれど、「なぜクビになったのか」を、訊くことはできず……もはや、訊くつもりも、あまりなかった。
     
     ***
     
    「アキラくん!」
     遠くから、誰かが呼ぶ声がする。
     目蓋が重い。頭も重い。全身が重くて堪らない。
    「アキラくん!」
     うるさい。
     寝かせてくれ。
     いや、でも待て。寝て大丈夫なのか? 仕事は?
     仕事が、終わらない。積まれて積まれて、消化してもしても、終わりなんかない。
     誰かが「無能」と囁いている。無能に、意志など要らない。
    「アキラくん」
     ふ、と。呼びかけと共に、誰かの手が頭に触れた。そのままポンポンと落ち着かせるように、叩かれる。
    「アキラくん」
    「……一誠?」
    「おかえりなさい」
    「ん……」
     意識が、半分ほど覚醒する。そうすれば、そこが自宅の玄関であることがわかった。
     ぼんやりとする目を瞬けば、目の前にはフレームレス眼鏡の奥の、薄茶の瞳。
    「……ただいま」
    「動けます?」 
    「ん……」
     手を差し出されるのを借りるように、立ち上がる。よろよろとした足取りで導かれ、ソファへと座る。
    「……起きてたのか」
    「ええ、まぁ」
     時刻は……正確には分からないが、恐らく深夜2時を過ぎた頃。
     そんな時間にも関わらず、同居人はいつもと同じ服装だった。眠気も見せず、今帰ってきたばかりの自分より、よほど仕事中のように見えるくらいだ。
    「寝ててもよかったのに」
    「まぁ……ボクのことはお気になさらず」
     そう答える手元に、どこからか緑色の缶が現れる。プルタブを引き開ければ、プシュ……と炭酸特有の爽やかな音がした。
    「それ」
    「ん?」
    「セブンアップ」
    「ああ、はい」
     口付けるのを見守って、言葉を探す。
     飲みたい、と言えばいいのか? それをくれ、と。いや、飲みたいのはその缶じゃなくて新しいやつで……でも、この男が唯一と言ってもいいくらい自分から求めるそれを、譲ってもらう権利はあるのかどうか。いや、今自分は眠る場所を提供してるわけだけど。いやでも、対価は日々の食事が……牛丼は本当に美味い。
    「アキラくん」
    「……あ?」
    「どうぞ」
     ヒョイ、と缶が投げて寄越されるのを、間一髪受け止める。炭酸を投げるやつがあるか、と抗議しつつ、無意識に流れる動作で缶を開け、口付ける。
     そして。
    「ゲッホ ゲホ」
     咽せた。
    「アンタ、これ……!」
    「はい?」
    「酒……!」
    「飲める人ですよね? アキラくん」
     飲めるけれど。この缶と同じ物が、冷蔵庫に眠っていた筈だけれど。
    「それは、ボクが買ってきた物ですよ」
     冷蔵庫の中のは期限が切れてましたからね。そう続けられるのを聴き流し、一息に缶を呷った。
    「おや? イケますね」
    「……ん」
    「はいはい」
     空になった缶を突きつければ、次の缶を渡される。躊躇うことなくプルタブを開け、口付ける。
     飲み干し、大きく息を吐く。疲労も、葛藤も、胸の中にある全てを押し流すように。
    「………明日、僕、仕事なんだけど」
    「散々飲んでからいいます? それ」
     呆れた声に、うるさいと返す。更にもう一本を手に取り、缶を開ける。
    「まぁ……明日は、大丈夫ですよ」
    「……はぁ?」
    「さっき、連絡がありまして……ボク、明日、試合なんですよ」
    「……明日?」
     呟くと、同時。御手洗のスマホが震えた。取り出せば、それは今の上司である伊藤主任からのメッセージ。
     内容を確認し……眉が寄ることを、自覚する。
     
    『出勤前に、星一誠を迎えに行け』
     
    「まぁ……私は、ここに居るんですけどね」
     メッセージを表示させた画面を見せれば、ギャンブラーはクスクスと笑った。
     いつもは『ボク』と自称する癖に、ギャンブラーとしての自我が出る時はそれが『私』になることに、今初めて気が付いた。
    「明日は、私がラクさせてあげますよ」
     その言葉の真意を、訊ねるよりも早く。2本目のセブンアップの缶を開け、一誠はこちらに身を乗り出してきた。
    「……なんだよ?」
    「ね、アキラくん」
    「?」
    「マフツ、て……誰です?」
    「……っぐ、っふ」
     咽た。
     それどころか、思いっきり吹いた。
    「ゲホ……ゲホッ」
    「大丈夫ですか?」
    「あ……あぁ、うん。いや、なんっで」
     何処から、その名前が出てくる?
     何故。今、ここで。
     ずっと……忘れていた筈なのに。いや、忘れることなど、できる筈のない名前だからこそ。
     蓋を開けないように……忘れられるように、閉じ込めていたのに。
    「いつでしたっけ? ボクが髪を切った時……寝落ちたキミが、ずっと『マフツさん』て、言ってましたよ」
    「うわ……」
     頭を抱える。いや、まさか。そんなことで。
    「マフツさん、は……」
    「マフツさんは?」
    「………」
     ひく、と。引き攣った息が漏れる。缶を引っ掴み、開けては呷る。
     マフツさん。
     まふつさん。
     真経津さん。
     僕は……あなたの、傍に。
     
     
     
     翌朝。出勤時間ギリギリに、御手洗は目が覚めた。ソファから滑り落ちそうになりながら身を起こせば、窓から差し込む光を受けて佇む星一誠が居た。
     黒いスリーピースに、濃い青のナロータイ。フレームレス眼鏡。
     人差し指で眼鏡を押し上げ……爽やかに、笑う。
    「さて。行きますか」


    ***


    「………どういうつもりだよ!」
    「何がです?」
    「最後のペナルティは絶対に余計だろ!」
     ゲーム後の、医務室。ベッドの周りのカーテンをきっちり閉めた後、御手洗は小声で怒鳴りつけた。
     それに対して、ベッドに横になった男は、眼鏡を外しながら苦笑してみせる。
    「あ……バレてました?」
    「当たり前だろ!」
     今日の星一誠は……とんでもなく、強かった。ほんの一度すら相手にチャンスを与えず、全て読み切り、完全に相手を制圧し、勝利した。後ろで控えていた御手洗自身、圧倒されるほどのとんでもない手際だったのだ。
     それが、最後の最後。あからさまなミスを演じ……ペナルティを受け、余計なダメージを増やすことになったのだ。
     意味が分からない。
     あれだけ強いのであれば、今日は無傷で勝てた筈ではないか。
     そう思って睨みつければ……気まずげに、頬を掻く。
    「いやー……こうすれば、医務室に来られると思いまして」
    「は?」
     医務室に来たかった、ということか? それも、敢えて最小ダメージで。
     理由は? と視線で問い掛ければ、細い指先が持ち上げられる。
    「ほら、アキラくん。そこ」
    「は?」
     奥にある、もう一つのベッドが指差される。
    「寝ましょ。隈、ひどいですよ」
    「いや、なんでだよ、寝るなら一人で寝てろよ、僕は仕事が……」
    「アキラくん」
     有無を言わさぬ、という言葉に押し黙る。ね? と念押しされ……渋々と、隣り合ったベッドに横になる。
    「なんで僕が……」
    「私が起きてますから。誰か来たら、起こしますよ」
    「……仕事が……」
    「いいから。ね?」
     このつもりで、最短時間で試合を終わらせたんですから。
     そう言われれば、反論はできない。
     ポケットからスマホを出し、隣のベッドに投げつけるように渡す。
    「それ、鳴ったら起こして」
    「任せてくださいな」
    「………ん」
     布団に潜り込み、息を吐く。そうすれば、ほ……っと、全身から力が抜けた。どれだけ強張っていたのか、今更のように実感する。
     細く開けられた窓から、風の音がする。
     疲労がドッ……と襲い……けれど、だからこそ、か。すぐに眠気が来る様子は無かった。
     すぐそこまで来てそうで、ゆったりとしていて。即、眠りに落ちるほどの勢いを持っていない。
     ふぅ……と、また息を吐けば、聞こえたのか。「アキラくん?」と、隣のベッドから呼びかけられる。
    「眠れませんか?」
    「んー……眠くは、あるんだけどな」
    「まぁ、スーツではそうリラックスできませんよね」
     確かに、それもあるかもしれない。
    「なら、少しお話しします?」
    「お話し?」
    「ええ」
     頷く気配。
    「例えば」
    「そうですね……たとえば、昨夜のこととか」
    「あ?」
    「覚えてます? 昨夜」
     昨夜。
     確か、酒を飲んだ。一誠の奢りの缶酎ハイ。正直、何本開けたかは全く記憶にない。
     朝起きてみればテーブルやソファ周りは綺麗に片付けられ、一つの空き缶も落ちていなかった。
    「8本飲んでましたね、アキラくん」
    「あー……」
     8本。そこまで酒に弱いつもりはないが、強くもない。更に言えば昨日は疲れていた。空腹でもあった。ツマミもなかったし……
    「ボクがジャガイモを揚げたポテトチップ、ほとんどキミが食べましたよ」
    「……それは、悪い」
     散々飲んで……割と、早い内に落ちた気がする。どう見積もっても、4本目あたりから記憶が怪しい。
     確か、そう。真経津さんの話をしたのだ。一誠に訊かれて。僕は……
    「死に顔が見たい、とは、随分ニッチな趣味ですよね、アキラくん」
    「うるさい」
     布団を被り、反論する。
     ニッチ、の一言で済むあたりは、この男もやっぱり正常ではない。
    「ま、私は、『ボクの死に顔はどうか』と訊ねたら振られてしまったんですけどね」
    「は?」
    「おや。覚えてませんか」
     ひどいなぁ。と、嘆くのに、霞かかった記憶を、頭の底から引っ張り出す。
    「いや、待って。覚えてる……かも、しれない」
     そう。確か、こんな会話だった。
     

    「そうだ。ボクの死に顔はどうです?」
    「興味ない」
    「即答はひどくないですか……?」
    「僕は、楽しいと思える程の強い相手と戦った真経津さんが……楽しみ抜いた果てに、負ける姿を見たいんだ」
    「……へぇ?」
    「アンタは、正反対だろ」
    「ま、確かにそうですね」
     

     そう。『楽しみ抜いた果てに』と、いうのが重要で。
     この、目の前の男は……昨日一晩、共に飲んだギャンブラーは、賭博を『楽しんで』いるようには見えないから。
     ただ、淡々と。物事を『こなして』いる。そんな印象ばかり強くって。
     そういえば……と、思い至り、呼びかける。
    「なぁ、一誠」
    「なんです?」
    「アンタ、て……ギャンブラーらしくないな」
    「ほう?」
     パチパチと、目を瞬く。ようやく、睡魔が忍び寄ってきたのを感じる。
     そうしながら、思い出す。真経津さん、獅子神さん、村雨さん、雛形さん、叶さん、天堂さん。
     自分が見てきたギャンブラーたちと、今、ここにいる星一誠。
     どこが……とは、うまく説明できない。けれど、両者の間には、確かに大きな、決定的な違いがある。
    「アンタは……ギャンブルはしてるけど、結局、なにも『賭けてない』……賭ける程に、価値を見出していない」
    「………」
    「お金も……自分の生命も……まず、失くすことを惜しいと、思ってないんだ。だから、『賭ける』に、値していない……」
     ふわ……と、大きく欠伸する。
    「アキラくん、知ってますか?」
    「……ん?」
    「お金のためにお金を欲しがる人は、いないんですよ」
    「……?」
    「紙幣でも貨幣でも……増える預金残高も。何かに『交換したい』と思えるものがあって初めて、価値を持つんです」
    「……アンタは、無いのか」
    「そうですねー……」
     のんびりした相槌に、眠気が加速する。降りてくる目蓋には敢えて逆らわずに、目を閉じる。
    「……家」
    「はい?」
    「家は、欲しがれよ……」
     必要だろ? と問えば、困ったように笑う声が聞こえた。
    「帰るのが面倒なんですよね……」
     ならなんで、僕の家には帰ってくるんだよ。
     よっぽど訊いてやろうと思って、けれど結局訊かなかった。でももしかしたら、訊いておけばよかったかもしれない。
     そんなことを考えながら……眠気には勝てず。御手洗は意識を手放した。
     
     
    「VIP……ですか」
    「ああ。僕は……やつらを、賭場から追い出したい」
    「それはまた……どうして?」
    「ギャンブラーの……すごい人たちの勝負が、あんなやつらの見せ物で嘲笑の対象で、あっていい筈がない」
    「……」
    「もっと尊厳を持たせたい……許せない、んだ。ずっと」
    「………なるほど」
    「真経津さんが死ぬ時に……アイツらは、必要ない」
    「……『あなたたち』側からは、そう、見えるんですね……」
     
     
     不意に、御手洗は目を覚ました。頭が、随分とスッキリとしている。半身を起こしてみれば、とても軽かった。眠る前の疲労は、完全にとは言えないが、だいぶ消失している。
    「おや、起きましたか?」
     不意に、声。隣のベッドに目をやれば、眼鏡をかけていない星一誠が、こちらを見ていた。
    「ああ……だいぶ楽になった」
    「それは、よかったです」
     微笑んで差し出してくるスマートフォンを受け取る。画面を確認すれば、何も通知は来ていなかった。
     眠っていた時間は40分ほど……か。
     一度、大きく欠伸して。こちらを見てくる顔を、じっと見る。
    「? どうかしました?」
    「いや……別に」
     首を振る。
     先程、夢に見た会話。あれはおそらく、そのまま、昨夜の記憶だろう。確かに、VIPが許せない、ということを語った覚えはうっすらとある。
     ただ。
     最後に、彼が囁いていた言葉は、どういう意味だったのか……訊くならば今しかない、と思いながら。それでも、訊ねる言葉が出てこなかった。
     ピロン、と。無慈悲な着信音が、手の中のスマートフォンから響く音が聞こえた。
     
     ***
     
     その日。御手洗暉は、日付が変わって数時間経つ頃に、ようやく銀行を出た。
     医務室で眠った40分は、後から考えれば、とても賢明な選択だったと言える。あの時間寝ていなければ、きっと、今日は仕事が終わる前に倒れていた筈だ。
     そんな風に考えて……居候に感謝して。けれど、身体はフラフラで。銀行を出てすぐ、階段の手すりに体を預けることになった。
     布団干し……とか昔、鉄棒で遊んでいたあの状態だ。
     苦笑して。遊んでる場合かよ、と思って。それでも、もう、動くことが面倒くさい。
     どうせ、あと数時間もすれば出勤だ。なら、いちいち帰らなくていいではないか。
     そんなことを考えて……ああでも、眠らずに待ってる人が居るんだっけ、と思い直して。
     なんとか体を起こそうとするのに、「アキラくん」と、呼びかけられた。
    「……ん?」
    「お疲れ様、アキラくん」
     夜闇の中。街灯に照らされて浮かび上がるのは、確かに居候の顔だった。フレームレスの眼鏡が、チラっと光を反射している。
    「大丈夫です?」
    「んー……あんまり」
    「ですよねー……」
     体を抱えるようにされ、手すりから離れる。ズルズルと、階段にしゃがみ込む。
    「車、とってきますよ」
    「……んー」
    「キーは?」
    「……」
     無言で差し出せば、受け取った男は踵を返す。運転できたっけ? と疑問が掠めるけれど……確か、以前、携帯ショップで免許証を出していた。
     やがて。ライトを灯した車が近づく。出退勤にも使っている、御手洗の愛車だ。
     運転席のドアが開き、黒スーツが姿を現す。
    「アキラくん、乗ってください」
    「……んー」
     運転席に乗ろうとすれば、違う違うと引っ張り出される。
    「ボクが運転しますから」
    「……わかった」
     頷き、助手席に回る。さすがに、今の状態での運転が不味いことは、ぼやけた頭でも理解できた。
    「途中、コンビニに寄りますね」
     助手席に座り、シートベルトを締めていればそう告げられる。
    「ん……了解」
    「ボクも、さすがに本調子というわけではなくて。ご飯は、今日は作れてないんです」
     すみません、と続くのに首を振る。この男は今日、全力で以って、勝利をもぎ取ってくれたのだ。
     勝利と……御手洗のための、時間を。だから、責める理由はどこにも無かった。
    「運転には支障ないので、ご心配なく」
    「……うん」
    「さて、行きますか」
     声と共に、車が動き出す。コンビニに着いたら起こしますから、と。そう告げる声に、ひどく安心した。
     
     
     
     
    「わ……ちょ。アキラくん! これ」
    「ダイジョーブ。一誠、驚きすぎ」
    「いやでも、これ、初めてですもん!」
     そう叫ぶ一誠が手にした細い棒から弾けるのは、無数の火花。
     勢いよく吹き出すキラキラに目を白黒させるのを見て笑う。
     夜食を買いに寄ったはずのコンビニ。そこで、少し季節の早い手持ち花火を目にして会話すれば……なんと、全くやったことない、という事実が判明した。
     それならば……と。買い込み、車を走らせて、たどり着いた河川敷。
     夜明けの手前。まだ明るくなるには少し早い時間。誰も居ない広い場所で男二人、花火を手にはしゃぐ。
    「ほら、一誠。見て」
     花火を二本両手に持って、くるくる回す。火花が軌跡を残して、夜闇に閃く。
    「振り回していいものなんですか」
    「んー……いや、たぶんダメだった気がする」
    「ダメって袋にも書いてありますよほら!」
    「ま……でも、ほら。綺麗だし」
     火は、一誠の持ってい100円ライターを使った。初日に「室内禁煙」を言い渡してから、一度も吸ってる所は見ていない。
     それでも、ジャケットのポケットにはこのライターと、タバコの箱が見えた。
    「一誠」
    「なんです?」
    「吸っていいよ」
    「はい?」
    「ここは、外だし」
     そう言ってやれば、しばし、不思議そうな顔をして。ゆるっと、その唇が笑みを刻む。
    「ありがとうございます」
     ポケットから箱を取り出し、1本を摘み出す。口に咥えて火をつけて……そうすれば、紫煙と共に独特の香りが立ち上った。
    「それ、なんて煙草だ?」
    「ラッキー・ストライク」
    「へー……」
     随分と、縁起良さそうな名前だな、と思う。思いながら、ネズミ花火に火をつけてポイっと放った。
     バチバチバチ 
    「」
     突然な火花と音に、タバコを咥えた一誠が慌てる。慌てて、逃げようとして。足が、川の浅瀬に勢いよく浸かる。
    「あ」
    「ちょ」
     つる、と。滑って身体が傾いて。その先には、狙ったように御手洗が居て。
     ドン、と。衝撃は一瞬だった。星一誠の軽い身体は、それほどの重さは感じさせず。けれど、こちらの体勢を崩すには充分で。
     体勢が崩れ、よろめいて。二人揃って、そのまま川へ。
    「わ、と」
    「あ、ちょ」
     バシャン と。水の音は二人分。仲良く倒れ込み、半身が水に浸かる。
     季節柄、冷たくはない。が、冷たくないから良い、というものでもない。
    「………っあー」
    「………」
     無言で、一誠は口から煙草を抜いた。まだ火がついていたそれを、携帯灰皿に押し込む。
     そして、立ち上がり……未だ水の中の御手洗に、差し出される手。
     見上げるも暗闇のせいか、表情はよく見えなかった。
    「……あー……ありがと」
     手を借り、立ち上がる。
     そうすれば、途端に羞恥が襲ってくる。いや、流石に、何してるんだ自分達は。良いトシして。
     そんな想いで、謝罪するべきかと視線をやれば……ぴく、と、男の肩が震えた。
    「ん?」
    「……っく」
    「」
    「ははははははは!!!!!!!」
    「…………あ?」
     弾ける笑い声に、目を白黒させる。
    「ははは……いや、アキラくん。さすがに、さっきのは、ひどくないですか」
     目元を拭うように、抗議されるのに……とても、不思議なものを見ている心地で、彼を見つめる。
     笑っている。
     いや、彼は、よく笑っていた。人好きのする、と表現すべき微笑をよく浮かべていた。
     けれど……こんな風に、何も計算もない、ただ感情そのままの星一誠を見たのは、きっと、これが初めてだと確信する。
    「……なんだ」
    「ん?」
    「ちゃんと、笑えるじゃないか」
    「え?」
     言ってやれば。ピタッと、動きが止まる。しばし、何やら考え込むようにして、首を捻る。
    「そう言えば……確かに」
     頷く。解せない、という表情が続ける。
    「人生初めてかも知れません」
    「本気か?」
    「初体験、ありがとうございます」
     そう言って、微笑んだ表情を……たぶん、一生、忘れないと思った。

     そう、思っていたのだ。



    「なあ」
     帰りの車内。ハンドルを握る星一誠に、御手洗は声をかけた。
    「はい?」
    「楽しかったな……」
    「そうですね」
     クス、と笑う。
    「とても、楽しかったです」



     ***



    「御手洗?」
     呼びかけられ、仕事の手を止めて御手洗は顔を上げた。
     宇佐美班に戻ってから、数日経った日のことである。
     声をかけてきたのは、先輩である榊。顔に当惑が浮かぶのを隠しもせず、「客」と告げられる。
    「客ですか?」
    「そ。ほら」
    「やあ、御手洗」
     呼びかけられ、入口の方を向く。そこにいたのは、肩口で切り揃えた髪を揺らす細身の男性だった。
     女性に見間違えそうな顔に笑みを浮かべて、親しげに手を挙げる。
    「……雪村さん」
    「ああ、久しぶり。御手洗が宇佐美班に戻る前以来か?」
    「ええ……そうですね」
     頷けば、「そんなに警戒するな」と、笑われる。
     けれど今となっては敵であるこの行員が、わざわざ訪ねてくる理由など検討がつかなかった。
    「おつかいだよ、ただの」
    「……つかい?」
    「そ。ほら」
     すっと。白い封筒を差し出される。反射的に受け取ってみれば、それは厚い物ではなかった。
     眉を寄せてひっくり返し……そこに書かれた名前に、身体を、電撃を浴びたような衝撃が駆け抜けた。
     
     星 一誠
     
     裏には、そう、書かれていた。
     
    「………あ」
     掠れる声が、喉から落ちる。
     同時に、記憶が……思い出が、溢れる。
     忘れていた。忘れたことさえ、忘れていた。
     仕事に追われ、いつからか自宅に何日も帰らなかった。少しずつ少しずつ、それは心を……自我を侵食して。心も意志も、空っぽになって。寝ているのか起きているのかすら、分からなくなって。気が付けば、伊藤主任の命令以外、何も聞こえなくなっていた。
     だから……いつのまにか、忘れていた。確かに数日、共に暮らした男のこと。
     そのまま、宇佐美班に戻って。そうすれば、真経津さんがいて。解任戦だワンヘッドだと、あの空虚な伊藤班での日々を、振り返る隙間はカケラも無くて。
     だから……だから。
    「……一誠」
     囁く。何度か、呼んだことのある名前。確かに、そばに居てくれた人。
    「………一誠、は……?」
     
    「死んだよ」
     
    「………」
     一瞬。
     言われた意味が、わからなかった。
    「……え?」
    「星一誠は、昨日死んだよ」
     キノウシンダ。
     シンダ?
     なんで。
    「なん、で……」
    「ん?」
    「一誠、は……1/2ライフ……」
    「1/2ライフでも死ぬことはあるさ。知ってるだろ?」
    「………」
    「ま、星一誠が死んだのはワンヘットだけど」
    「」
    「ワンヘッドに上がった。初戦で負けて死んだ。理解できた?」
     目を、瞬く。
     会話を、思い出す。
     そう、一誠は、賭博で勝ったお金を、一切使っていないと言っていた。
     だから、ワンヘッドに上がるのも、時間の問題だった。彼は、殆ど負けることも無かったから。
     

    「残高? 30億くらい……ですかね」
    「使わないのか?」
    「欲しいものが無くて……タバコなら、何箱買えますかね?」
    「500万箱。肺癌で死ぬつもりか?」
    「タバコで自殺は、あんまり考えてないですね」
    「因みにセブンアップだと、1500万本だからな」
    「糖尿もちょっと……」

     
     受け取った封筒を、胸に当てる。今、ここで開ける勇気は無かった。
     どんな言葉を吐くか……どんな顔をするか、自信が持てなかった。
     ただ、確信する。あの日、医務室で、本人に向けて言ったこと。

     星一誠は、ギャンブラーではなかった。

     真経津さんや獅子神さん、村雨さん、叶さん、天堂さん……彼らギャンブラーたちと、自身の『違い』をはっきり認識した今だからこそ分かる。
    「………あ」
     声は、まともに言葉にならなかった。
     代わりに、共に過ごした日々を数える。
     13日。
     廊下で拾った彼を運び込んでから……最後に顔を合わせた日まで、13日。
     人間を知るにも、関係を築くにも、短すぎる時間。
     けれど。『すれ違っただけ』と表するには、あまりに、長過ぎた時間。
     今まで生きてきた8836日、その中のほんの679分の一。丸一日一緒に過ごした日など全然無いから、顔を合わせていたのはもっと短い。
     人生に比べたら、瞬きの間と言っても差し支えない、そんな時間。
     それでも……
     思考は、勝手に加速する。思い出を漁り、次々と記憶を鮮明に叩きつける。
     最後に交わした会話は?
     そうだ、最後に同じ家に居た日は……家を出てくる時、一誠はまだ寝ていて。
     当然、起こしたり、寝顔を見るような仲じゃないから何もしなくて。
     だから……だから。さいごの会話、は。


    「目玉焼きって、何かけます?」
    「塩」
    「……塩」
    「アンタは?」
    「ボクは、マスタードですね」 


     いやそれは無いだろ、とは言わなかったけど、表情には出ていたと思う。
     朝、起きたら一誠は起きていなかったけれど、朝ごはんは準備されていて。
     半熟の目玉焼きはまだ温かくて。
     その、すぐそばにマスタードが置いてあって。
     でも、塩も置いてあって。
     だから……いつも通り、塩をかけて目玉焼きを食べたんだ。
     
    「……雪村さん」
    「ん?」
    「届けてくれて……ありがとうございます」
     頭を下げれば、「いや」とだけ答え。去っていく背を、見送った。
     胸に押し当てた封筒は……なぜだろう。ひどく、熱かった。


     ***


    「真経津さん」
    「あ、御手洗くん。いらっしゃい」
    「お邪魔します」
     ドアを開けて迎えに出た家の主に、丁寧に頭を下げて御手洗は室内に入った。
     相変わらず乱雑な、広いリビングのソファに腰を下ろす。
    「今日は、次のゲームの説明に来ました」
    「やった。待ってたよ、最近退屈でさ」
    「ですよね」
     目を合わせて、笑う。心の底から楽しむこの人を見るのは、本当に楽しい。
     一通り、説明を終えて(真経津自身からの余計な横槍は何度かあったが)、御手洗は息を吐いた。
     そして、提げてきた手提げの中から、缶を取り出す。
    「真経津さん」
    「ん? なに、御手洗くん」
    「お土産です」
     そう言って、缶をテーブルに積み上げる。
     21本。
     7のロゴが入った、緑のアルミ缶。
    「なに? これ。ジュース?」
    「セブンアップ……炭酸飲料ですね。お酒では無いので、まぁ、ジュースです」
    「へぇ……たくさんあるね」
    「ちょっと……忘れ物、で」
     言葉を濁せば、不思議そうな目がこちらを見る。
    「いいの? 飲んじゃって」
    「はい」
     頷いて、缶から目を逸らす。仕事用の鞄に、視線を移す。
    「……もう、取りに来ることはない相手なので」
    「……そっか」
     何かを悟ったのか読み取ったのか。それ以上の追求は何も無かった。
    「今度、村雨さんや叶さんにもあげよう……美味しいんでしょ?」
    「いや……飲んだこと無いんです、僕」
    「そうなの」
     驚く声を聴きながら、仕事用鞄を手に取り、奥へと手を突っ込む。つるりとしたビニールに包まれた箱が、指先に触れる。
     最後に顔を合わせてから数週間後。久しぶりに帰った自宅に、彼の姿は無かった。
     テーブルの上には、メモと、合鍵と、ラッキー・ストライクが一箱。
     メモには、丁寧な筆記体で、こう書かれていた。
     
      Your dreams come true.
     
     それが『星に願いを』の一節だと気が付いたのは、本当に最近になってからだ。
     何度も、カバンの奥の煙草のパッケージに指先で触れる。
     本当は。
     吸おうと、思ったのだ。
     メモと共に残されていた、ラッキー・ストライク。
     あの男が、死んだと聞かされた日に。弔いとでも思って。美味くなんかないとわかっているし、無様に咽せるしか無いと容易く想像できたけれど。それでも。
     でも、どうしても、封を開けることができなかった。その瞬間……開けたら最後、匂いが記憶を揺さぶるような気がして。
     或いは。この箱から匂いが消えてしまえば……それが、永久に失われる気がして。
     だから、まだ、その一箱は鞄の奥にずっとあって。
    「御手洗君」
    「あ……はい」
     呼びかけられ、姿勢を正す。ぱちり、と目を瞬いて焦点を合わせる。
     その、目の前に。緑の缶が突きつけられた。
    「え?」
    「これ美味しいよ。御手洗君も飲みなよ」
     同じ缶に口付けながら、真経津が笑う。
     ゆっくりと、手を持ち上げて。ひんやりとした、缶の表面に触れる。
     ニコニコと見守るギャンブラーに微笑み返しながら、缶を開ける。
     口付けて、一口。
    「……」
    「ね、美味しいでしょ」
    「……レモンライム、ですね」
    「そうだねー」
     無邪気に笑う声を聴きながら。もう一口。酸っぱくて、口の中でシュワシュワ弾ける炭酸を、喉の奥へと流し込んだ。

    ----


    拝啓 御手洗 暉様

    この手紙をキミが読んでいるということは、ボクは死んだということですね。
    ……こんなベタなこと、ボクが書くとは思っていなかったんですけど。
    死ぬ時に何かを言い残したい相手なんて、今まで居たことが無かったので。

    あ。暉って漢字、合ってます?いつも頭の中で「アキラくん」って呼んでいたので、自信が無かったんですよね。

    さて。
    こうやって筆……じゃないですね。ペンを持ってみたものの、あまり伝えたいことも浮かばなくて。

    とりあえず、私は、この度ワンヘッドに上がったらしいです。文字通り、一人だけが帰れる戦い……正直、ここまで上がる気は、あんまり無かったんですけどね。

    アキラくんは、たぶん、察していたかもしれませんが……ボクは、元々、あのVIPの側でした。子どもの頃から、周りに何でもある生活……そう表現すれば、聞こえはいいですが。ボクのものなんて、何一つ無かった。
    ボクは、最初から何も持っていなかった。
    奪われることが当然で、手にできないことが当たり前で、何も無いことが自然だった。

    だからギャンブルに負けることも、負けて全て失うことも、怖くなかったんです。それは、ボクにとっては当たり前のことだったから。

    ただ……今は、もしかしたら初めて、帰ってきたいと思ってるかもしれません。
    キミは、ボクのことをもう覚えていないかもしれないけれど。
    ただ、もう一度、キミに会いたいなと、思っています。

    最後に、アキラくん。
    貴方にとって、私は何人も担当させられたギャンブラーの一人に過ぎず、とても、あなたの記憶に留まるような、素晴らしいゲームができた訳でもないことは、百も承知です。

    けれど、これだけは言わせてください。
    私は、貴方と過ごした日々は、とても楽しかったです。

         星 一誠

    ----



    「さて、と……」
     4本目のセブンアップを飲み干した星一誠は、ソファから立ち上がった。
     アルコールの缶を握りしめたまま寝落ちした御手洗を見下ろし、苦笑する。
     仕方ないですね……と、呟き。手から缶を取り上げる。
     寝室まで運ぼうか、と一瞬思い。まぁいいか、と考え直す。
     とりあえず、周りに散らばる空き缶を回収した。アルコールの缶は8本。よく飲んだものだと、感心する。
     それほど……アルコールに逃げたい何か、があったのか。
     ギャンブラーの一人に過ぎない一誠には、銀行の内情は分からない。ただ、今日の酔った御手洗の言葉から……彼が、今、望まぬ場所に在ることは検討がついた。
    「……」
     思い出すのは、10日前。ここに厄介になった、最初の日。
     本当は、世話になるつもりなどカケラも無かったのだ。少なくとも、あの日、ホテルの廊下で、こちらを覗き込んだ瞳と、目が合うまでは。
     その、瞳があまりに真っ直ぐで。真っ直ぐ過ぎて……アツいくらいで。同時に『ギャンブラー』に一定の敬意を持っていることが、伝わって。
     そして。今ここにない何かを思い出して、渇く程に望んでいるものがあることが分かってしまって。
     そんな、アツい目が……複雑に想いの絡んだ、けれど真っ直ぐな目が、気になった。
    「……別人、でしたからね」
     囁きを落とす。
     缶を洗い、潰して袋の中に放り込みながら、記憶を辿る。
     試合の前と、試合中。先輩や上司らしき人たちに指示を出される御手洗暉は、死んだ目をしていて。ただ「はい」と繰り返すだけの人形に見えた。
     だから、あまり興味は持たなくて。
     けれど……それなのに。あんな目を向けられたものだから。
     心配に、なったのだ。この光が、あの死んだ目に塗り潰されて、失われるのではないかと。
     それが、何より耐え難いことだと感じてしまった。
     だから、近付いた。できる範囲で図々しく振る舞い、御手洗暉の生活に入りこんだ。
     仕事が忙しいなら、仕事以外の日常を助ける。部屋を清潔にし、ご飯を作る。帰りを待つ存在になる。
     そうやって……少しでも、消えないように。負けないように。失わないように。
     ……いや。それすらも、口実だったのかもしれない。
     ただ、惹かれたのだ。
     あの目に。
     情熱に。
     それは今日の彼で、確信に変わった。
     御手洗暉は、星だ。一等輝く、スタープレイヤー。嘗て、あちら側に座っていた自分だからこそ、刻み込まれるようによく分かる。
     あの、仮面で素顔を隠した連中は……御手洗を、推すだろう。まだ何者でもない……けれど何者にでもなれる彼の足掻きを、様々な感情を持って見守るだろう。金で買い戻せない、無軌道な情熱に、酔いしれるだろう。
     或いは、それに翻弄され、閉ざされる未来もあるかもしれない。
     片付けを終え、歩み寄る。眠り続ける御手洗の寝るソファの、正面に座る。
    「……ボクが」
     ほとり、と。言葉は溢れて落ちた。
    「……私が、あなたの『星』になれたら、よかったんですけどね」
     そうして、ずっと傍で、或いは盾になれたらよかったのに。
     それが不可能なことは、自分が一番わかっている。
     陳腐な恋愛物語にあるような、『出会う順番』という話ではない。どこからやり直したとしても、変えられる話でもない。自分が『星一誠』として生を受けた瞬間から、それは間違いなく不可能だった。
     
     真経津 晨
     
     それが、御手洗暉の唯一。
     誰にも代われない、最高の一等星。
    「……やれやれ」
     まさか、25歳になって……初めて、ほんの少しでも人に羨望めいた感情を抱くとは、思ってもいなかった。
    「………」
     覚えていることがある。
     ピアノを習い始めたばかりの頃、コンクールに出場した。初めて鍵盤を触ってから二週間だった。結果は2位。その日から3日間、食事は与えられなかった。「星の名を背負う以上、失敗は許されない」と言い聞かされた。
     いつのまにか、できることしかやらなくなった。
     もう一つ、覚えていることがある。誕生日にクマのぬいぐるみを買ってもらった。大切で大好きで、一番の友達になった。毎夜、色々なことを語って聞かせて眠りについた。ある日、帰宅すればクマは居なかった。「執着することは弱さ」だと教え込まれた。
     いつの間にか、何かを求めることも、何かを愛することも忘れていた。
     それが、星一誠の『当たり前』だったのに。
     何も持たない自分は、何を失うことも恐れることは無かったし……何も、執着することがなかったはずなのに。
    「あなたのせいですよ……アキラくん」
     起きていたら「何言ってんだ」と反論されたかもしれない。
     それはそれで聴いてみたいと思う。が、こんなに長々と身の上を語る柄では無いので、恐らく実現する日は来ないだろう。
     ああ、でも。いつか……本当に、いつか。この人生がまだ続くなら、話してみてもいいかもしれない。
     また、お酒でも飲みながら。下戸の自分だけれど、一本くらいなら付き合っても構わない。
     だから……
    「ええ。そうですね……まずは……」
     生きてみようかと、思った。
     それは星一誠にとって、初めての欲求だった。
     生きて、見届ける。
     彼が夢を叶えた時、その目にはきっと彼の一等星だけが映るだろう。ほんの数日共に過ごした、星にさえなれない存在のことなど、覚えていない可能性も高い。
     今のこの時間は、彼にとっては望む場所に在る時間では無いのだから、尚更だ。
     けれど、それで構わない。
     自分くらい、彼が成し遂げたことを理解して……「よかったですね」と、祝ってあげてもいいではないか。
     たとえそれが、届かないとしても。誰にも聴こえない、祝福だとしても。
    「……しかし。と、なると、生きる為に勝たないといけませんね」
     はて。
     それは、どうすればいいのだろう。
     生きるための戦いなど、生まれてからこれまで、一度も意識したことなど無かった。
     
     そんなことを、考えながら。
     星一誠は、クローゼットからネクタイを出して、締めて。
     ジャケットを羽織り、まずは今日の勝負から……と意識を切り替えた。
     
     朝が、すぐ近くまで迫っていた。





    ホシ イッセイ
    星 一誠

    7月25日生まれ 
    25歳

    174cm 57kg

    獅子座 A型

    趣味 なし
    好物 セブンアップ

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     このギャンブラーとの関係を、何と呼べばいいのか。未だ、それだけが、わからない。
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