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    雨音🌟

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    2023.6.18。御手洗暉ハピパ!小説。御手洗→真経津のクソデカ感情は標準装備ですが無CP。

    そして一番星を追う 六月一八日。
     今日は、御手洗暉の誕生日だった。
     さらに今年は日曜日。
     昼までのんびり寝て怠惰を謳歌するのも、朝から出掛けて自由を満喫するのも……全ては自由、の筈だった。
     そう。
     今の自分の所属が特四……その中でも、『伊藤班』でなければ。だが。
    「御手洗」
    「……はい」
     呼びかけられ、顔を上げる。
     今日は日曜日。休日だ。なのに何故、当たり前のように自分を含め、班員は銀行に揃ってるんだ。
     いや、わかっている。土日しか試合を組めないだとか連絡がつきにくいギャンブラーも居るからだ。それに答え、場合によっては試合を組むためだ。
     わかっている。
     こんな、労働基準法違反が服を着て歩いているような職場では、日曜日だとか……誕生日だとか、関係ある筈がない。
     わかっている。
     わかっていた。
    「飲み物、買ってこいよ」
     ピン、と。跳ねるように昼間唯から渡された硬貨を、危なかっしく受け止める。
     外歩きたいだろ? と。続けられた言葉には感謝をするべきなのかどうか。
     はい、とだけ答え、席を立つ。
     自販機に向けて歩きながら……ここに来てから何度めかわからない『何故』を繰り返す。
     何故。
     僕は。
     今、ここに?
    「あれ?」
    「え?」
     不意に聴こえた、聴こえる筈のない声を、幻聴だと思った。
     顔を上げる。自販機のある、休憩スペース。そこに立つ人を、目を見開いて見詰める。
    「……真経津、さん……?」
    「御手洗君。なんか久しぶりー」
     ひらひらと、手が振られるのに無意識に振り返す。
     あれ? 今、ここは……何処だったっけ?
     それとも、夢でも見ているのか?
     あまりに。ずっと……この人のことばかり考えていたから。
     傍に立ちたい、と。そればかり考えていたから。
    「真経津、さん……?」
    「そうだよ。どうしたの? 御手洗くん」
     変なのー、と。笑われるのに、何と返していいのか分からず一緒に笑う。
     ああ。
     幻、ではない。真経津さんだ。
     真経津さんが、いる。
    「僕、もうすぐ試合なんだ」
    「え? あ……そうなんです、か?」
     思わぬ言葉に、声がひっくり返る。
    「うん。相手の人が、土曜と日曜しか試合が組めないんだって」
    「へ、へぇ……」
     確かに、そういう人間も、稀に居る。だからこそ、自分も今日はこうして仕事に明け暮れているわけで。
    「でも、なんか遅刻しているみたいで。待ってて、て言われても退屈だから抜けて来ちゃった」
    「え」
     そんな、迷子になる子供みたいな理由で。
    「戻りましょう、真経津さん」
    「えー」
    「えー、じゃないですよ」
     遅れている対戦相手が一番問題だが、もしソイツが来た後も、真経津さんが戻らなかったら?
     試合をイタズラに遅らせた、と、“あの連中”の機嫌を損ねることになるではないか。
     人の生命も簡単に賭けてオモチャにできる、あの連中に。
    「ほら、真経津さん……!」
    「えー……もう。御手洗くん」
    「? あ、はい」
     呼ばれ。反射のように、動きを止める。そうすれば、じっと、目を覗き込まれた。
     明るい色の瞳が、すぐ目の前にある。長いまつ毛に縁取られた瞼が、至近距離で、瞬く。
    「落ち着いて?」
     この人の言葉は。まるで、魔法のようだ。と、思った。
     ただの『言葉』なのに。何処までも真っ直ぐ、魂の隅々まで届く。
    「ね? 御手洗君」
    「……は、い」
    「僕の知ってる御手洗君は……もう少し」
    「え?」
    「おい」
     何やら言いかけた真経津の言葉と。それに疑問を発した自分の声と。
     それと、もう一人。不機嫌そうな男の声が、重なった。
    「なんで、こんな所ほっつき歩いてるんだ」
     低い声で唸りながら、大股で近づいて来た男を見る。
     長い黒髪が、まるで不機嫌そうにうねっているように見える。
    「……榊さん?」
    「あ、榊」
    「だからなんで俺は呼び捨てなんだ……ほら。始まるから、行くぞ」
    「はーい」
     素直に頷く真経津を眺める。何処にでもいる、ギャンブラーと担当行員の会話。
     それが……何故か。どこか……
    「じゃーね、御手洗君」
    「あ、はい」
     ヒラヒラと手を振って、去って行くのを見送って。
     その真経津と歩み去る直前……まるで、こちらなど居ないように振る舞っていた榊の目が、一瞬だけ、確かにこちらを捉えていた。
     複雑そうな……哀れみや、或いは、痛みにも似た感情の、目だと思った。
     
     ***
     
     夜。
     帰宅した御手洗は、自宅のベランダに居た。
     思い出すのは、昼間のこと。
     何も変わらずに接してきた真経津さん。それと、こちらを見ていた、榊の目。
     あの後結局、何も買わずに席に戻ってしまって。昼間には何か言われた気もするが、何も覚えていなかった。
     ポケットからスマホを取り出す。
     担当しているギャンブラーの名前がずらっと並んだメッセージアプリ。
     その、ずっとずっと下の方。もう何日もやり取りしていない、彼の名前。
     タップしようとした指が、途中で止まる。
    「………」
     僕は。
     今、なんで、ここに……
     ふと。
     何回めになるか分からない思考ループに陥りそうになったタイミングで、スマホが鳴った。
     メッセージではない。通話の、音。
     発信者は……
    「はい!」
     名前を認識した瞬間。何も考えず、指は通話ボタンをタップしていた。
    「やっほー御手洗君。お昼ぶり」
    「あ、はい。お昼ぶり、です」
     カクカクと頷く。
     電波の向こうから聴こえる真経津の声は、昼間と何も変わらない調子に聴こえた。
    「お昼、榊のせいであんまり話せなかったからさ。かけてみた。今大丈夫ー?」
    「あ、はい。もちろんです。ありがとうございます」
     思わず姿勢を正して答えれば「変なのー」と、笑う声が響く。
    「真経津さん、今日のゲームは……?」
    「勝ったよ。楽しかった」
    「そう、ですか。よかった……」
     心から楽しそうな声に、安心する。
     他班の人間だろうと、真経津さんが楽しんでいるなら、それが全てだ。
    「でも、榊は、僕と全然遊んでくれないんだよね」
    「え? あ……そうなんです、か?」
    「そうそう。御手洗くんは、一緒に遊んでくれたのにね」
     トルコアイス。DJゴッコ。陶芸。
     あのタワーマンションの34階を訪れる度、真経津に誘われるまま、色々とこなしていたことを思い出す。
    「獅子神さんや村雨さんや叶さんとも遊ぶけど。やっぱり、御手洗くんともまた遊びたいな」
    「え?」
    「ね……? 御手洗くん」
     すぐ、目の前に。
     こちらの顔を覗き込む、明るい色の瞳がある気がした。
     あの、まるで鏡の前に立たされたような……全てを見透かされたような気になる、あの表情が。
    「僕は……今、班が、違いまして……」
    「知ってるー」
     ケラケラと、笑う軽い声。
    「でも……君なら。ね?」
     君なら。
     ……僕、なら。
     それは、どういう意味なのか。
    「………真経津、さん」
    「なにー?」
     ふと。
     言ってみようかと、思った。
     僕、今日が誕生日なんですよ、て。
     そうすれば、もしかしたら……「おめでとう」くらいは、言ってもらえるかもしれない。
     それは……どれほど、嬉しいだろうか。
    「……いえ」
     けれど、それを言葉にするのは辞めておいた。
     今じゃない。
     少なくとも、祝ってもらうべきは、今ではない。
     僕が……また。せめてこの人の担当行員として、胸を張って立てる、その日までは……
    「御手洗君、変なのー」
    「え? そうです……か?」
    「うん。でも……」
     声が、そこで途切れる。
    「……真経津さん」
    「ん、なに?」
    「今度、遊びに行った時は……また、トルコアイス、食べさせてください」
    「トルコアイス? あれ、機械どこに行ったかなー?」
     考え込む声に、くすくすと笑う。
     獅子神さんに探して貰おうーと続くのには……件のギャンブラーに対し、少し、罪悪感も湧いたけれど。
     今は、自分が立てる場所はここで。日々の仕事に……少しずつ、心を殺されるような、そんな感覚が、あるけれど。
     それでも。いつか。
     また自分は、きっと、この人の隣に戻る。すぐ近くに、立つ日が来る筈だ。
    「真経津さん。あんまり夜更かしは、良くないですよ」
    「それは御手洗くんもでしょー」
     不満そうな声に、それもそうですね、と頷いて。
     じやぁお互い寝ようか、と。通話を切るその直前。
    「またね、御手洗くん」
    「あ、はい。また」
    「あと、オメデト」
    「!?」
     通話の切れた、静かになった端末を凝視する。少し熱を持ったそれを、握り締める。
     ああ。
     いつか。いつか……きっと。僕は、あの場所に還る。
     そして。さっきの真経津さんの……「君なら」の、続きを教えてもらおう。
     そう思い見上げた空の上。名前も知らない、明るい星が一つ、瞬いていた。

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