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    あおと

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    あおと

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    プロヒかっちゃんと大学生デクくん
    飲み会で酔っぱらったデクくんを迎えに行って、ポロりと零された本音の一端を知るかっちゃん
    (出したいなぁ、と書いている原稿の一部より)

    #勝デク
    katsudeku

     書き終えた報告書を送信し、ノートパソコンを閉じる。少しばかり凝った首を解しながら、どれだけ却下しようともこれは絶対に掛けたいんだと出久が断固として譲らず結局俺が折れたオールマイトモデルの掛け時計へと視線を向ければ、針が間もなく二十二時を示そうとしているのを認めて、眉間に皺を寄せた。

     遅せぇ。

     学部の飲み会だとは聞いている。だが今朝出ていく際、「始まる時間は早いから、二十一時までには帰ってくるよ」と宣言していったはずだ。
     一時間オーバーしてんぞ、おい。
     机の脇に放置していたスマホにも連絡は来ていない。別に自分だって、仕事が長引いて帰りが遅くなることはままある。野郎の帰りが遅いくらい、いちいち気にする必要なんざ本当なら全くないが、ひとりにするとふらりといなくなる前科があるだけに、こと出久に関しては放置し難い。かといってGPSまでは流石にやり過ぎだろうと思い、代わりにお互い仕事であれバイトであれ、予定よりも帰宅が遅れる場合は必ず連絡を入れるよう、同居時のルールのひとつとして設けたのだ。誰の為に決めたルールなのか知ってか知らずか、かっちゃんって意外とそういうところ厳しいよね、なんて呑気かつ無礼な発言をしながらもあいつだってこれまで律儀に守り通してきた。
     まさか何かあったか。ふと、嫌な予感が過ぎったものの、すぐに頭を横に振って否定する。事件に巻き込まれたのなら、それこそとっくに警察なり病院なりから連絡が来ているはずだ。
     そうこう考えているうちに二十二時を過ぎた。スマホは振動ひとつしない。
     仕方なく、メッセージを入れようとスマホをスワイプしかけたところで、突如ディスプレイが着電画面に切り替わる。表示された着信元が今まさに連絡を取ろうとしていた相手からのもので、知れず安堵の息を吐くと同時に腹の底でふつふつと燻っていた憤りが込み上げ、衝動のままに通話ボタンをタップするなりがなり立てた。
    「出久!てんめェ、いつまで飲んだくれとるんだ!!」
    『――えと、かっちゃん?さん?』
     良くも悪くも耳に馴染み過ぎた声が返ってくると思っていたが、しかし、躊躇いがちに届いてきたのは知らない男のそれで、「……あ"?」思わず地を這うようなドスのきいた声が口を突いて出た。

    ***

    「うぉっ、まじダイナマイト」
    「え、ウソ」
    「本物じゃん!」
     案内された個室の襖を開いた途端、一斉に視線が集まり部屋中がザワつく。大・爆・殺・神を付けろや、と大変不本意ながらにもはや定番となりつつある返し文句が喉奥までせりあがってきたが、今は一応ヒーロー活動中ではないのでグッと飲み込んだ。それよりも、優先することがある。
     ざっと室内を見渡すとすぐに机に突っ伏している緑のモサモサを見つけて、顔を顰める。こちらの視線の先に気がついたようで、すぐ傍にいた男が両手を合わせて自身の顔の前に立てた。
    「いや、緑谷、最初はソフトドリンクしか飲んでなかったんすよ。でもこないだ誕生日過ぎたって聞いてたから、だったら飲んだらいいじゃんってススメちまって。それでもほとんど飲んだことないからって言ってたんすけど、カクテルくらいなら大丈夫だろって俺らが勝手に注文して渡しちゃったもんだから緑谷も断れなくて……でも、このくらいならいけそうって美味そうに飲んでるから放ってたら、結構飲んでたみたいで」
     ずっと平気そうな顔してたんだけど突然寝落ちちゃって、と言葉が続く。で、いつまで経っても起きず、さっき一度だけ目を覚ましたものだから帰れるか訊ねたら、かっちゃんを呼ぶ、とスマホを取り出したらしい。だが掛けたまではいいが呼び出している途中で再び寝始めたものだから、代わりにこの男が電話を取り継いだ、というわけらしい。
     本当にすんません、と平に謝り倒してくる男を睥睨し、ややあって嘆息を零す。
    「自分の許容量見誤ったあいつの責任でもあんだろ」
     断る奴に酒をススメんのは馬鹿だとは思うが、一応出久が二十歳の誕生日を迎えてすぐ、飲みの席で失態を犯さない為にも自分の限界はしっかり覚えとけと大量に酒を買って宅飲みを行い、把握はさせている。
     そうしたら、酒が全く飲めないわけではないが強いわけでもない。飲める量こそ少ないものの、顔に一切出ないせいで傍から見ている限りではわからないうえ、限界を迎えると唐突に落ちる。おまけに記憶も飛ぶクソ面倒くさい結果が出たものだから、飲み会に行くなとは言わないが、俺がいないところで、もしくは百歩譲って轟と飯田以外とは飲むな、と口酸っぱく言い聞かせていた。
     しかし、どんなに言い含めていたところで、出久の性格上、厚意はどう抗ったって断りきれない。こうなる日は遅からずやってくるのはわかっていて、だからせめて飲みすぎないよう許容量を把握させたというのに。大方、薄められたアルコールで限界値を勘違いしたのだろう。
     せめて一回くらい居酒屋に連れてくるべきだった。時間がなかなか合わなくてこれまで行く機会がなく、たまに飲んでも家で缶チューハイを一缶、しかも数口飲んだら満足して残りを寄越してきやがるものだからそうそう酔うこともない。轟たちにしても轟はまだ飲めないうえに飯田は先日誕生日を迎えたが飲めない体質だそうで、あいつらで集まっても結局ジュースで盛り上がるだけだと言っていたから、すっかり失念していた。
    出久にもこいつらにも言いたいことは山ほどあるが、それはひとまず後回しだ。
    「おい」
     靴を脱いで座敷にあがり、ずかずかと大股で目的の席まで辿り着くと、丸まった背中を思い切り膝でドつく。衝撃で突っ伏していた身体が揺れて、「……ン、んぁ?」モサモサ頭がゆっくりと起き上がるのにあわせて背後にしゃがみ込んだ。
    とろりと眠たげな緑の双眸が、しぱしぱと瞬く。ややあってこちらを顧みると、こてりと首を傾げた。
    「……あれ?なんでかっちゃんいるの?」
    「おめーが呼んだんだろが」
     片手で両頬を掴んで潰せば、押されて突き出た唇から、ぶふっ、と間抜けな音が漏れた。
    「プロヒーローをタクシー代わりに顎で使うたぁ、随分いいご身分になったもんだなぁ、えっ?」
     問いかけながらぐにぐにと頬を押したり戻したりを繰り返すと、「いひゃいよ、かっひゃん」と訴えながらもへらへらと笑っている。この酔っ払いが。
    暫くして頬から手を離すと、そのまま額を軽く弾いた。あだっ、と小さく悲鳴があがる。
    「も~、だから痛いってば」
    「手加減してやったろうが」
     腰を浮かしつつ、親指で襖のほうを指す。いつまでも長居する気はない。
    「おら、とっとと靴履いてこい」
    「はぁい」
     額を擦っていた出久がブー垂れた顔をして立ち上がるのを助ければ、ありがとうと礼を言い、覚束無い足取りでよたよたと歩いていく。その間に、部屋の端に置いてあったリュックを引っ掴む。中を漁って財布を取り出すと、千円札を数枚引き抜いて襖の前に突っ立ったまま唖然とした顔でこちらを見ていた男に差し出した。
    「これで足りっか」
    「へ?あ、あぁ、はい、大丈夫っす」
    「ンだよ。まだなんかあるんか」
     大丈夫と言いながらも、何か言いたげな様子を訝り訊ねれば、一瞬言い淀んだが結局言葉を紡ぐ。
    「いやぁ、特にあるわけじゃなくて。ただ、緑谷って本当にデクだったんだなぁって」
    感嘆にも近い返答に、眉が小さく跳ねた。
    「あ?どういう意味だ?」
    「あ、いや、勿論顔は知ってたから緑谷があの“デク”だってのは頭ではわかってたんすけど、"個性"ねぇって言うし。それにあん時の、戦ってた姿の印象が強すぎたもんで、普段の緑谷見てるとあんなスゲェ戦いした奴には正直思えなくて。もしかして、実は同姓同名の別人なんじゃってちょっと思う時もあったんすよ。でも、ダイナマイトと顔見知りの奴なんて本物のデク以外いるわけねぇし。だから、緑谷もヒーローだったんだなって――まぁ、驚いたのはそれだけじゃないけど」
    「あ?」
    「や、こっちの話っす」
     小さすぎた呟きは上手く聞き取れなかったが、途端、口を噤み慌てて手を横に振るのでとりあえず追及するのはやめておいた。
     まぁ、言わんとしていることはわからなくもない。出久が元々”無個性”だなんて、世間は知る由もない。おまけに普段はお人好しが服を着て歩いているような奴だ。複数の”個性”を駆使する、狂人的な力でもって巨悪と戦ったヒーローデクとは、その人物像は結び付きにくいかもしれない。
     しかし、だった、か。俺にはヒーローをやってようがやっていまいが、自己犠牲の精神がカンストしている根っからのヒーロー気質の、超鈍感クソナードの幼馴染であるのは変わらないが。確かに傍からすればヒーローデクの活躍はもう過去のものになってしまうのだろう。だが。
    「――だった、じゃねぇ」
    「へ?」
    「あいつは昔も今も、ヒーローなんだよ。そんで、これからも、な。ちけぇうちにデクと酒酌み交わしたことあるぜって自慢できっから今のうちにサインでもなんでも貰っとけや」
     にやりと片側の口端を引き上げ、脱ぎ捨ててあった靴を突っかける。上がり框に座っていた出久が、履けたよぉ、と立ち上がった。が、「っとと、」足が縺れてよろめいたので、咄嗟に腕を掴んで転倒は免れた。
    「おい、気ィつけろ」
    「ご、ごめん」
    「ったく」
     呆れつつ、「おら、」服の裾を握らせる。またこけかけられても困る。
    「支えにはなってやる。けど、てめェで歩けよ」
     酒精で目尻が赤く染まった瞳が、二度、三度と瞬く。ついで、ふにゃり、と出久が相好を崩した。
    「ありがと」
    「いーから。とっとと帰んぞ」
    「うん。あ、みんなおやすみぃ」
     また明日ね、と呆然としている学友たちに出久は機嫌よろしく手を振り、俺は一瞥するだけに留めて個室を後にした。

    ***

     店から駅まではそこまで距離はなかったものの、酔っ払いの歩調に合わせていたせいでなかなか着かなかった。ようやく人が疎らなホームに辿り着き、ベンチに座ってひと息吐いたところで、眉間に皺を寄せる。さっきから隣から注がれる視線がいい加減うざったい。
    「ンだよ、にやにやしやがって」
    「ん~?」
     ゆらゆらと身体を揺らしながら、両方の口端を引き上げてこちらを見つめていた出久が首を傾ぐ。ついで、夜風に当たったお陰か、未だに火照ってはいるものの多少は赤みが薄らいだ顔に浮かべる上機嫌な笑みを深くする。
    「かっちゃんがいるなぁって」
    「はァ?」
     返答が意味不明過ぎて、怪訝のあまり眉間に刻まれていた皺が更に増えた。
    「ほとんど毎日顔見合せとるだろが」
    「そうなんだけど」
     なんて言ったらいいかなぁ、と揺らめく緑が天を仰いで考え込む。ややあって、「あのね」右手の人差し指を左手で握り締めた。
    「僕、今の生活楽しいよ」
     また唐突に話が変わりやがった。酔っ払いの話は脈絡がなくて困ると僅かに苛立ったものの、出久が話しながら指をしきりに弄るのは心の内をどうにか吐露しようとする無意識の合図なのでひとまず話を続けさせた。
    「学校行って講義受けて、バイトして。A組の皆の活躍をニュースで見て、僕も頑張らなくちゃなって励まされて。大変なこともあるけど、毎日充実してるし楽しいんだ。ただ」
     上を向いていた緑が下りて前を向く。
    「小さい時からずっと一緒だったからかな?時々……本当に時々なんだけどさ、ふとした瞬間に君の姿を自然と探しちゃうことがあって」
     いるはずないのにね、と微苦笑を出久が浮かべる
    「で、そうだった、かっちゃんと初めて違う道を進んでるんだったって、そう認識する度にどこかぽっかり胸が空いたみたいな感覚になって……納得して決めた道なのに君に置いてかれた気持ちになってちょっとだけ寂しくなるんだよね。だから、ヒーローこそ一緒にはできないけどさ、こうして呼んだら迎えに来てくれるくらいの距離にかっちゃんが居てくれるのが嬉しいんだ」
     嬉しいと言う癖に、へにゃりと眦が情けなく下げられる。僅かに伏せられ、視線が足元へと落ちた。
    「あの時の選択に後悔はひとつもないし、今選んだ道にも満足してるよ。けど、もし我儘が叶うならもう少しだけかっちゃんと肩を並べていたかった、なぁ……って……」
    「っ、おいっ!」
     唐突にぐらりと身体が傾いたが、咄嗟に伸ばした腕が間に合い、床に倒れ落ちるのは防げた。俯かれた顔を覗き込めば、瞼は完全に落とされていて、少しだけ空いた口元からは微かに寝息が立っている。
     寝とる。
     酔っ払いの自由さに途端、脱力しかけたもののどうにか堪えて、ゆっくりとこちらへと凭れさせてやる。ついで、今度こそ腹から大仰な溜息を吐き出した。

     ンっとに、こいつは。
     そういうことは溜めに溜めて酔ってようやく出す前に吐き出せってんだ。

     大体、おまえを置いてくなんて、ンなことできるかよ。
     それどころか、なんなら敵まで救おうとして、がむしゃらにひた走ってようやく掴みかけていた夢を手放してまで。文字通り自分を犠牲にして皆が笑える未来を取り戻したおまえが、一度は諦めた夢を今度こそ叶えられるよう、その先にある、俺と、いや、俺たちとまた肩を並べて前を進んでゆく、我儘どころか囁か過ぎる未来を一日でも早く現実にしてみせる為にどんだけ必死こいとると思っとるんだ。
     今はぜってぇ、言ってやらねぇけど。そん時が来たら、その無駄にでけぇ目ん玉をひんむきやがれ。
    「つーか、俺の隣はどこぞのクソナード専用ってもうずっと前から決めてんだよ。わざわざ空けてやってんってのに、自分ひとり勝手に終わった気になってんじゃねぇぞ」
     諦めが悪ぃのがてめェだろうが、と呑気に寝こけている鼻を軽くつまんでやったら、ふがッ、と身体が一瞬跳ねる。ついで、息苦しさでか、眉間に皺が寄るのに思わず、ブッサイク、と独りごち、クツクツと肩を揺らしたのだった。

     翌朝。
     こうなるだろうとはわかっちゃいたが、やっぱりムカつくものはムカつくもので。

    「え、僕いつ帰ってきたの?」

     かっちゃん知ってる?
     なんて、起きてくるなり至極不思議そうにしきりに首を捻るものだから、鬱憤晴らしに無言で寝癖だらけのボサボサ頭に拳骨を思いっきり叩き落としたら、「イッタァッ!?」と悲鳴が部屋中に轟いた。


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    あおと

    DOODLEプロヒかっちゃんと大学生デクくん
    飲み会で酔っぱらったデクくんを迎えに行って、ポロりと零された本音の一端を知るかっちゃん
    (出したいなぁ、と書いている原稿の一部より)
     書き終えた報告書を送信し、ノートパソコンを閉じる。少しばかり凝った首を解しながら、どれだけ却下しようともこれは絶対に掛けたいんだと出久が断固として譲らず結局俺が折れたオールマイトモデルの掛け時計へと視線を向ければ、針が間もなく二十二時を示そうとしているのを認めて、眉間に皺を寄せた。

     遅せぇ。

     学部の飲み会だとは聞いている。だが今朝出ていく際、「始まる時間は早いから、二十一時までには帰ってくるよ」と宣言していったはずだ。
     一時間オーバーしてんぞ、おい。
     机の脇に放置していたスマホにも連絡は来ていない。別に自分だって、仕事が長引いて帰りが遅くなることはままある。野郎の帰りが遅いくらい、いちいち気にする必要なんざ本当なら全くないが、ひとりにするとふらりといなくなる前科があるだけに、こと出久に関しては放置し難い。かといってGPSまでは流石にやり過ぎだろうと思い、代わりにお互い仕事であれバイトであれ、予定よりも帰宅が遅れる場合は必ず連絡を入れるよう、同居時のルールのひとつとして設けたのだ。誰の為に決めたルールなのか知ってか知らずか、かっちゃんって意外とそういうところ厳しいよね、なんて呑気かつ無礼な発言をしながらもあいつだってこれまで律儀に守り通してきた。
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