霰降る煙の塔で(冒頭)人々は天に届く塔を作ろうとしました。
それに怒った神様は人々が使う言葉をバラバラにしました。
互いに言葉が通じなくなった人々は塔を作るのを諦めました。
しがみついて目を閉じていた出久は顔を上げた。屋根から響いていた打ち付けるような音が聞こえない。
手を放しつつ出久は戸の無い出入口に駆け寄った。視界に広がるのは砂色の濃霧と廃屋のわずかな影。そして一面に転がるお目当て。
「かっちゃん、霰が止んだよ」
「ンなこと言われんでも分かる」
幼馴染の不機嫌そうな声に出久は思わず苦笑する。彼はこの霧の中では普段よりも五感が鋭さを増す。だからこそ、その負担をも軽減する為に自分がいる。降り止むまでしがみついていたのはそれ故だ。期待に応えられている。その喜びが心地良い。
「とっとと行くぞデク」
出久が気持ちに浸っている間に幼馴染はバイクを覆う霰避けを取っ払い、傍に転がる霰を蒸気原動機に入れる。排気口から砂色の煙が吐き出された。
出久は慌てて屋内に置いていたリュック型の回収装置を背負い、飛び出した。
「待ってよ、かっちゃん!」
その昔。
人は天からの恵みにより産業革命を人類進歩の決定打とした。
もたらされたのは技術だけでは無い。副産物によって超人的な力を人間は得るに至った。それはかつて一握りの者にしか持たなかった五感の超発達に並ぶとされる。
だが人々は満足しなかった。