運命の出会いはあっけなく 真っ白な世界に立っていた。足跡一つない雪原は果てが見えず、空は厚い雲に覆われ未だ雪を降らせ続けている。轟轟と風が唸り、体温が奪われていく。一歩足を踏み出せば、きゅうと独特の感触と共に足が雪に沈み込む。二歩、三歩と逸るように足を進め、気が付けば走り出していた。自分が何を目指して進んでいるのか分からない、けれど見つけなければいけないモノがあることだけは知っていた。柔らかい雪の上は走りにくいはずなのに息が上がることはない。
「こ……としょ……の!」
微かに自分以外の誰かの声がした。吹き荒ぶ風に流されてはっきりと聞こえない。男なのか女なのか、若いのか年老いているのか、それすら分からないというのに、声の主は自分の探し求めていたモノだと確信した。
「ツキシマ!」
考えるより先に口に出た名前、その名前を呼びながら振り返り、姿を視界に収める寸前。
『次は〇〇駅、〇〇駅、お出口は左側です。××線、△△線はお乗り換えです』
電車のアナウンスで現実に戻された。自宅へ向かう人たちでごった返す車内、窓の外は赤から青に変わり始め、膝に乗せていたリュックはその上に頭を預けていたせいで潰れている。
またいつもの夢を見た。物心ついたときから何度も繰り返し見た、雪の中を走り誰かを探す夢。その誰かに声をかけられ振り返るが、顔を見る前に目を覚ましてしまう。夢の中の自分は愛しい気持ちを込めて『ツキシマ』と呼ぼうとするが、私にはツキシマという名前の知り合いはいない。知るはずのない人間にどうしてこんなに気持ちがかき乱されてしまうのだろうか。いつか出会える運命の相手、だったりするのだろうか。
なんて、自分らしくもないロマンチックな空想をしながら乗り換えのために電車を降りる。大学から自宅までへの帰り道。いつもとなんら変わらないはずの日常だと、この瞬間までは信じていた。
「鯉登少尉殿!」
唐突に後ろから腕を引かれてつんのめる。驚いて振り返ると、全く見覚えのない男が立っていた。私よりも頭半分ほど低い身長で、年齢は一回りくらい上だろうか。帰宅ラッシュの時間帯にスーツを着ているからサラリーマンなのだと思う。がっちりした体型であること以外はこれといった特徴がなく、その辺にいくらでもいそうな男だ。男は私と目が合うと微かに涙を浮かべ、探し求めていたモノをようやく見つけたとでも言いたげに嬉しそうに笑った。
「コイトショウイ? 人違いじゃないか」
「人違い? 何をとぼけて……もしかして前世をおぼえていらっしゃらないのですか?」
ヤバい。これは絶対にヤバいヤツだ。何の変哲もないサラリーマンに見えたが、私の腕を掴んだまま言った言葉は完全にキマっている。人は見かけによらないものらしい。
「何やら勘違いしているらしい。私は無関係だろう、失礼する」
「ま、待ってください。説明を! 私に説明をさせてください!」
「いっ、たい、痛い痛い、人の腕をそんな力いっぱい握るな!」
ぶんぶんと掴まれた腕を振って抵抗すれば、はっとしたような顔で力を緩めるがその手を離すことはない。私も男も大きな声を出したせいで周りの人が心配そうに様子を窺っている。私も人より体格が良い方なので、そんな男二人が揉めているとなれば不安にもなるだろう。
「ずっと貴方が忘れられなくて、会いたかっただけで怪しい者ではないんです!」
「おい、落ち着け」
「お願いします! 話をするだけで良いので!」
「分かった、分かったから、手を」
「貴方に追いつきたかった。追いついて、その瞳に映してほしかった」
手を離せ、そう言おうとした私の言葉を遮った男の言葉に、いつもの夢が頭をよぎる。夢の中で探していた誰かは確かに私のことを追いかけていた。
「ツキシマ?」
ぽろ、と零れた名前に男は目を見開く。
「思い出されたんですか?」
「いや、いや違う待て。前世なんて知らん。ただ、夢でその名前を呼んでいただけだ」
「覚えていないのに、ちゃんと残っているんですね」
驚愕の表情は次第に先程までの笑みに戻っていった。私がもう逃げようとしていないと分かったのだろう。腕を離すと今度は私に向かって深く腰を折った。
「無礼な真似を働いてしまい申し訳ありません。前世など荒唐無稽な話だと思われるでしょう。信じられなくて当然です。しかし、ほんの少しで構いませんから私の話を聞いてくださらないでしょうか」
「……駅前のカフェでいいか」
「カフェ……話を聞いてくださるんですね」
頭を上げ安心したように微笑む男に、少しだけな、と返す。
別に男の言う『前世』とやらが本当にあるとは思っていない。必死な男に同情したわけでもない。それでも、カフェに行こうと言ったのは、ちょっとだけこの男が何を語るのか気になったのだ。もしも、本当に私の見ている夢と何か繋がっているのなら面白いと思った。好奇心は旺盛な方である。
駅から最寄りのカフェ、そこで私は期間限定のフラペチーノを、男はアイスコーヒーを頼んで席に着く。周りはそこそこに埋まっているが、私たちに注意を払うような客はいなかった。
「私は月島基と申します。前世では鯉登少尉殿の補佐官を務めておりました」
「……私は」
「大丈夫です、鯉登少尉殿のことは存じ上げております」
初対面で私の何を存じ上げているというんだ。だが、暫定不審者に個人情報を与えるのもよくないので、わざわざ自分から明かさなくてもいいだろう。
「それで。私が少尉、ということは、軍か何かに所属していたのか」
「はい、明治時代の陸軍第七師団に所属する軍人でありました」
「明治時代の陸軍。日清戦争だか日露戦争だかに一緒に行きでもしたのか」
「いいえ、私はどちらも経験しましたが、少尉殿が陸軍に入られたのは日露戦争後のことです」
「ん? それなのに私が上官なのか」
「鯉登少尉殿は陸軍士官学校を出ておいででしたので」
思ったよりも設定が練られている。淀みなくすらすらと答えられる回答に信ぴょう性があるように感じられて、いかんいかんと頭を振った。詳細に法螺話を作り込んでいるなんて狂人だ、流されるわけにはいかない。大学の友人に「なんでもかんでも他人の話を信じ込むな」と怒られたことを思い出した。私を小学生とでも思っているんじゃないかという扱いはムカつくが、今だけはその言葉で気を引き締めることにする。
「ふむ、それでは、私たちは何をしていたんだ。その時代の軍人というものにあまり明るくない」
「アイヌが隠した金塊を追っていました」
「ちょっと待て、それがおかしいことは私でも分かる」
急に話の流れが変わった。現実的な話なのかと思っていたが、月島という男の妄想を多分に含んだ話だったようだ。アイヌ、というのは北海道の民族か。それが隠した金塊を追っていた? 確実に陸軍のする仕事ではない。
「アイヌの金塊を隠した男が網走刑務所に投獄され、隠し場所を記した暗号を死刑囚の体に刺青で彫りました。その死刑囚たちが脱獄したので、彼らを捕まえながら金塊のありかを探したのです」
「情報量が多いな。そもそも何故、軍人が金塊を追ったんだ?」
「私たちの上官である鶴見中尉殿が、金塊を使って日露戦争で困窮していた兵士やその家族を救い、死んでいった仲間の眠る土地を手に入れようとされていたのです」
「陸軍の総意ではなく、その鶴見中尉殿という人物が主導なのか」
「はい。第七師団は軍内でも冷遇されていましたので」
無茶苦茶な話だ、だが面白い。詳細に訓練だの事務仕事だのを説明されるよりも、夢があってわくわくする。それに、不思議と金塊を探すという話が自分の中で違和感がなくしっくりときた。刺青というのはどんなものだったのか、鶴見中尉とはどんな人だったのか、何を聞いてもやはり速やかに答えてくれる。前世が本当にあったのかもと思ってしまうくらいの自然さだった。
「その稲妻夫婦というのは……と、もうこんな時間か」
ふと時計を見れば、話し始めてからそろそろ二時間が経ちそうになっていた。コーヒー一杯で居座るには長すぎる時間だ。随分と話し込んでしまった。
「少し長居しすぎたな、そろそろ帰るか」
「ああ、すみません、こんなに引き留めてしまって」
「いいさ、お前の話は悪くなかった」
空のカップを持って立ち上がればすぐに月島も立ち上がる。しかし、じっとこちらを見上げたまま動かない。
「また、会っていただけますか」
普通に考えれば月島は精神に問題を抱えた人間なのだと思う。話を聞き終えても前世なんて信じる気にはならない。けれど、物語としてこの男の話は興味深かったし、虚構と捨て去るには真に迫った迫力があった。
「また偶然再会できたら、続きを聞かせてくれ」
だから、明確に断ることは惜しいと思ってしまったのだ。
良い映画というのは、映画館を出た後の夢の中にいるような浮遊感を含めて楽しいものだ。ふわふわとする足取りで劇場を出ながら、隣を歩く杉本の肩を叩く。
「面白かった! 主人公も相棒もかっこよかったな! なあ、杉本!」
「気に入ったんなら良かった。お前はアクション映画とか観ないから退屈すんじゃないかと思ってた」
「今まであまり興味がなかったが、これからは認識を改める」
金曜日は午前までしか講義を入れていない。よく時間を持て余すので、同じく午後は空いている杉本を暇つぶしに誘うのが定番になっていた。今日もそのつもりだったのだが、「今日から公開のアクション映画を観に行くから」と断られた。杉本は私がアクション映画に興味がないことを知っていて断ったのだろうが、暇なので着いていくことにした。さして期待はしていなかったのだが、これが案外面白くて映画館を後にする頃には私の方が興奮していた。
「もっと感想を話したい。明日は休みだろう、付き合え」
「俺はバイトがあるんだよ」
「少しだけ、な? いつもの居酒屋ならいいだろ?」
「……そんなに飲まないからな」
杉本は私に対してぞんざいな態度だが、押せば簡単に折れてくれることを知っている。付き合いも三年目ともなれば、この男はぶっきらぼうな割に面倒見が良いことも分かってきていた。
大学の入学式でたまたま隣に座り、話してみれば取ろうと思っていた講義がいくつか被っていて、自然と一緒に講義を受けて、なんとなく三年生になった今も行動を共にしている。別に性格が合うわけではないが、不思議と居心地は悪くなかった。
大学近くの安いチェーンの居酒屋に入る。値段も安いし、ここから杉本のアパートまでは徒歩圏内なのでよく利用していた。
主人公のこういう行動が良かった、悪役も信念があって共感できた、ヒロインを颯爽と助けに来るシーンはかっこよかった。私が並べていく感想に杉本も相槌を打ちながら、自らの感想を述べていく。酒も入って上機嫌になった所でふと最近の出来事を思い出した。
「主人公とヒロインが初めて出会った時にお互いにビビッと来ていたが、ああいうのは現実だとなかなかないな」
「一目惚れってやつか? お前はしたことはなくても、されたことはありそうだな」
「ああ、最近された。急に前世の知り合いを名乗る奴に声をかけられた。私は全然ビビッとこなかったがな」
「は?」
杉本はさっきまでの笑顔を消して、ビールを持ったまま目を見開いて固まる。驚いているだけなのだろうが、元の人相が良くないせいで迫力がある。
「なんでも私の前世は明治時代の陸軍少尉らしい。声をかけてきた男は私の補佐をしていたと言っていた」
「待て待て待て、そんなにしっかり話を聞いたのか?」
「面白そうだったから、カフェでお茶をしながら聞いた」
「馬鹿だろ」
「駅で突然腕を掴まれて『前世を覚えていらっしゃらないんですか?』なんて言われたら気になるだろう」
「やっぱり馬鹿だ」
呆れたようにため息を吐いた杉本に、月島から聞いた金塊をめぐる戦いの話もしてやった。個性的で愉快な話だと思ったのだが、みるみるうちに不機嫌になっていく。
「信じてるわけじゃないよな?」
「まさか、そんなわけないだろう」
「それならいい。むやみに知らない奴に近寄るなよ」
「私を小学生だと勘違いしていないか? そこら辺の人間にどうこうされんぞ」
「俺には柔道で負けたくせに」
「剣道は勝った。大体、お前が規格外なんだ、柔道だって大抵の奴には負けん」
出会ってすぐの頃、お互いに一通り武道を嗜んでいると知って大学の武道場で柔道をした。そうしたらこの男はぽんぽんぽんぽん私を投げ飛ばす、筋肉が詰まった重い体で寝技を決める、と散々な目に遭わせてくれた。私だって黒帯を持っているはずなのに、ここまで力量さがあるものかと歯嚙みしたものだ。後日、剣道でリベンジをしてボコボコにしてやったので溜飲は下がっている。
「強いのは知ってる。でも、相手に気を許すとすぐに油断するだろ。そうやって人を信じすぎる所は長所って言えるレベルを超してるぞ」
トン、と左肩を小突かれると、大して力は込められていないのにまるで刺されたような熱が広がる。その熱を振り払うようにグラスに残ったビールを飲み干し、肝に銘じておく、と答えた。
好奇心は猫をも殺す。分かっていても自分では止められないものだ。
いつもの乗り換え駅、あの時と同じ時間帯、また月島がいた。私に気付いて、あっ、と口を開いた月島に元気だったか? と声をかける。
「はい、おかげさまで。鯉登少尉殿もお元気そうで何よりです」
「こっちは気ままな大学生だからな」
「そうはいっても、ちゃんと勉学には励んでいらっしゃるんでしょう」
「前世の私はそうだったか?」
「ええ、とても優秀でしたし、鶴見中尉殿のためにと奮励されていました」
懐かしむように目を細める月島に、満ち足りた日々だったのだなと思う。空想のような話であっても、月島にとっては心の支えとなるような話なのだろう。
「時間はあるか? この前のカフェで話を聞きたい。金塊のことじゃなくて、お前から見た私を知りたい」
「はい、貴方の話であればいくらでも」
食い気味に答える月島に、そんなに嬉しいのかと笑ってしまう。半歩後ろを着いてくる月島はそわそわと落ち着かない様子だった。
前回に来た時とは期間限定のフラペチーノの種類が変わっていて時の流れの速さに驚く。同じようにフラペチーノを頼んだ私の前に座る月島はやっぱり変わりなくアイスコーヒーを頼んでいた。
「私はどんな人間だった? 優秀と言っていたが、具体的にはどうだったんだ」
「そうですね、陸士を出られたくらいですから、文武共に優れていましたよ。自顕流を極められておりましたから剣の腕前で横に並ぶ者はおりませんでした。鶴見中尉殿お気に入りの薩摩隼人でしたよ」
「そ……うだったのか」
月島の言葉にドキリと心臓が跳ねる。大学進学で上京してきたが私の出身は鹿児島で、地元では父の影響で薬丸自顕流も嗜んでいた。偶然の一致と言うには無理がある。本当に前世があるのか、それとも月島は何らかの手段で私の個人情報を入手したのか。どちらにせよ薄ら寒い感じがして、ごくりと唾を飲み込む。
そんな自分を誤魔化すように話題を反らす。
「一目で私と分かったのは、見た目が変わらなかったからか」
「ええ、時代が違いますから身長はあの頃より伸びていらっしゃるようですが、お顔は変わりありません。あの頃から人目を惹く華やかなお顔立ちでしたよ」
「褒められて悪い気はしない。だが、人目を惹くか。軍内では少々面倒も多そうだな」
「そうですね、貴方に焦がれる者は大勢おりました」
眩しいモノでも見るように目を細めた。黒々としたその目に浮かんだ私の姿がぐにゃりと歪む。熱に溶かされてしまったようだ。
「影ながら見つめる者、直接慈悲を乞う者、様々でしたが貴方自身はその全てを一切気にした様子はありませんでした。貴方に惹かれた者たちは、人を寄せ付けない高潔な姿により思いを募らせていたように見えました」
「それなら補佐をしていたお前には迷惑をかけたことだろうな」
「……貴方は少尉でしたし、御父上が海軍少将で後ろ盾も強く容易に手を出そうとする輩は多くありませんでした。それでも、恋というものは厄介で後先考えない者も出てきます。勢い余った一等卒が貴方を手籠めにしようとしたこともありました」
「それでお前が助けてくれたのか」
「いいえ、貴方は自身で返り討ちにされていましたよ。私がしたのは事後処理くらいです。……思い出しませんか」
「さっぱりだなぁ」
行儀悪く肘をついて月島の顔を見つめる。どれだけ見つめた所で特に何の感慨も沸いてこない。ただじっとこちらを見つめる顔の中に色を感じ取れるくらいだ。
「お前もか?」
「何が、ですか」
「お前も、私に焦がれていたか」
今も、というのは止めた。そこまで踏み込めるほど、この男のことを知らない。けれど、熱をはらんだ瞳は飲み込んだ問いの答えをありありと映し出していた。
「もちろん、焦がれていましたよ。私と貴方は、恋仲でしたから」
「私と、お前がか?」
「はい。……男同士で悍ましいと思われましたか」
「いや、思わん。思わん、が、意外で」
ざわり、ざわり、と心が騒ぐ。嫌悪感ではない。既視感、だろうか。どろどろと熱に溶かされたようなその目を見たことがある気がする。いつ、何処でと考えても後一歩の所で吹き荒ぶ風に飛ばされてしまったように思い出せなくて歯がゆい。
そのまま上の空になってしまった私に、今日の所は解散することになった。
「前に言ってた不審者はもう大丈夫か?」
カレーライスを食べていた手を止めて目を逸らせば、杉本がまさか、と眉根を顰める。不機嫌そうな顔に、降参とでも言うように両手を上げた。学食で説教を始められたら、せっかくの昼飯が不味くなってしまう。
「OK、落ち着け杉本、ちゃんと説明するから説教から始めようとするな」
「なんだそのオーバーリアクション」
「あの映画を観て以来アクション映画にハマってな、最近サブスクで観ている」
「影響受けやすいなぁ」
呆れたようにため息をついて、で? と先を促してくる杉本に叱ってくる様子がなくて安堵する。
先日、会った時に月島から聞いた話をまるっと杉本にも伝えれば、頭を押さえて黙り込んでしまった。まだ半分ほど残っている唐揚げが冷めてしまいそうでもったいない。
「それは、本当に危ない」
「私もさすがにヤバいと思った。時間がかかるが乗り換える駅を変えたから、それ以来会っていない」
「連絡先とか家とかは教えてないよな」
「教えてない」
「それでも、油断するなよ。待ち伏せとかされたら警察に連絡しろ。しにくいなら俺を呼んでもいいし」
思っていた以上に私の身を案じている杉本に驚いた。私自身は月島のことを変わった男に会ったと楽観的に捉えていたので、申し訳ないことをしてしまったな、と思うが心配されて悪い気はしない。
「珍しく優しいじゃないかぁ」
「お前は目を離すと問題ばっかり起こすから」
杉本は人差し指と中指を立てて自分の目に向けてから私の方に指先を向ける。アクション映画に影響されたと言った私にこういう仕草を返してくれるノリの良さも嫌いじゃない。
「分かった、分かった。迷惑をかけんように気を付ける」
そう言った言葉は嘘じゃなかったのだがなぁ、と心の中で言い訳をする。
杉本から釘を刺された翌日、私は月島と会った駅で乗り換えようとしている。サークルの飲み会に参加していたら、盛り上がって帰るタイミングを失い終電間際になってしまったのだ。最近乗り換えをしている駅だと最寄り駅に帰れなくなってしまう。タクシーを使ってもいいが、こんな時間ならさすがに月島に会うこともなかろうと、月島と再会した駅で下車する。
午前零時を超えた駅のホームは人もまばらだ。そんな中、ベンチで項垂れる男性が目に留まった。ぐったりとして動かない姿に酔っ払いかと思ったが、スーツの上からでも分かる体格の良さに、あれ、と思う。じっと見ていた私の視線に気づいたのか顔を上げた男は私を見て目を見開いた。私も同じように目を見開く、そこにいたのは月島だった。
大股で近づいてきた月島は初めて会った時のように私の手首を強く握った。目の前まで来られて分かったが、目の下にはくっきりと隈が浮かび憔悴しきった顔をしている。
「申し訳ありません‼」
手を離さないまま腰を直角に折る。大きな声が響いて周りの人たちはちらりとこちらを見た。しかし、関わりたくないのか、酔っ払いが騒いでいるだけだと思ったのか、すぐに視線を逸らした。
「つき、しま……顔を上げてくれ」
おずおずとこちらを見る月島は眉尻を下げ、今にも泣き出してしまいそうな顔をしていた。愛する人に見放される恐怖に怯えている。ツキリ、と心臓が痛む。
「急に、恋仲だったなんて言ってすみませんでした。ご察しの通り、今生でも貴方を愛しています。前世の記憶のない鯉登少尉殿にとって、身も知らぬ男から送られる好意など迷惑だったでしょう。それでも、そう分かっていても、愚かな私は貴方を最後に一目でも見られたらと思ってしまったのです」
「そのために、ずっと待っていたのか」
「ここ以外に、貴方に会える場所が分からなかったので」
無理矢理に口角を上げ、歪な笑みを作る月島に息が詰まった。記憶のない自分にはこの気持ちに答える手段は持ち得ない。けれど、その憐れな姿を拒絶するような非道な真似もできないと思ってしまった。
「私は、お前に同じだけの気持ちを返してやることができない」
「……存じ上げております」
「それでも、良いと言うのなら。また、前世の話を聞かせてくれ」
掴まれていない方の手を月島の手の甲に重ねる。冷え切った指先に月島の緊張が伝わってくるようだった。月島の瞳からほろ、と涙が零れ落ちる。
「はい……はい、私が語れることならば、いくらでも」
止まらない涙がぽたぽたと重ねた手の上に落ちる。難儀な恋をしているものだ。もっと楽な道を選べれば幸せになれるのに。自嘲しながら落ちていく涙を見つめ続けていた。
一人暮らしのアパート。リビングでくつろいでいる間に、自分じゃない誰かのシャワー音が響く。胸の高鳴るようなシチュエーションだが、残念なことに現在シャワーを浴びているのはただの友人の杉本であり、色っぽいあれやそれは何もない。
アパートの給湯が壊れた、明日にならないと業者が来ないと言った杉本があまりにも絶望した顔をしていたから、うちに来いと誘ってしまった。飲みに行った帰りにそのまま杉本の家に泊まることは多々あるが、大学から少々距離のある我が家に呼ぶのは初めてだ。風呂場を見た杉本が「うちの倍ある」と浴槽を見ながら嬉しそうな顔をするのが悔しいことに愛らしかったので、とっておきの入浴剤を出してやった。
杉本が家主より先に入るわけにはいかないと固辞するので先に入った私は暇を持て余し、サブスクでオススメに出てくる映画の説明を読んでいた。
「なあ」
「うわっ⁉ なんだその恰好、みっともない」
「悪い、着替え忘れた。なんか借りれないか?」
音もなく背後に立った杉本に驚いて振り返れば、パンツ一丁でソファに座る私を見下ろしていた。無駄に鍛え抜かれたバキバキの体を惜しげもなく見せつけてくる。
「仕方ないなぁ、Tシャツとハーフパンツでいいか? 今日泊っていくだろう」
「迷惑じゃなきゃ」
「変な気を遣うな。映画を一緒に見よう、ポップコーンとコーラも準備したぞ」
「本当に影響受けやすいなぁ」
タンスから寝間着用のTシャツとハーフパンツを取り出す。杉本に渡そうとして、正面からその体を見て首を傾げる。
「古傷がないな?」
「古傷……。急になんだ」
「いや、んん? おかしいな、杉本の体を見たことはないはずなのに、傷が何もないのが、不自然に思えて」
強烈な違和感は杉本がTシャツを着て肌を隠すことでなくなった。どうして自分は杉本に古傷があると思ったのだろうか。再度首を傾げる私を無視して、杉本は何を観るんだ? と声をかけてきた。
「前に一緒に観に行った監督の他の作品はどうだ? お前も観たことがない物がいいか?」
「んー、あ、これは観たことないな」
杉本が指した映画の説明を見てみる。これもアクション映画で、評価は高く恋愛要素が多いらしい。
「よし、これにするか! ポップコーンを取ってくる。あ、アイスもあるぞ、ファミリーサイズだ」
「馬鹿の量だろ」
「どうする? ポップコーンだけでいいか?」
「両方食べる」
「お前のそういう所は良いと思う」
でかいアイスをスプーンですくいつつ一緒に観た映画はなかなか悪くなかった。
翌日、あれから結局合計三本の映画を観た私たちは寝不足で大学に来ていた。一人でじっくり味わう映画も、誰かとやんややんや野次を飛ばしながら観る映画も、どちらも違った楽しみがある。
私が欠伸をすれば、釣られたように杉本も大きく欠伸をする。二人でふにゃふにゃと目をこすっていると一人の女子が近づいてきた。
「杉本くん! ちょっとだけ、いい?」
「ん、あぁ」
小柄な女子はこの間の講義で杉本とグループを組んで課題をこなしていた。レポートの提出まで杉本がいくらか世話を焼いていたと記憶している。
「あの課題のレポート、杉本くんのおかげで完成できたよ」
「別に、俺は大したことはしてない」
「ううん、そんなことないよ。一人じゃできなかった。だから、その、良かったら、お礼させてもらえたらなって」
頬を染めながら上目遣いで杉本の様子を窺う彼女の気持ちはとても分かりやすい。華奢な体躯に大きな瞳が印象的な愛らしい顔、庇護欲を誘うその容姿で微笑まれて悪い気がする男はいないだろう。けれど、杉本は無情にも首を横に振る。
「気にしなくていい。バイトが忙しくて時間が空けられないし、気持ちだけで十分だ」
そう言うと、私に行くぞといって彼女に一瞥もせずに歩き出す。俯く彼女に後ろ髪を引かれながら駆け足で杉本の横に並ぶ。小声で、良かったのか、と様子を窺った。
「何が」
「優しくしてやればいいのに。彼女、お前に気があっただろう」
「だから尚更、優しくできないだろ」
真っ直ぐに前を向く杉本はやけに大人びた顔をしていた。こちらを向かない瞳は、何処か遠くの愛する人を思っているように見える。
「その気もないのに、ありもしない期待を持たせるのは残酷だ」
「お前は、他に好きな人がいるのか」
「……まあな」
口元を緩めてこちらを見上げる杉本は泣くのを堪えているように見えて、叶わない相手に恋をしているのだなと分かってしまう。
好きな人の近くにいられることが一番幸せなんだと思っていた。けれど、優しくされる度に期待して、自分が特別じゃないことに気付く度に失望する。何度も何度も自分は選ばれないと突き付けられるくらいなら、一緒にいない方が楽なのかもしれない。私が月島にしていることは、優しさではないんじゃないか。
「杉本、ちょっと先に行っててくれ」
「どうした?」
「少し用を思い出した」
怪訝な顔をしながらも講義室に向かう杉本を見送ってからスマホを開く。連絡先から『月島 基』を選んで電話をかけた。深夜に月島と再会した後、携帯番号を交換して定期的にあのカフェで話をしている。杉本が知ったら怒るだろうな、と苦笑していると、三回目のコール音の後に、はい、と月島の声がした。
「悪い、私だ。仕事中だったよな」
「いえ、今は外回りに出ていて一人なので大丈夫ですよ。何かありましたか」
「お前に話さなくてはいけないことがある。できれば静かな所がいい」
並々ならぬ気配を察したのだろう、月島は考え込むように押し黙った。私からも何も言えず、暫しの沈黙が流れる。気まずくて、やっぱりいつものカフェで、と言いかけた時に月島が口を開いた。
「うちに来ますか。明後日は休みなんで、いつでも大丈夫ですよ」
「明後日……土曜か。私も大丈夫だが、いいのか?」
「ええ、男の一人暮らしなので大した家ではありませんが、それで良ければ」
「月島がいいのなら、私は構わん」
「では、後で住所を送ります」
そう言って電話が切られる。メッセージに住所が送られてきた。乗り換え駅から徒歩十分と言った所か。十四時頃に行く、とだけ返信し、早足で講義室へと向かった。
私の手首を握って泣いていた月島の顔がちらつく。また泣いてしまうだろうか、そうなってももう慰めてやれない。叶わない恋をして可哀想になぁ、と独り言ちた。
月島のアパートの前まで着き、少し悩んでから住所と共に『月島の家に行く』と杉本にメッセージを送った。心底怒られるだろうが、後で何も言わずに行ったことがバレた方が怖い。返信を見るのも怖いので、スマホは鞄の底に沈めておく。
単身者向けのアパート、二階の角が月島の部屋だった。インターホンを押してすぐに出てきた月島はTシャツとジーンズ姿だった。スーツ以外の服装は初めて見たが、ラフな格好だと鍛えられているのがよく分かる。
「迷いませんでしたか、駅まで迎えに行けば良かったですね」
「いや、大丈夫だ。そんなに気を遣うな」
「ちょっと横すみません」
そう言って靴を脱いでいる私の横から手を伸ばして、月島は鍵を閉める。ガチャンという音がやけに響いた気がした。どうぞ中へ、と背を向ける月島から目を逸らして扉を振り返る。ただのアパートの扉が妙に重々しく見えた。少しだけ扉に手を伸ばしてから、すぐに月島の後を追った。
ダイニングテーブルの上に緑茶の入った湯飲みを置いて、月島は私と向かい合うように座った。口にした緑茶は苦みが強くて、今から言わなければいけない話を反映しているようだ。
「鯉登少尉殿。それで、お話というのは」
「うん。もう、月島と会うのはやめようと思う」
「何故、とお聞きしても」
月島に驚いた様子はなかった。ただ真っ直ぐにこちらを見つめてくる。その瞳にまた既視感が襲ってきて、両手で包みこんだ湯飲みを見下ろした。
「どうするのが、お前を傷つけずに済むのか考えていたんだ。一緒にいることが慰めになると思っていたが、気持ちに答えられないのに一緒にいるのは、凄く残酷なことをしているんじゃないかと気が付いた」
「傷ついてもいいから一緒にいたいと、私が願ってもですか」
「お前を傷つけたくない、というのは私のエゴなんだ。お前を思ってのことではない。だから、もう会わない」
「どうして私を傷つけたくないと思うんです」
月島の声が震えていたから、あの日のように泣いているのではと思って顔を上げた。しかし、予めそんなことは知っていたとでも言いたげな、諦めたような表情で笑っているから、私も正直に答えた。
「私もお前と同じだからだ。叶わない恋をしている。傷つく月島は自分を見ているようで辛い」
「……やはり、貴方は変わらないんですね」
机の上で組んでいた月島の両手にぐっと力が籠る。震える両手に視線を落とす月島は痛みを堪えているようだ。何も声をかけられない、もう私が慰めることはできない。ゆっくりと気道を塞がれるような息苦しい沈黙の中で、小さなバイブ音が鳴った。なかなか途切れないその音は私の鞄からしているようだった。中からスマホを取りだせば、予想通り杉本からの電話だ。
「すまない」
沈黙が耐えがたかったのもあり、断りを入れて電話に出る。すぐに、何処にいる、という杉本の怒鳴り声が飛んできた。
「月島の家だ」
『帰れ、今すぐに』
「いや、でも」
『そいつはまともじゃない。っとに、何度も一人で行くなと言っただろ!』
手の力が抜けてカツンとスマホが落ちる。電話の向こう側で何やらこっちに叫んでいる気配はするが、頭に流れ込んでくる記憶に呆然として拾い上げることができない。
私だけれど、私じゃない者の一生分の人生。途切れ途切れの思い出は夢のようだがその瞬間の感情は鮮明で、この記憶が幻ではないと突き付けてくる。特に自らの補佐官に抱き伝えられなかった恋情は、胸を燃やし尽くす程に激烈だった。
「どうされたんですか?」
そう言って首を傾げる男。私よりも頭半分ほど低い身長で、年齢は一回りくらい上、がっちりとした体型以外は特徴のない、何の変哲もないその男を見て、ヒュッと息を呑む。
「お前、誰だ」
「……もしかして、思い出されたんですか?」
口角を上げて歪に笑う男は月島とは似ても似つかなかった。得体の知らない男が月島の名を語って自分に近付いていた。薄気味悪さに距離を取ろうと立ち上がると脚に力が入らずそのまま崩れ落ちてしまった。
「やっと効いてきましたか」
「近寄るな! くそ、何をした」
「弛緩剤を少々。そのままの貴方には勝てませんので」
肩を押されれば簡単に押し倒されてしまった。見下ろしてくる黒々とした瞳は熱に溶かされてどろどろと濁っている。その瞳には確かに見覚えがあった。
「お前、私を手籠めにしようとした一等卒か」
「おや、あの頃よりも年を重ねていますからお気づきになられないかと思いましたよ」
「気色の悪い瞳の色は変わっていない」
「ははは、こんな時でも気丈な所は貴方も変わっていませんね。でも、あの時と違って今の貴方は抵抗できませんよ」
私にのしかかってきた男が服の裾から手を差し入れてきた。肌を撫でるひんやりと冷たい手に吐き気が込み上げる。せめて言葉だけでも抵抗を続けようと、罵倒を並べようと開いた口で笑みを浮かべた。
「いや、私が抵抗する必要はない」
「は? 何を、ぐあっ‼」
男は私の上から吹っ飛びダイニングテーブルにぶつかって派手な音を立てる。男を蹴り上げた杉本は息を上げていた、駅からここまで走ってきたのだろう。
「早かったな、月島」
「思い出されたのですか、鯉登少尉殿」
私を抱き起こした杉本は月島と呼ばれても驚いた様子などなく、私を鯉登少尉殿と呼んだ。記憶の中にあるよりずっと若いが、確かにその顔は月島だった。今まで思い出さなかったことが不思議だ。
「なん、で、月島軍曹が……鍵もかかってたのに」
「悪いな、私が月島にこの場所を教えて、鍵も開けていた」
「……こいつのことは、どうされますか」
視線だけで人を殺せそうなほど殺気に満ちている月島に男はひぃっと情けない声を上げて後退った。私を支えている月島の腕を軽く叩いて、落ち着けと囁く。
「なあ、薬は危ない物か? このままだと死んだり、後遺症が残ったりするか」
「い、いえ……二、三時間もすれば、力も普通に、入ると……」
「そうか、ならいい。帰ろう月島」
「よろしいのですか?」
月島は納得がいっていないようで、男から鋭い視線を外さない。正当防衛とは言い難いレベルで男を締めてしまいそうだ。
「油断していた私も悪かった。警察を呼んで前世だなんだという話をするのも嫌だ。だから、今後もう私に関わらないというなら今回のことは不問にしよう。どうだ、何か文句はあるか?」
首を傾げて問いかけてやれば、男は何度も頷いた後弱々しく土下座をする。それでも月島の怒りは収まっていないようだったが、私が立てない、と言えば軽々と私を背負った。
「前世なんか忘れて真っ当に生きろよ」
返事はなかったが、月島に背負われたまま男の部屋を後にした。
休日の真昼間、身長は低いが体格はかなり良い男が身長も高く体格の良い男を負ぶっているというのは目立つ。人の視線を一身に集めながら私たちは駅まで歩いていた。
「なんでお前は杉本なんだ。ちゃんと月島という名前だったら出会った時に思い出せていた気がする」
「そういう貴方だって鯉登ではないじゃないですか」
「そうだが、せめてもっと違う苗字はなかったのか。思い出してしまったから、杉本とは呼びにくい」
「私が苗字を選んだわけではないので、そこに文句を付けられても困ります」
面倒くさそうにあしらってくる様子は確かに前世の月島のままで、大学で出会った杉本のままだった。月島の首に回している両手がさっきよりも力が入るようになってきたので、ぎゅうと抱き着く。
「お前はいつ思い出した」
「出会ってから一年くらいしてからですね」
「ふむ、そう言えばそれくらいから、私の名前をあまり呼ばなくなったな」
「……鯉登ではない貴方に、違和感があったので」
近付いた月島の耳はほんのり赤く染まっている。うふふ、と耳元で笑えばびくりと肩を揺らした。
「なあ、いいニュースと悪いニュースがあるんだが、どっちから聞きたい?」
「なんですか、それ。では悪いニュースから」
「あの男は前世で私と月島は付き合っていたと言ったが、本当は付き合っていなかった。残念だなぁ、月島」
「……では、良いニュースとは」
「前世でも、今生でも、私はお前が好きだ」
月島はぴたり、と足を止める。一度大きく息を吸い込んでから、また歩み始める。先程までより早足になっていた。
「私からは良いニュースと、もっと良いニュースがあります」
「ほう、じゃあ良いニュースは」
「私は今生でも基という名前で、貴方も音之進という名前です」
「なるほど、名前で呼べば違和感はなくなるな。ではもっと良いニュースは」
いつの間にか駅の前まで来ていた。月島は駅の中には入らず、真っ直ぐにタクシーの待機列に向かった。
「俺も音之進が好きだ」
そう言った月島、いや基は耳と言わず首まで真っ赤に染めていた。愛おしさが胸に溢れてどうしようもない。その気持ちを押し付けるように額を肩にぐりぐりと擦り付ける。
「私の家に行こう。ちゃんと顔を見てもう一回言ってくれ」
「嫌だ」
「照れるな、むぜ奴め」
私たちの出会いに雷に打たれたような衝撃はなかった。急に世界が色付くことも、世界が姿を変えることもなかった。けれど、確かにそれは運命の相手との出会いだったのだ。