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    雨音🦁☔️

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    ##花言葉

    Angraecum「村雨! これを咲かせろ!」
     村雨宅の玄関先。
     ドアが開くと同時に、獅子神は顔を出した相手に鉢植えを突きつけた。
     艶のある黒髪に、金縁丸眼鏡。自宅だというのに見慣れた服装の村雨礼二は、ちら、と突きつけられた鉢植えに目をやる。
     口角を上げて、一言。
    「アングレカムか」
    「な!?」
    「開花は冬頃。ラン科だな。今は屋外で構わないが、寒くなると屋内に入れる必要があるな。5℃を切ると枯死する可能性が……」
    「まてまてまてまて」
     さらさらと続く解説を、必死に止める。鉢植えを相手に突きつけた姿勢はそのままで。
    「見て分かるのか」
    「花の名前か? ああ、わかる」
    「なんっでだよ!!!」
     力いっぱい、憤る。
     先日押し付けられたお返しに、何もヒントを与えずに世話をさせようと思ったのに。
     そして、咲いた暁には花言葉を……
    「ふむ、なるほどな。確か花言葉は……」
    「だから、待てって!!」
     もう一度、制止する。そんなことまで、今コイツから語られたら堪らない。
     ああ、もう、何故こうも、コイツがやるようにいかないのか。
    「当然だろう?」
     囁き。
     目の前の、獅子神よりずっと強い、誰よりも優れた観察眼を持つ男の、自信に満ちた笑い。
     何も言葉にしなくても、全部分かっているとでも言うような。
    「あなたのことで、私が分からないことなどある筈がない」
     どんな自信だ、それは。
     言い返す気力もなく、ため息を吐いた。
     勢いを無くしていた腕に再度力を入れて、鉢植えを突きつける。
    「わーったよ!分かってるならそれはそれでいい!!」
     金縁眼鏡の奥の、榛色の目をじっと見る。
     そこに少しでも滲み出る感情を、見落として堪るかと目を凝らす。
    「オレの気持ち! な! だから……」
    「ああ。あなたと思って丁重に扱おう」
     さらり、とした言葉に、返せる語彙はもう無かった。
     鉢植えを受け取ってもらえ、空いた手でガシガシと金髪を乱暴に掻く。
    「そうかよ……せいぜい、頼むよ」
    「頼まれた」
     淡々とした返事。
     そのまま、ぽつり、と、続いた言葉。
    「私も、同じ気持ちだ」
     あまりにも細やかなその音は。或いは祈りのように獅子神の耳には聴こえた。


    ******
     アングレカム(Angraecum)
     花言葉は「いつまでも貴方と一緒」
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