Chapter.0 集合住宅の側の公園で荀彧と郭嘉はよく遊んでいた。同じマンションの隣同士に住む彼らは仲がとても良い。二人の親が仲が良かったのでそれも当然だったのだろう。郭嘉の親が片親だったため、よく郭嘉は荀彧の家に預けられていた。
荀彧が10歳、郭嘉が6歳の時の話だ。いつもの公園で遊んでいると、どこからか小さい女の子の泣き声が聞こえてきた。その声は一向に止まないので、気になった二人は声を探しに行った。
それはすぐに見つかった。自分らと同じマンションの1階の部屋からだった。ベランダから部屋の中をそっと覗けば、中では小さい女の子を庇うように抱きしめている母親らしき女性と、女性を殴っている大人の男の姿があった。二人はその光景を目の当たりにし衝撃が走る。よくないことだって、幼いふたりにだってわかる。二人はすぐに家に帰り親にそれを言うと、まもなく通報されて、その男はお縄となった。
ピンポン。
玄関のチャイムが鳴る。また、警察だろうか。
体のあちこちにあざがある女性は体を起こすと玄関を開けた。夫が暴行で現行犯逮捕されてから、調書だなんだとここしばらくは忙しく、ようやく落ちついたところだった。しかしそこにいたのは、スーツを着た男ではなく、小さな二人組の子供で。
「どちら様かしら?」
「こんにちは! おかあさん、けが大丈夫?」
「こんにちは。とつぜんごめんなさい。おまわりさんに言ったの、ぼくたちなんです」
「まあ、そうだったの……ありがとうね」
「おんなのこが泣いてたから。おんなのこ、いる?」
「ええ。せっかくだから上がっていって」
女の子の母親は、二人を部屋にあげる。リビングでは小さな女の子がぼーっと窓の外を見ていた。茶色く柔らかそうな髪の隙間から二つの猫耳のようなものが見える。カチューシャか、何かだろうか。それはとても似合っていて可愛らしい。二人はそう思った。
母親が冷蔵庫からオレンジジュースを出してコップにつぐ。
「座ってちょうだい」
九九。母親は女の子をそう呼んだ。九九と呼ばれた女の子はようやくと身をよじろいだ、と思えば立ち上がりとたとたと駆け寄り抱きついた。よくよく見れば、女の子にもあざがたくさんありとても痛々しい。
「この子は九九っていうの。二人には難しい話かもしれないのだけれど……、私の実の子よ。でも、ちょっと変わり種でね。それが原因で、父親から虐待されていたの」
「ひどい!」
「九九ちゃんがかわいそう」
二人がそういうと、ピクピク、と九九のカチューシャが動いたのを見て二人はギョッとした。
「それ、カチューシャじゃないんですか?」
「ほんもの?」
九九は指をさされびくりとして、ごめんなさい、ごめんなさい、と泣き出す。
悪意はなかった。母親はそれをわかっていて九九を宥める。郭嘉は慌ててそばに行くと、ちがうんだ、ごめんね、と頭を優しく撫でた。
「ぼくたち、九九ちゃんのお友だちになってもいいですか?」
荀彧が母親にそういうと、彼女は驚きに破顔した。
「ええ、お願いね」
郭嘉は泣き止んだ九九の手を握った。うるうるに滲んだ瞳が郭嘉を映す。
「おれはね、かくか、っていうんだ。九九は今日から友だちだからね」
「ぼくはじゅんいくっていいます」
「かか、じゅ、いく?」
「ん!」
「はい。もうこわいのも、いたいのも、ないですからね」
これが、三人の出会い。