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    宇宙最強の陰陽師📟

    @nasunoheta_206

    🩷🐵過去作置き場🐶💚

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    POIPOI 3

    さるいお再掲 さるいおに敗北するモブ女ちゃんが出てくる

    #さるいお
    thatKindOfFish

    奴隷の居ぬ間に◇◇◇side MOBU♀◇◇◇

    大学の授業が終わり、図書室で調べ物をしていたら19時を過ぎていた。時計を見て慌てて荷物を片付け急いで大学を後にする。夜になると大学から近くの駅に行く道は人通りが極端に少なくなる。街灯こそあるがそれ以外の明かりは遠くにしか見えない、加えて夜には明らかにガラの悪い人達がたむろしている。
    (一度絡まれればオシマイ…)
    鞄の取っ手を力強く握り締めて足を早めた。

    (最悪だ…)
    まだ19時半にもなっていないのに、その道には既にガラの悪い人達が数人いらっしゃる。
    どうか私に絡んで来ませんように…と心の中で祈りながら早歩きをする。するとその人達が近付いてきた。
    (やめて、私は何も出来ません。素通りしてください)
    まるで幽霊を追い払う様な祈りになっていたが、今はむしろ幽霊より怖い存在だった。
    一歩踏み出す度にこちらに近付いてくる人達に半分目を瞑りながら心の中の祈りを強くした。
    そんな祈りとは裏腹に、ガラの悪い人達はへっへっへ…と悪役テンプレの様な笑いをしながらどんどん距離が縮む。
    「おい、テメェ”ウルフ“だな!待ってたぜ〜」
    連中の一人がこちらに向かって言葉を発した…。
    …いやウルフって誰?私そんな名前じゃないんだけど。
    連中はこちらを素通りして行った。一瞬頭が追いつかないが、どうやらお目当ては自分ではなく、自分の後ろの誰かのようだった。
    (怖すぎて後ろに人がいるの気付かなかった)
    そう思った矢先、
    「消えろ雑魚、しつこいんだよ」
    後ろの人間が言葉を発するなり、自分の後ろで喧嘩が始まった。
    更に頭が混乱する、どうしてこうなったんだ。
    呆然として早歩きしていた足は止まりその場に立ち尽くしてしまっていた。
    僅か10分ほどで怒号や明らかに人を殴っているであろう音が止み、「覚えてろよ〜」とまたしても悪役のテンプレの様な負け惜しみを言いながらバタバタと足音が遠ざかっていった。
    「なんだったんだ…」
    思わず言葉に出てしまった。本当になんだったんだ。
    「ケッ!マジの雑魚じゃねーかよ。くだらねぇな」
    呆気に取られていると、自分の後ろの人が言葉を発した。どうやら喧嘩に勝ったらしい。
    暗闇で見えなかったが、街灯があるこちらに近付いて来てようやく容姿が見えた。
    少し小柄で、目立つピンク色の髪と派手なジャケット。殴られた痕跡は無かったが、手には返り血が付いていた。
    この人が“ウルフ”って呼ばれていた人だったのか…。通り名の様なものなのか。
    「あ?何見てんだよ、お前誰だよ」
    向こうもこちらに気付いていなかった様だった。
    「私はただの通行人で…あっ助けていただきありがとうございました!」(別に助けて貰ってないけど…)
    何故かお礼をしてしまったが、絡まれずに済んだのは”ウルフ“と呼ばれる彼のお陰でだった…という事にした。
    「お前を助けた覚えはねーよ、ただアイツらが俺に絡んで来ただけだろうが」
    「いえ!わっ…私が絡まれずに済んだのはあなたのお陰なのでっ!そのお礼なんです!」
    向こうは何言ってんだコイツみたいな目で見ていた。ヤバイ、頭のおかしい自意識過剰人間と思われる…。少しの沈黙に耐えられず、何かお礼を渡そうと鞄の中を探してみた。運良くというか、友人達に配ったクッキーのあまりがあった。
    「あっ…あの、コレお礼です!美味しくないと思いますが…」
    「はぁ?別にいらねーよ。つか俺はお前を助けた覚えはないって言ってんだよ」
    少しイライラしてらっしゃる。それもそうだ、自意識過剰の女が突然お礼してきた上に手作りのクッキーをあげようとしている謎のシュチュエーション。怖い以外の感想しかない。
    「そうですよね、ごめんなさい!こんなものいらないですよね…」
    「いる、お礼貰っておいてやる。俺に感謝しろ」
    「………えっ?」
    さっきまでのやりとりとは逆だった。“ウルフ”さんは私の手からクッキーの入った袋を半ば強引に取った。突然の手のひら返しにまたしても呆気に取られる。
    「じゃ、コレサンキュー」
    それだけ言い残し、その人は去って行った。
    本当に何だったんだ…、時計を見ると20時を少し回った頃。また先程の様にガラの悪い人達が来るかもしれないので、再度早歩きで駅へと向かった。30分ぐらいの出来事にしては濃すぎる内容だった…。多分暫く忘れないだろう。
    「”ウルフ“さん」
    駅に向かいながら、ポツリと呟いた。






    ◇◇◇side CHARISMA house◇◇◇

    ドタドタと玄関から音がして、誰かが帰宅したようだった。
    「おかえりさるちゃん!ごはん出来てるよー」
    依央利はエプロン姿で猿川を迎え入れた。
    「おう、今日はなに?」
    「今日の夜ご飯はテラさんのリクエストでカレーだよ!さるちゃんの為にお肉いっぱいにしたよ」
    「よっしゃ!さすがいおじゃねーか」
    猿川はそう言って依央利の太ももに一発蹴りを入れた。
    「ありがとう!」
    反射的にお礼を言う依央利に誰もツッコまない。
    「さるちゃん、上着貸して〜。どうせ汚れてるだろうから洗濯しちゃうね。あっ、予備は部屋に掛けておいたから」
    流石は奴隷と言わんばかりに用意周到な依央利だった。猿川は派手な上着を脱いで依央利に渡した。反発のカリスマは、幼馴染の依央利に対してはあまり反発しない。
    そのタイミングでお風呂から上がった理解がリビングに戻って来た。
    「おい猿!何時だと思っているんだ!あと30分でinオフトゥンの時間だろ!まだ風呂すら入っていない上にこんな時間からご飯を食べるなど…秩序の欠片もないな!」
    「うるせえ、俺に指図するんじゃねー。つか、遅くなったのは、人助けしてたからだよ!」
    「…はぁ?ヒトダスケ?!?!お前の様な人間がぁ!?嘘付きは泥棒の始まりだぞ!」
    「嘘じゃねーよ!証拠もある!いお!上着貸せ!」
    理解と言い合いをしていた猿川は、依央利から上着を奪い取るとポケットから猿川には似合わないかわいい包装のお菓子が出てきた。
    「道で襲われそうな女がいたから助けたら貰った!コレが証拠だよ!文句あるか?」
    そのクッキーを机に置いて猿川はドヤ顔をしていた。理解はそのクッキーを見てぐぬぬと効果音が付きそうな顔をしていた。
    「お前もたまにはいい事するんだな…。というかどうせ喧嘩で解決したんだろ!それは見逃せないな!」
    いつもの如く笛をならす理解、猿川は依央利が用意したカレーを食べながらガン無視している。
    理解と猿川の会話には入っていなかったが、依央利は机に置かれたクッキーの袋を睨み付けていた。明らかに女が作ったと思われる可愛らしいラッピングに手作り感満載のチョコチップ入りのクッキー。依央利は拾い上げた猿川の上着をぎゅっと握り締めた。


    夜も更けた頃、お風呂から上がった依央利はリビングに戻った。この家の風紀委員サマは9時には絶対就寝するので、大きな音さえ立てなければ再度リビングに監視にくることはあまりない。
    依央利は一息付いてソファに座った。すると奥から足音が聞こえ、見ると猿川が部屋からリビングに来ていた。
    「さるちゃん、どうしたの?喉乾いた?」
    「んー、いお水注いで」
    「はーい、ちょっと待ってね」
    猿川は目を擦りながら依央利の隣に座った。それと入れ違うように依央利は台所へと向かい、冷蔵庫から水を出してコップに注いだ。
    「はいどうぞ、ちゃんと飲める?」
    「ガキじゃねーんだから」
    依央利はコップを渡すと、猿川は一気に飲み干した。
    「また悪い夢でも見たんでしょ」
    「ちげーよ、理解のヤツがうるせえから寝たフリしたらそのまま少し寝てただけだ」
    「はいはい、そういうことにしておきますよー」
    猿川はよく悪夢を見る、魘されて目が覚めるというのが頻繁にあった。先程の猿川の言葉が嘘とわかるくらい依央利は猿川とずっと一緒にいた。伊達に猿川の幼馴染をやってない事が依央利の誇りでもあった。
    いつも気合いで立たせている(と本人が言っている)髪の毛は、風呂から上がるといつものように下がって少しばかり威勢を無くす。隣に座る幼馴染はまた目を擦っている。本当は眠たいのに、睡魔にすら反発しようとするのが愛おしくて依央利は思わず猿川の頭を撫でた。
    「さるちゃんは可愛いなー、本当は眠たいクセにー」
    「バカ!頭を撫でるな!眠たくねーし!」
    猿川は依央利の手を避けながら言った。
    『絶対寝ちゃダメだよ』
    と言えば猿川は反発して寝る。だが依央利はこの押し問答が面白くていつまでもやってしまうのだ。
    「なんか夜食でも作る?あったかい飲み物とかいる?」
    横に座る猿川に依央利は尋ねた。
    「いや、いい。このまま俺の枕になれ」
    猿川はそう言って依央利の太ももに頭を乗せてソファで横になった。いわゆる膝枕だ。
    「わぁー、珍しくさるちゃんが甘えてる。明日は雪でも降るのかな」
    「…うるせぇ」
    からかう依央利に猿川はデコピンをして眠る体勢になっている。
    「ありがとう…じゃなくて!寝るなら部屋行って寝よう!また理解くんに見つかると面倒くさいよー」
    そう言うと猿川はガバリと起き上がった。
    「いお、行くぞ」
    「はーい、僕はさるちゃんの枕だもんね」
    そう言って二人は猿川の部屋へと向かった。

    猿川と依央利、二人は幼馴染でありシェアハウスの同居人。依央利の奴隷契約で結ばれた関係、そしてもう一つ。世間一般でいう恋人同士だった。ただし本人達は他の人に秘密にしている。

    帰宅した猿川が人助けのお礼として、どっかの見知らぬ女から貰って来たクソみたいなクッキー。
    どうせ反発して半ば強引に貰って来たんだろうと依央利にはお見通しだった。
    (朝起きたらゴミにでも捨てておこう)
    依央利はそのように考えて、猿川の隣で目を閉じた。






    ◇◇◇side MOBU♀◇◇◇

    あの出来事から1週間、自分の中で珍しい出来事として受け止める事にした。あわよくばまたあの“ウルフ”さんに会えたらいいな…、またお礼と美味しくないと思うけどクッキーの感想とか聞きたいな…なんて考えることが多かった。友人達から『最近良い事あった?すごい楽しそうだから』と言われることも多かった。あの出来事は友人達に話すにはぶっ飛び過ぎているので秘密にしているが。今日はバイトの帰りであの道を歩いている。あの一件以降、ガラの悪い人達を見ることをあまりなくなった。安心な反面、少し残念に思っている自分がいる。
    「あー、”ウルフ“さんとすれ違わないかな」
    「アレ?お前この間の…」
    「!?!?」
    思わずひとりごとを言った瞬間、“ウルフ”さんが目の前の暗闇から出て来た。びっくりした。
    「”ウルフ“さん!?」
    「ウルフって呼ぶな!声がデケーよ」
    「あっすみません…。この前はありがとうございました!今日はどうしてここに?」
    どうやら“ウルフ”と呼ばれるのがイヤな様だ。というかどうして目の前にいるのだろう、確かにまた会えたらいいなとは思ったが。最近自分の運を疑うようになった。
    「どうしてって…なんでお前に言わなきゃなんねーんだよ」
    「そっそうですよねー、アハハ…。そう言えばこの前渡したクッキー、お口に合いましたか?」
    少し出しゃばりすぎた…、誤魔化す様にこの前のクッキーの感想を聞いてしまった。
    「あー…。美味かった…」
    「えっ!本当ですか…!よかった。ありがとうございます!」
    正直自信はなかったが、少しでも食べて貰えて嬉しいと思ってる自分がいる。
    そんなやりとりをしていたら、後ろから自転車が来ている事に気付かなかった。
    自転車はすぐ横を通り過ぎていき、転びそうになってしまった。
    「うぉ!あぶねーな」
    転びそうになったところを“ウルフ”さんが受け止めてくれた。少しドキドキしている自分がいる。
    「あっ!ごめんなさい!ありがとうございます…」
    慌てて離れるが、心臓のバクバクが止まらない。おかしい、と言うかまた助けて貰ってしまった。これは流石にしっかりとしたお礼をすべきだろう。
    「あっ、あの!」
    「ん?」
    「私、ケーキ作って来ます!さっきも助けて貰ったから…。食べれなくてもいいから受け取ってください!」
    「はぁ?!なんでだよ!俺は助けた覚えねーよ」
    確かに彼は助けた気はないかもしれない、だが言ってしまった以上ここで引き下がれない。
    「覚えがなくても良いです!とにかく明日の19時、この場所で待っているので!気が向いたら来てください!それじゃ!」
    「おい!」
    勝手に約束して、走ってその場を後にした。
    やってしまったとも、これでよかったとも思った。駅まで走りながら自分の気持ちに気付いてしまったことを少し後悔した。






    ◇◇◇side CHARISMA house◇◇◇

    「いおー、メシなにー?」
    「おかえりさるちゃん、今日は和食でーす!」
    猿川が帰宅と共に晩ごはんを聞きながら依央利に上着を渡した。
    いつもの様に上着を受け取った依央利は、瞬時にいつもと違うことに気が付いた。
    「ねぇさるちゃん、香水の匂いがするんだけど…」
    「えっ?あぁアイツか…。なんか変な匂いすると思ったら」
    まるで浮気を見抜く妻の様な鋭さだった。
    「アイツ?誰それ?何処の馬の骨?」
    「この前俺にクッキー渡して来たヤツだよ、今日も見かけてよー。転びそうになったから受け止めた時に匂い付いたんだな」
    「はぁ…?まださるちゃんに付いて回ってんの?しつこくない?ただ1回助けただけでしょ?何勘違いしてんの?意味わかんないだけど」
    依央利は早口気味に怒っている。
    「しかも、明日の19時にケーキ作って待ってるって言われた。断る前に走って逃げられた」
    「はぁ?!?!なにそれ!!?!さるちゃんのこと狙ってるじゃん!?」
    依央利ヒステリック、猿川は頭を掻きながら思った。一歳上の幼馴染で恋人の依央利は怒るとめちゃくちゃ怖い。怒鳴るとかそういうものじゃなくて、シンプルに嫉妬が恐ろしい奴隷。ねちっこくて病み病みで、俗に言うヤンデレというやつだろう。流石服従のカリスマと言うべきか。
    「いお、まずメシ。腹減った」
    「かしこまりっ!ちょっと待ってね」
    そう返した依央利は口調こそいつも通りだが、台所に戻る際もブツブツ何か言っている。猿川は珍しくため息を付いた。

    昔からそうだった。依央利はいつだって猿川の一番じゃないとイヤだった。二人が学生の時、猿川に明らかに好意を持っているであろう女子生徒に依央利が盛大にマウントを取った事もあった。
    互いに普通とは違う関係というのは理解している、二人揃って依存していることも。

    猿川が風呂から上がり、リビングに戻ると依央利は洗濯物を畳んでいた。
    「いお、風呂上がった」
    「早かったね、こっちに来て。髪の毛乾かしちゃうから」
    依央利は最後の一つをたたみ終えると、テーブルに置いてあったドライヤーをもって自分の座っているソファの下に猿川を誘導した。
    猿川は反発することなく大人しくその場所に座る。ゴォと音を立ててドライヤーが動き出し、その風に合わせて依央利は猿川の髪の毛を乾かし始めた。
    「さるちゃんの髪、本当に柔らかいよねー」
    「柔らかくねーよ、つか乾かす度に言ってるじゃねーか」
    「だって、本当のことだし」
    依央利は手で髪の毛を梳きながら言った。
    この時間は猿川にとって一番眠たくなる時間だった。風呂に入って身体が温まっているせいか、依央利の手付きが優しいせいか。猿川はその理由を知っている。
    「さるちゃんさー」
    「あー?」
    「明日行くの?何処ぞの馬の骨のところに」
    「さぁな、いおはどうして欲しいんだ?」
    猿川は依央利に問いかけた。
    『俺に命令するな、自分の生き方は自分で決める』なんていつもは誰にだって反発してるが、幼馴染で恋人の依央利には別な一面を見せる事が稀にあった。
    少しの沈黙のあと、ドライヤーを止めた依央利が口を開いた。
    「もちろん行って欲しくない。僕はさるちゃんの奴隷で、恋人だもん。そんなクソみたいなモノを貰ったら、僕が居る意味ないじゃん…」
    「じゃあ一緒に行くか」
    「……はぁ?」
    行って欲しくないと伝えたら一緒に行くかという目の前の幼馴染兼恋人はどの様な神経をしてるんだろう…、依央利は頭を抱えた。
    「さるちゃんって、そういうところあるよね…。この前の結婚式の件もそうだよ、何故ぶっ飛んだ考えになるんだよ…」
    「バカ違えよ!マウント取りに行くって意味だよ!いお、そういうの得意だろ」
    猿川はそう言って依央利にニヤリと笑いかけた。
    猿川の言葉に依央利は目を見開き、その直後笑い出してしまった。
    「さっすがさるちゃん!僕のこと一番わかってくれてるね」
    依央利は嬉しくなってしまって、猿川の頭を思い切り撫でた。先程乾かした髪の毛がサラサラしている。
    「だー!撫でんじゃねー!子供扱いするな!」
    この前と同じ様に依央利の手を避けた。
    依央利は嬉しくなると猿川の頭を撫でる癖があった。お兄さんぶっているがたった1歳差である。
    「誰がさるちゃんの隣なのかわからせてあげないと…。明日が楽しみだなー!って事でさるちゃん、また一緒に寝て良い?」
    「なんでだよ!別にいいけど」
    「いいんだ、じゃあ速攻でお風呂入ってお風呂掃除も終わらせてくるから!寝ちゃダメだからね!」
    依央利は猛スピードでお風呂場へと向かっていった。明らかに機嫌のよくなった依央利を見て猿川は笑ってしまった。
    本当は行かなくてもいいし、なんなら依央利を連れて行く必要なんてない。ただ互いに誰のものなのか見せびらかしたいだけなのだ。
    猿川は依央利が戻ってくるまで気長に待つことにした。





    ◇◇◇ intersect ◇◇◇

    約束の19時になった。昨日はあのまま閉店間際のスーパーに駆け込み、慌てて材料を揃えて帰宅した。一番自信のあるシフォンケーキを作ってみた、前に作った時は友人達からは大好評だったものだ。
    ”ウルフ“さんの返事も聞かずに約束してしまったから、来るかどうかもわからない。ただ渡して一言お礼を言いたいのだ。
    『何度もありがとうございます、今度はご一緒にお茶でもどうですか?』
    これは次の約束の口実でもある、自分本位なのは見なかった事にしよう。
    腕時計を見ると19時を少し過ぎた頃、あと少しだけ待ってみて来なかったら帰ろう。そう思っていると、向こうから足音が聞こえて来た。あの時と同じ様に街灯あるこちらに近づいて来ている。
    少し小柄で、目立つピンク色の髪と派手なジャケット。間違いない、“ウルフ”さんだった。
    ただ足音は彼一人だけでは無かった。
    隣にいるのは彼より少し背が高く、小柄で夜空の様な髪色をした人だった。
    ”ウルフ“さんはこちらに気付くと足を止めた。隣の人も同じように止まり、こちらをしげしげと見つめている。そんなに変だろうか…。
    「あっ…来てくれたんですね、ありがとうございます。昨日は勝手に約束してごめんなさい」
    てっきり一人で来ると思っていたから、動揺が隠せないが一つ一つ言葉を発していく。
    「おー、こっちの都合も確認しないで勝手に約束しやがって…」
    “ウルフ”さんは少し不機嫌そうに頭を掻きながら言った。
    「そうですよね…、ちなみに隣の方は…」
    「僕?依央利って言います!“ウルフ”の幼馴染でーす」
    「ウルフって呼ぶんじゃねーよ!」
    “ウルフ”さんは自己紹介した幼馴染にすかさず蹴りを入れた。
    「ありがとう!ってなんて紹介すればいいのさー!」
    依央利と名乗った幼馴染は語尾に絵文字が着きそうなトーンで抗議している。

    自分の頭が大混乱を起こしている。なんで幼馴染が一緒にいるの?ていうかこの人蹴られてお礼を言ってなかった…?
    自分の思考を置き去りにして二人は自分達の世界に入り込もうとしている様に見えた。まずいと思って本題を切り出した。
    「あの、これ伝えてたケーキです!美味しくないと思うんですけど頑張って作って…」
    「ごめんね、さるちゃん僕が作ったケーキ以外食べれないんだ」
    「……え?」
    言い切る前に(それも食い気味に)幼馴染が答えた。
    「えっと…そうなんですか…」
    「そうなの!さるちゃんは、僕の作ったもの以外食べないもんね☆」
    「おー、そうだな」
    とりあえず私の作ったものは食べれないと言われた事がわかった。
    「せっかく作ってくれたのに、申し訳ないんだけど…それは受け取れないし、こういう事はもう二度とやらないで欲しいんだよね。さるちゃん困っちゃうから」
    「あっ…すみません」
    「あと、“ウルフ”って呼ばないであげてね!さるちゃんすごく嫌がるからね」
    畳み掛けるような口撃に、言葉を失う。もはやどうしていいかわからない。
    「つーわけだから、二度と待ち伏せすんな」
    ピンクの髪の人の更なる追い討ちにもう何も言えなくなった。
    「じゃ、さるちゃん帰ろうか」
    「おう、いお腹減った。今日のメシなに?」
    「今日はねー、ハンバーグだよ!さるちゃん好きだもんね!」

    完全に二人だけの世界に浸りながら自分の目の前を通り過ぎていく。小さくなっていく二人の背中を見ていると、青色の髪の毛の幼馴染と目が合った。こちらの視線に気が付いたのかニヤリと笑って視線を前に戻した。

    嵐の様な出来事に呆然とするしかなかった。考えられない頭で最初に思ったのは、自分が失恋したこと。そして盛大にマウントを取られたという事実だった。どうする事も出来ず、手に持ったケーキの箱をただただ見つめていた。






    ◇◇◇おまけ◇◇◇

    「いお」
    「なぁに?」
    「お前やっぱり変わってるよな」
    「さるちゃんこそ、そのままその言葉を返してあげるよ。そもそもさるちゃんが反発してクッキー貰ってなければこんな事にはならなかったんだからね!」
    「だー!うっせーな!つかなんで知ってんだよ!」
    「何年一緒にいると思ってるの?さるちゃんのやりそうな事、言いそうな事、全部お見通しだから」
    二人で歩きながら家を目指していた。いつもなら18時までに帰っていないとハウスの風紀委員が笛を鳴らし続けるのだが、
    『さるちゃんが19時に喧嘩売られてるから僕も一緒に行って止めて来ます!あとついでに買い忘れたものもあるから買いに行って来ます!20時までにはちゃんと戻るから!理解くん、お願いします』
    依央利が理解を言いくるめて(ほぼ一方的に)家から出かけたのであった。
    「さるちゃん、あとでコンビニ寄って。なんか買っておかないと理解くんに詰められる」
    「本当めんどくせーな…」
    そこから少しの沈黙、コンビニまではまだ距離があった。
    「ねえさるちゃん」
    「あ?」
    「僕さるちゃんのこと、すっごく大切だから」
    「…はぁ?なんだよ改まって」
    「なにその反応!せっかく言葉にしてあげたのに!さるちゃんは?僕のこと大切ー?!」
    「うるせー!絶対に言ってやんねー!」
    猿川の反発に依央利は笑った。それに釣られて猿川も笑っている。




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