センチネルバース ゾーン編「深町くん!しっかりして!深町くん!!」
「おい、深町!大丈夫か?!」
必死で呼び掛けても反応の無い深町に、焦りが募る。ミュートである健司には、ただの気絶に見えているのだろうが、ガイドである彰良には、これがそうではないことが理解ってしまった。
───ゾーンに陥っている
会話を聞き取ろうと耳に集中していたせいで、急に聞こえた大声に、しかも嘘で歪んでいた為に、精神が耐えられなかったのだ。
「…健ちゃん、車回して!」
「おう、病院か?」
「違う。これはゾーンだよ。ガイディングする為の場所が欲しいんだ。だから…」
「わかった。すぐ戻ってくるからな!」
ダッと流石の速さで駆け出した健司が、あっという間に見えなくなった。この分なら、言葉通りすぐに戻ってきてくれるだろう。
「深町くん…」
青を通り越して、真っ白な顔をした深町を見つめる。少し集中すれば、折角治ってきていたと言うのに、またぐちゃぐちゃに乱れてしまった彼の精神が感じ取れた。自分はシールドを貼っているのにも拘らず、気をしっかり不安定な精神に引きづられそうになってしまう。
(──これが、ゾーン……)
これまでガイディングを通して伝わってきていた、彼が日常的に受けている負荷とは段違いだ。明らかに、一線を画している。
いつも通りのケアは、とてもでは無いが望めそうに無かった。
今の深町には、ガイドを受け入れるだけの余裕など存在せず、傷ついた自身の心を制御できずにいるのだろう。
自発的に受け入れてくれないセンチネルをケアするのは、ガイドとしてもひどく疲弊する行為だ。
ゾーンに陥ったセンチネルへのケアは、強化ガラスを素手で殴る様な、暴風の中を逆らって進んでいく様な、そんな一歩間違えれば、ガイドも精神的に酷く傷つく可能性がある危ういものだった。
この様な場合に重要だと言われているのは、どれだけそのガイドとセンチネルに信頼関係があるのか。ガイディングでの、お互いの相性の良さ。そして、いかにガイドがそのセンチネルを理解しているか、の3つだ。
必死で、深町のために調べ直したガイディングの情報を思い返している彰良の耳に、クラクションが飛び込んできた。
「彰良!悪い、待たせたな」
「ううん。大丈夫、ありがとう。あっ!深町くん運ぶの手伝ってくれる?」
「おう。後ろに寝かせりゃいいんだな?」
「うん、お願い。それから、悪いんだけど健ちゃんは…」
「わかってる。連絡があるまでどっかに行ってるから、俺のことは気にすんな。今はこいつのことだけ考えてやれ。治してやれんのは、お前しかいないんだろ?なら、そんな情けねぇ面してんじゃねえ!」